16.”おはなし”、しようか
「本部からの返答は?」
日が暮れるのが早くなり始めた秋空の下、現場指揮車に入って来た男に尋ねる。
「まだ何も公表するなとしか……」
辺りが赤く染まっているのは夕日のせいか赤色灯のせいか、それがわからない台数の警察、消防、救急の車両が駐車場を埋めている。
「テレビ局へは根回し出来ましたがSNSを中心にネット上では今回の騒動が取り上げられています」
「対策は後手後手……インターネット恐るべしだな」
現場周辺の規制は行ったが現場は港と海上、対岸から望遠カメラを使えば撮影は可能だろう。
「話し合いのほうはどうなった?異星人か異世界人か知らんがファーストコンタクト失敗の責任は取りたくないんだがな……」
「そちらについても検討中としか」
はぁ、と判断の遅さにため息が出る。誰も責任を取りたくない結果上へ上へと確認を行う、この国の悪いところだ。
「向こうは武装しているんだ、早く回答するようお上に――」
ブ-ブー
指示を出そうとした時、胸ポケットから独特の周期でバイブレーションが鳴る、電話だ。
「噂をすればそのお上だ」
画面を見ると警察本部長の名前、まさかのレイヤーからの連絡だった。
「もしもし、五十嵐です」
『今回の案件、我々警察は現場周辺の規制のみ行うこととなった』
開口一番飛び出してきたのは予想していたよりスケールの小さい内容だった。
「話し合いの対応などはよろしいのですか?警察が動かないとなるとどこが……」
先ほどまでは聞こえていなかったバリバリという音が聞こえてくる。
『武器には武器をという判断なのだろう』
音の発信源を確認しようと指揮車を出るとすでに着陸態勢に入っていたティルトローター機そこにはいた。
『この件は防衛省が引き継ぐこととなった』
ダウンウォッシュにより周囲の木々が激しく揺れるほどの風の中、3人の男が下りてきた。
「浜松から名古屋だと乗った気にならんな、今度はもう少し遠くまで行けるといいんだが」
「こんなことが起きないようまずは祈ってください」
何やら話をしている前を歩く2人と目が合う。
軽く会釈をして彼らのもとへと向かう。
「防衛省の方ですか?私今回の騒動で現場の指揮を行っている警察の五十嵐です」
敬礼をすると3人も返礼する。
「防衛省、浜松技術研究所、所長の弥富だ、こちらが技術主任の中島、こっちが連絡員の佐々木だ」
「どうも」
あいさつに合わせ名刺を受け取る。
「すみません、名刺持ち合わせていなくて」
「現場職だと持ち歩く機会ないですよね」
連絡員と言われていた佐々木さんがフォローしてくれる。
その後ろではヘリから多くの機材が降ろされていた。
「中島主任!こっちの機材はどこに?」
ではまたとだけ言い、中島さんはヘリの方へ引き返していった。
「で、ネットで話題になっている人型の機動兵器ってのはどこに?」
「ああ、案内します」
ヘリを駐機した場所から少し歩きまずは警察の指揮所を案内する。
「ここが警察の指揮所です、警察署近くですが警察、消防、救急、海保の連携の兼ね合いで屋外に設置しています」
弥富は周りをぐるりと見渡しただけで特に何も言わなかった。
「では次に分庁舎のほうへ案内しま―」
「引継ぎのつもりなら何もしなくていい、特に何もしていないんだろう?」
時間の無駄だと言いたげな表情で言葉を差し込んでくる。
「え、ああ、わかりました、では現場のほうへ案内します」
背中から無言の圧力を受けながら現場近くの規制線をくぐる。
現場に近づくとロボットの一部が見え始める。
「あれが……」
つぶやく弥富を無視し、ある程度全景が見えるモニュメントのある広場に向かう。
そこから見える状況は事件の起こった5時間前とさほど変わりはなかった。
「簡単に状況を説明します、手前にいる機体、あれが足元にある植物のような化け物と戦闘を行った機体です、パイロットは機体を降り、足元にいた民間人の介抱を行っていました」
よく見ると機体の足元には警察が提供したであろう毛布とアルミホイルのような断熱シートが見えている。
おそらく民間人と共にまだコックピットの外にいるのだろう。
「次にその少し奥にいる機体、あれがおそらく指揮官機であの機体から話し合いを要求されました、その後要求などはなく周囲の警戒を行っているようです」
よく見ると持っている頭部は常にこちらを追尾している、警戒は説いていないようだ。
「最後に海上に1機いますがこちらについては詳細は不明、おそらく2機のバックアップをしているものと思われます」
「そうか、奴らとの連絡方法は?」
弥富はロボの方を向きながら聞いてくる。
「こちらのチャネルに合わせて通信を行ってきています、連絡するのであれば一度本部へ」
本部へ戻るよう促し本部へ歩みを進めようとしたが弥富は動かなかった。
「面倒だな、佐々木、用意したものは?」
「はい、こちらに」
持っていたカバンから取り出したのは拡声器だった。
「いや、え?弥富さん何を?」
「会議室を一部屋押さえておけ」
そういうと拡声器のスイッチを入れる。音量が大きかったのかキーンとハウリングの音が周囲に広がる。
『あーあー、パイロットに告げる、私は防衛省、浜松技術研究所、所長の弥富だ』
「何やってるんですか、相談もなくこんなこと」
止めに入ると佐々木が間に入り止めてくる。
「すでにこちらの指揮権は我々防衛省のに移っています、また現場での判断は弥富所長に一任されていますので」
だから我々には向かうな、ということなのだろう。
「だからと言って、無茶苦茶だ……」
「弥富所長はそういう方ですので」
しゃべるのを止めていた弥富がチラリとこちらを確認し目で余計なことをするなと伝えてくる。
『遅くなってすまない、私がこの現場を指揮する代表だ、さぁ、話し合いを始めようか、異世界人』




