1.目が覚めるとそこは...ここどこ?
気が付くと俺、成田夕は見知らぬ土地に立っていた。
-本当に知らない場所か?-
「なんだここ…鳥取砂丘か?」
わざとらしく思い浮かんだ似た場所をつぶやく。
砂埃が舞い遠くまでは見えないが、見渡す限りは荒野が続いていた。
「海が近くにないし違うか、それに地面も砂というより…」
地面を軽く蹴る、さらさらした砂ではなくごつごつとした岩、昔見た小惑星探査機のカプセルが帰還した場所に似ていた。
「うーん…ということはここはオーストラリアか?、寝ぼけて?酒に酔って?こんなところまで来るとは思えないが…」
まあリアルな夢だろうと考えながら改めて周りを見渡す、やはり砂埃で遠くまでは見られない。
「あれ、あそこ今光ったか」
砂埃で見え隠れするが、少し離れた場所で火の揺らめきが見えた。
「火があるなら人がいるかもしれないな」
めぼしい目印はそれぐらいだったのでそこに向かって歩く。
「ロボット?」
1kmほどだろうか、たどり着いたそこには燃えたロボットが座っていた。
「大体10mぐらいのサイズか?MSというよりはACみたいなサイズ感だな」
知っているロボが出てくる作品に落とし込むとfAほどのサイズはなく、Vや6ぐらいのサイズだろう。
「だがどこがこんなものの開発を…」
機体に近づき識別マークがないかを探すが見当たらない。
周囲も確認したが人がいる気配もなかった。
「はぁ、なんだよもう」
人がいるかもという見当が外れたことで、どっと疲れが押し寄せ来る。
普段歩かないこと、舗装されていない道だったこともあり、足が悲鳴を上げていたため安全そうな廃材に腰掛ける。
「とりあえずどうするかなぁ」
いまだ燃えているロボットを見ながら考える。
仮に夢ならいつかは目が覚めるだろう、だがもしこれが現実だったら…
「いや、現実にこんなロボットないだろ、となると夢か?」
ロボットには興味をひかれるが燃えているのではどうしようもない、歩き疲れてのども乾いてきたが飲み物もない。
「詰んだな」
夢なら軽く頭をたたけば目が覚めるだろう、何かの漫画で呼んだ知識を自分で試す機会が来るとは思わなかった。
「なんかいい感じの棒を…」
座っている場所から手の届く範囲にちょうどいい木の棒が落ちていた、これを手に取り―
―スル
木の棒は手から滑り落ちた。
「あっれ、そんなに疲れてたか」
もう一度手に取ろうとすると
―スル
「ッーーー!」
木の棒が動き始めた、棒のように見えていたそれは軟体動物の触手のように動き地面に潜っていく。
声にならない悲鳴を上げその場からダッシュで逃げる、まだこんな体力があったことに驚きつつも息を整える。
「まって、いや、ほんとムリ」
触ってしまった右手を水の代わりに砂で洗う。
砂漠では水が貴重なため砂で洗い物をする、本当かどうかわからないがこれも何かの漫画の知恵だ。
「なんなんだよあれ」
息が落ち着き思考が回り始める。
外見はほぼ木だったが動きはミミズやタコ、イカの触手のような動きだった。
「もう、夢なら覚めてくれ」
心の底からそう思った、するとゴゴゴと地響きのような音が聞こえてきた。
「願いが通じた!?」
期待は一瞬で砕かれた、先ほどの触手の100倍はあるであろう触手が岩を割り、地面から現れた。
「あぁー…終わった」
触手に意思があるかはわからない、だがこちらに敵意があることだけはひしひしと伝わって来た。
「勘弁してくれよ!」
振り返り触手から距離を取るように走り出す。触手は自らを伸ばし迫ってくる、木の枝のように見える触手は想像よりも早かった。
振り返りどこまで迫っているかを確認するとすでに目の前だった。
死、それを実感したところで見落としていた足元の廃材でけつまずきこける。
幸か不幸か、こけたことにより触手の攻撃を避けることが出来た、が頭を強打する。
「いって、血が…」
頭からは血が流れている、心臓の鼓動に合わせ流れ出る血がこれは悪夢ではないと告げている。
「死ぬのか」
頭を打ったことで意識がもうろうとする。
先ほど攻撃を外した触手は体勢を立て直しこちらを見ている、いつでも殺せるぞと訴えているように。
「あーあ、こんなことになるなら玉砕覚悟で告白すればよかったな」
死ぬ間際に思い出したのは同じ会社に勤めていた女性、天田天だった。
気になってはいたが死の間際に思い出すほど好きだったとは自分でも思っていなかった。
「もし帰れたら…」
告白してみよう、そう思ったが口には出さなかった。触手が動き始めこちらに向かってきているのが見えたからだ。
「こんな終わり方ありかよ」
知らない場所で、知らないやつに殺される、とんでもないバッドエンドだ。
もし来世があるのなら、もっといい人生を歩みたい…、そう思い目を閉じる。
ドン!という音が聞こえた、爆発ともとれるようなその音は俺に突き刺さった触手の音だろうか、不思議と痛みはなかった。
「死ぬってこんなものなのか」
そうつぶやく自分の声が聞こえる、自分の声が?
