第7話 優雅になる!
わたくしたちは村から見える森を目指して進む。
1時間くらいで到着し、安全のために周囲を確認する。
正面にはどこまでも続く森で、横と後ろは原っぱだ。
今は金剛月で日本の四月と似たような感じ、気温もちょうどよく過ごしやすい。
「それで、斧は買っても来なくても良かったんですの? 木を切る道具は持っておりませんが……」
わたくしはそう言ってティエラとマーレを見ると、ティエラが自信満々に頷く。
「そこは俺が作る。『鉄斧作製』」
ティエラがそう言って魔法を唱え、わたくしの目の前に土色の斧が現れる。
「これ、持ち手も鉄なんですのね」
わたくしは斧を拾い上げ、軽く振ったりして感触を確かめる。
優雅な貴族……元貴族令嬢であるわたくしでも軽々と振れる斧で、ティエラが頑張って作ってくれたと思えるととても嬉しい。
「火事が起きても溶けないし、適当なハンマーで10000回叩かれても傷一つつかない優れモノだ」
「そんなすごいものなのですね! 感謝して使いますわ!」
「売ったらいくらするんだろうとか考えるなよ」
「ティエラからもらった物を売るなんてあり得ませんわ」
「ありがとう」
ティエラはそう言うと恥ずかしそうに顔を赤らめている。
白い毛がほんのり赤いのだ。
「でもクレア、本当に僕たちは手伝わなくてもいいの?」
「ええ、これはわたくしがしたいからやっていること。2人にやらせることではないですわ」
今回こうやって危険な外にまでついてきてくれたのも、わたくしの我がまま。
それにさらに斧を振ったりして、伐採を手伝わせるなんていうことはわたくしには出来ない。
「そう。ならこの辺りで周囲を見張ってるね」
「ええ、よろしくお願いします。なにぶん初めてなので、時間がかかってしまうかもしれませんが」
「僕はゆっくりと待つから大丈夫」
「分かりましたわ」
マーレが気だるげに言うけれど、いつものことなので気にしない。
わたくしは少しでも早くと思って伐採する木を選定する。
「これでいいでかしら」
わたくしはちょうどいい太さの広葉樹に決めた。
木材に使うなら針葉樹の方がいいのは異世界の知識で知っているけれど、この辺りにはない。
なので広葉樹に向かって斧を叩きつける。
「優雅!」
ブン! カッ!
斧が木に突き刺さり、抜けなくなってしまった。
それでも、わたくしがやると決めたことなので、なんとか斧を動かしたりして引き抜く。
それから何度も何度も木に斧を叩きつけて切っていく。
「難しいですわね……」
「クレア。ちゃんと斧を握って、腰から振るんだよ。腕だけで振ってもやりにくいから」
「なるほど、本当ですわ!」
マーレの指導もあり、1時間くらいかかって、何とか1本の木を切り倒すことができた。
「うーん。結構……大変ですわね……。でも、この1本が優雅への道! わたくしは諦めませんわ!」
額に汗をかきながらの仕事もこれはこれで気持ちのいい物だった。
優雅に針仕事……というのもいいけれど、身体を使っての仕事も捨てがたい。
「クレア。ちょっといいか」
「ええ、なんでしょうティエラ」
「クレアって全属性の魔法が使えるだろ? なら、強化魔法を使って木を切った方がいいんじゃないかと思ってな」
「でも、魔法は教えてもらうまで使うの禁止なのでは?」
「ああ、だから今から教えようと思う」
「いいんですの!?」
「もちろん。じゃあ、まずはその斧を地面に置いて」
わたくしは言われるままに、斧を地面に置く。
それから、ティエラの魔法指導が始まった。
「いいか? 魔法を使う時に大事なのはイメージだ。だから、強化魔法なら、強化した身体を使って何をしているのか。っていうことを考える必要がある」
「なるほど」
「そして、詠唱は『身体強化』で行けるはずだ」
「やってみますわ」
わたくしは今までやってきた斧を振って木を切り倒す。
この想像をもっと簡単にできるように考える。
1時間もかかっていたのを、一振りで切り倒す。
それができればわたくしは優雅になれる。
いや、優雅になる!
想像と現実が合致したと思えたので、わたくしは詠唱を叫ぶ。
「『身体強化』!!!」
わたくしの身体が赤色に光り、なんだか全身に力が漲ってくる。
「え? もう成功したのか? 凄すぎるんだが!?」
「ティエラの教えが素晴らしいのですわ! 早速行きますわよ!」
わたくしは地面に置いてあった斧を拾い、近くの木に向かってフルスイングする。
「優雅!」
スコン!
綺麗な音と共に、先ほど切った木よりも太い木が簡単に伐採できる。
「すごい! すごいですわ! ティエラの教えてくださった魔法半端ねーですわ!」
「いや、それクレアがすごいだけ……」
「これはもっともっとガンガン切っていけますわね! 今日は1000本切って差し上げますわ!」
「それは流石に迷惑になるんじゃないか!?」
わたくしは一振りで木が伐採できるので、とても楽しくなってもっともっとと森の奥に入っていく。
スコン! スコン! スコン!
スコン! スコン! スコン!
スコン! スコン! スコン! スコン! スコン! スコン! スコン!
「あらよ! 楽しいですわ!」
汗をかきながらの伐採も良かったが、このテンポで切っていくのも楽しい。
世の木こりの方々はこんな楽しい仕事をしているのかと、ちょっと羨ましくもなる。
「クレア! あんまり奥に行くのは!」
「大丈夫ですわ! 切っていくだけですわ!」
スコン!
「コケ?」
「あら? ごきげんよう?」
木を切った時、今まで見たこともないニワトリのような大きな魔物がいた。