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没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~  作者: 土偶の友@転生幼女3巻12/18発売中!


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第30話 あなたに着てほしい

「あれから3日経ちましたが……」


 建物の引き渡しというか、フィーネさんに作った倉庫を見せたあと、3日後に来てくれ、むしろそれまで来るな。

 ということをフィーネさんに言われていた。


 そして、今日がその3日後で、やっときた訳なんですけれど……。


「なんかめっちゃ並んでません?」


 わたくしは昼ちょっと前に『森妖精の羽衣』にティエラとマーレと一緒に来た。

 でも、店の前には多くの人たちが並んでいて、入るに入れない。


「これはまた今度にした方がいいのではないか?」

「だよねぇ、僕もそう思うよ。というか、早く『土小人のかまど亭』に行こう」

「マーレは食べたいだけではないですか……。ですが、流石に今はやめておきましょう」


 フィーネさんは今日と言っていたし、後でいいだろう。

 というか、夜でもない限りは流石に仕事の邪魔はできない。


 わたくしはそう思い、足を『土小人のかまど亭』に向けようとした時、『森妖精の羽衣』の扉が開く。


「はーい! 次の方ー……ってクレア! ちょっと待ちなさい!」

「ふぇ!?」


 何を食べようかなーと考えようとしている所に、フィーネさんの声が足を止めさせる。


 わたくしが振り返ると、フィーネさんはわたくしの手を掴んで引っ張ろうとする。


「ちょっとこっち来なさい……って、力強すぎよ! びくともしないってどうなってるの!?」

「あ、すみません。ステーキかハンバーグか悩んでいまして」

「服のことを考えなさいよ!? 服飾店で食べ物のことを考えないで!」

「それで、どこへ?」


 わたくしが彼女の行くままに進むと、そのまま店に連れ込まれる。


「あ、ティエラとマーレは……」

「入ってもいいわよ! あなたたち2人は入っても問題ないって店長から言われてる!」

「そうなのか」

「分かったー。食べ物ってある?」

「ないわよ! 服売ってるって言ってるでしょ!?」

「失礼しますわー」


 ということで、わたくしはごった返す店内に入ってかきわけ、そのまま奥の倉庫に連れ込まれる。


「さ! よく来てくれたわね! 早速これを着てちょうだい!」


 倉庫の奥、試着室がある場所で、フィーネさんは薄緑色のシンプルだけれど、丁寧な作りのドレスを見せてくる。


「え……これは……なんですの?」

「なんですのって……見てないの?」

「何がですの?」

「外にある人形の服はこれよ?」

「……まじですの?」


 わたくしは倉庫を裏からでて、ナ〇ちゃん人形の服を見る。


「本当ですわ~!」

「だから言ったじゃない」


 ナ〇ちゃん人形はとても綺麗なドレスをまとっていて、後ろのレンガもあいまってまるで物語のワンシーンのようだ。

 こんな大きなマネキンに丁寧な仕事が光る職人の技。

 優雅に映ること間違いなしの素晴らしいドレスだ。


「素敵ですわね」

「そう? ありがと。その素敵なドレスを最初に着るのはアンタよ?」

「? どちら様ですの?」

「アンタよアンタ。クレアよ」

「……どうしてですの!?」


 訳が分からない。

 このとても素敵なドレスをわたくしが!?

 確かに着れたら優雅だとは思っていた。

 本当に思っていた。

 けれど、いくらわたくしと言えど、ここまですごいドレスをわたくしが着てもいいのかどうか……。


 わたくしはそう言って悩んでいると、フィーネさんはヤレヤレと言った様子で首を横に振る。


「クレア。あなたがあたしを救ってくれたからよ」

「わたくしが……フィーネさんを?」


 一切心当たりがない。


「ま、そういうこと。だから、着てよ。あたしがここに来て、服を作るっていうことの一番大切なことを知って、服を作るあたしを救ってくれたあなたに着て欲しいの」


 そう真剣に言ってくるフィーネさんの言葉に、否とは言えない。


「ほんとうに……いいのですね?」

「ええ、あなたに着て欲しくて作ったの。お願い」

「わかりました。ではお願いいたします」


 ということで、わたくしは再び倉庫に戻って着付けもしてもらう。


「はい。サイズは見立て通りで大丈夫そうね? キツイ所はない?」

「ええ、身体を知られているようでちょっと怖いですわ」

「服を作ってるとぱっと見で分かるのよ。さ、これが姿見」


 フィーネさんがハイ、と姿見をわたくしの前に置く。


 そこには貴族の夜会に居そうな、今まで見たこともないくらい素敵なドレスを着たわたくしがいた。


「クレア。とっても美しいぞ」

「クレアが貴族のように見えるよー」

「元貴族ではあるんですけれど?」

「そうだったー。でもすごく似合っているよ」

「ありがとうございますわ」


 わたくしは2人に礼をして、それからフィーネさんの方を向く。


「うんうん。やっぱりあたしの作った服は素晴らしいわね! さ、クレア。その服を着て適当に街を歩いてきてね!」

「え? でもこれ売り物なのでは?」

「何言ってるの。それはあたしからのプレゼントよ。好きに使って」

「こ、こんな高価なものは……」

「いいから、あたしの気持ちだから。受け取って」

「フィーネさん……」

「本当に……似合っているわ。クレア」


 わたくしの言葉に、フィーネさんは優しく笑いかけてくれる。


 でも、すぐに恥ずかしくなったのか、顔を赤らめてわたくしの背を押す。


「さ、呼んだ理由はこれまで! 街を歩くのも5分歩いてくれればいいから! あたしは仕事なの! さ! 帰った帰った!」


 そう言ってすぐに倉庫から追い出される。


「じゃあね! 何かあったら来なさい! ……なくても来なさい! いつでも待ってるから!」

「ええ、わかりました。またお会いしましょう」

「またね!」

「はい。また」


 フィーネさんは扉をそっと閉めた。


「いい子だね」

「ええ、マーレ。とても素敵な……すごい方ですわ。立派な服……」

「だろうね。適当な貴族が着ている服よりも上等だよ。それ」

「なんと……では、フィーネさんの気持ちに応えて、立派にならないといけませんかしら」


 わたくしがそう言うと、ティエラが答えてくれた。


「その必要はないさ。クレアはもう立派だ。ただ、フィーネはクレアが喜んでくれれば、そう思っていただけだろう」

「それではもう……十分受け取っていますわ」


 わたくしはそれから街中を自慢するように歩き、多くの人目を引いた。

 彼女の服で人目を引けたことは、なんだか誇らしかった。


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