目を開けると目の前に迫っていた触手は、自分から少し離れた場所にいた。
「なにが」
そうつぶやいた時、触手に何かが当たり3度の爆発、少し遅れてからドン!という音が3度聞こえた。
「砲撃?」
その音は昔、自衛隊の駐屯地祭で見た戦車の砲撃を思い出させる音だった。
『ナリタさん!大丈夫ですか!』
突如俺を呼ぶ声が聞こえた。空を見上げるとそこには燃えていたロボットとはまた異なるロボットが降下してきていた。
砂埃を上げ俺と触手の間に着陸する。
『ちょっと!頭から血が出てるじゃないですか!あいつすぐ片づけますね!』
スピーカー越しの声は少女のような声だった、空から降りてきたロボットは手に持っている銃を再度3発発射、先ほどと同じドン!という音が鼓膜を揺らす。
「こいつの音だったのか」
触手側も体勢を立て直したのか2発は回避、3発目は複数ある触手のうち1本を犠牲にロボットへ突っ込んでいく。
ロボットは手に持っていた銃へ、腰についていた短剣のようなものを取り出し着剣。その間に迫って来た触手をバックステップで回避。すかさず銃剣で触手をいなし最も太い本体であろう触手へ銃剣を突き刺し射撃、触手から血のようなものが溢れ出る。
触手が暴れ後退しようとするが深く突き刺さった銃剣は触手から抜けない。
仕方なく銃剣を手放し後退するロボット、触手はなおも暴れているが銃剣は抜けないでいた。
『あんまり好きじゃないんですが...』
苦虫をかみつぶすような声がロボットから聞こえる、それと同時にロボットは背中にマウントされていた刀のような武器を取り出した。
その動きに気が付いたのか触手も銃剣を振りほどくのをやめロボットに相対する。
一瞬時が止まった気がした、気が付くと両者同時に動き出す。リーチの長い触手が数本の触手を前に出しロボットを突き刺そうとする。ロボットはそれをいなし本体へ近づく。
『とらえた!』
声が聞こえたときにはロボットと触手はすれ違っていた。
ロボットが刀を一振りし、汚れを払うと触手はその場に崩れ落ち動かなくなった。
「すげぇ」
大きいロボットが触手の化け物と戦う、映画やアニメでしか見られない光景を目の当たりにし自然と言葉が出ていた。
ロボットは触手に突き刺さった銃剣を抜き取りこちらに近寄ってくる。
『ナリタさん!頭のケガは大丈夫ですか!』
ロボットに搭載されているスピーカーから少女の声が再度聞こえてくる。
その声で頭のケガを思い出し負傷した部分に触れる、不思議と痛みはなかった。
「異世界転生的なチート能力か!」
と思ったのもつかの間、その場に倒れこむ、頭から流れてきた血で視界が赤く染まる。
ああ、触手に襲われたのとさっきの戦闘を見て興奮したからか。
アドレナリンで痛みがわからなくなる、何かの漫画で得た知恵だ。
『ちょっと!大丈夫じゃないですよねナリタさん!』
少女の声色から焦りが感じられ、そこまで状態が悪いのかと驚く。
ロボットが近くまで来るとコックピットから少女がおり近づいてくる。
「今応急処置しますから!頑張ってください!」
意識が遠のく中、彼女の声、顔に想い人の面影を感じた。
「そ…ら…」
そこで意識は完全に途切れた。