第52話 リザードマン
すみません。
頭痛がひどく土曜日の更新はお休みになります。
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「ここがそのお店ですわね」
わたくしはまたしてもルーシ―さんに助力を求めた。
図鑑等の本を売っている店を聞くためだ。
そして紹介されて来たのがこの『知識欲の蔵』という書店だった。
外観は小ぶりで煤けた味のある……木造の店だった。
「今にも潰れそうだねぇ」
「マーレ……わたくしが言わ……こほん。そういうことを言うものではないですわ」
「それよりも美味しい料理本とかあるかな? ララに買っていこう」
「あら、その案はとてもいいですわね。服の本があるならフィーネにも買って行きますか?」
わたくしがそう言うと、ティエラに止められる。
「そういうのは今度一緒に来た時にした方が楽しいのではないか?」
「確かに……ではまた今度にいたしましょう。ということで、失礼しますわ!」
わたくしはそう言って、今にも崩れ落ちそうな扉を開けて店に入る。
「いらっしゃい。どんな本が欲しいのかな」
男とも女ともとれるしわがれた声が店の奥から聞こえる。
わたくしは本がこれでもかと詰め込まれた棚の奥を見ると、相手の姿が目に映った。
「リザードマン……ですの?」
店の奥にはトカゲの様に全身緑色の鱗を持った人が座ってこちらを向いていた。
彼? 彼女? は上半身に黒い胸当てと、鼻先に小さな丸眼鏡をかけているだけだ。
丸眼鏡の奥、そのオレンジ色の瞳には好奇心が宿っている。
「おや、私の種族を見るのは初めてかな?」
「この街で何回かあるという程度ですわ」
「では話すのは初めてか。せっかくなのでご挨拶を、初めまして、私はゲイルと言う」
「初めまして、わたくしはクレア、こちらはティエラとマーレですわ」
「よろしく」
「よろしくー」
ティエラとマーレは軽く挨拶をすると、ゲイルさん(多分男性)は少し目を見張る。
「これはこれは……あなた方様はもしかして……」
「勘違いだ。俺たちはクレアの従魔。そして家族だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「そうだよー」
「なるほど。わかりました。それで、どのような書物をお求めですか?」
ゲイルさんはティエラたちと少し意味深なやり取りをしていた。
けど、まぁなんでもないということであれば気にしなくていいか。
必要があったら言ってくれるだろうし。
そして、わたくしはゲイルさんに近づきながら欲しい本を説明する。
「魔物の素材というか、利用法について書かれた本が欲しいのですわ」
「利用法?」
「ええ、わたくし、建築家なんですの。それで、建築に使える素材……できれば魔物だけでなく、木材や石材なんかもどのように建材として使えるかの本が欲しいのですわ」
「なるほど、そういうことならこちらです」
ゲイルさんは立ち上がって、壁際の棚を指す。
「この辺りの本は大体そうだねぇ。まず大体の素材でいいならこの本」
彼はそう言って辞書くらいある分厚い紫色の本を差し出してくる。
「読ませていただいても?」
「もちろん」
「ありがとうございますわ」
わたくしはそれを受け取り、パラパラと中身をめくってみた。
そこには確かに様々なわたくしの知らない素材や利用法が書かれている。
一応最後のページまで汚れや破れがないかも確認した。
「これはとってもいいですわね」
「本当かい? もっと詳しいのもあるけれど」
「見せていただいてよろしいですか?」
「こっちのだね。最近腰が痛くてね、自分でとってもらえるかい?」
「大丈夫ですわ」
言われたのは広〇苑のように分厚い本だった。
中の紙もかなりいいもので、触り心地もいい。
内容は先ほどの物よりもかなり詳しく書かれていて、産地ごとの特徴も網羅されている。
例えば以前倒したコカトリスに関しても、この近辺のものの羽はある程度固いのでかけ布団にちょうどよく、ここより南のものは柔らかいので枕によい。
などといったことがびっしりと書かれている。
パラパラと最後のページまで軽く確認した。
「これはすごいですわね。こんな本があるなんて」
「そうかい? でももっとすごいのもあるよ」
「これ以上なのですか!?」
わたくしはアコーディオンみたいな本が出てくるのかと思ったら違った。
「この世界の素材大全、全20巻あるからどれか一つでもとってみるといいよ」
「失礼します」
先ほどの広〇苑くらいの大きさの本と同じ厚さの本が20冊並べられている。
わたくしはそれを一つとって中をみると、驚くべきことが書かれていた。
「先ほどのに加えてイラストも書かれているんですのね。しかも解体方法に……産地ももっと詳しく書いてありますわ」
「ええ、それ以上に詳しい情報はどこにもないでしょうね。お気に召す物はありましたか?」
「全ていただきますわ」
「え? それなら最後のだけでも十分だと思うのですが……」
「そうかもしれません。ですが、発行年月を確認した所、最初に手にとった物ほど新しいものらしいんですの」
「それは……大全ほどのものはそうそう作られませんから」
「はい。ですが、情報自体は常に更新されると思うんですの。新しい発見や実は間違った知識といったことが新しいものであれば、書かれていると思うのです」
「確かにその通りです」
わたくしは、さらに思っていることを説明する。
「そして、わたくしは建築家になります。一ついいものがあればいいとそれで満足せず、多くの情報を少しでも取り入れていく。それはしなければならないことだと思うのです」
「なるほど、もしこの店が修理に必要な時は、あなたにお願いしてもよろしいですか?」
「そう言っていただけると嬉しいですわ。そして、その期待に応えられるように、勉強もしてまいりますわ」
わたくしはそれから金額を支払って店を出る。
金額としては10万レアード貴金貨ということで、べらぼうに高かった。
でも、それに見合うだけの価値はあるだろう。
日本ならもっと安いのにな……とも思うけれど、製本技術が確立していないこちらでは仕方ないのだろう。
日本が羨ましいと思う。
と、思うけれど、今は自分のことに集中しなければ。
「さ、帰って素晴らしいベッドを作る準備をしますわよ!」
「ああ」
「うん」
ということで、わたくしたちは家に帰る。
「今日は一緒に寝ないわよ?」
「………………」
わたくしたちは家に帰り、先に帰っていたフィーネにその話をすると、そんな言葉が返ってきた。
「そんな絶望した顔しないでよ……」




