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没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~  作者: 土偶の友@転生幼女3巻12/18発売中!


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第25話 フィーネ

「少しよろしいでしょうか」


 わたくしは隣にいる少女に向かって話しかける。


 ちなみにティエラは少し離れた所で見守ってくれていた。


「……なに」


 ぶっきらぼうに彼女は口を開く。

 時折何かをすする音が聞こえるのは、聞き間違いではないと思う。


「わたくしはクレアと申します」

「そう……あたしはフィーネ」

「フィーネさんですね。はじめまして」

「……それで、なに」

「お話を聞きたいと思いまして」

「……」


 わたくしはそう言うけれど、フィーネさんは黙ったままだ。


「どうして先ほど店から飛び出して来られたのですか?」

「あんたには関係ない」

「そうでしょうか」

「……」

「フィーネさん。建物のことに関して、怒っておられたのではないですか?」

「なんで」


 彼女の声には驚きが混じっているけれど、顔は決して上げようとはしない。


「以前お話してくださったではありませんか。エルフは木と共にあるのでは?」

「……」

「それで、先ほど『森妖精の羽衣』の倉庫の修理……いえ、新築の話を聞いてきました」

「!」


 フィーネさんは遂に顔をあげ、真っ赤に腫らした目をわたくしに向けてくる。


「取り壊すの!?」

「……レンガの倉庫を建てて、雨漏りをできるだけしない物を建てて欲しい。そうお願いされましたわ」

「……そう。それは……仕方ないことよね……」


 わたくしは、フィーネさんが木で作れと要求してこないことに少しばかり驚いた。


「仕方ないことですの?」

「そう。だって木で作ると、やっぱり……高くつくの」

「初めて聞きました」

「そう? だってレンガは土で焼いてすぐにできるけれど、木は切り倒して、それを乾燥させたり結構時間がかかるでしょう? それに、木で作ったら定期的にメンテナンスをしないといけないし、倉庫なんて大きな物にそればっかりはやっていられない。だから……仕方ないの」


 フィーネはそう言って、とても悲しそうに笑う。


「でも、『森妖精の羽衣』は伝統があって、とても多くの人が訪れるというのではないんですか? それなら、たくわえもあったり……」

「それがね。そうでもないの。エルフ伝統の服を古臭い……っていう人もいるし、他の種族の人たちは自分の服を着るし。だから業績も落ちていて……。本当はもっとお店も街の中央にあったんだ。だけど、そこを売らなきゃいけなくなることもあったりして、それで……今の場所に移ってきたの」

「そんな、フィーネさんの服はとても素敵だと思いますわ。自信を持ってください!」


 わたくしは本気でそう思っている。

 だけれど、フィーネさんには届かない。


「ありがとう。そういってくれるだけで嬉しい。でも、どうにもならないこともあるの」

「……」

「ふぅ……言ってて仕方ないって……わかっちゃった。聞いてくれてありがとね。仕事戻らないと、ああ、そうだ。また来てね。サービスしてあげる」

「あっ……」


 フィーネさんはそう言ってお尻をパンパンとはたき、『森妖精の羽衣』の方に戻っていく。

 その際、わたくしの方には顔を見せないように注意して。


「……」


 しかし、わたくしはそれをただ見送ることしかできなかった。

 彼女を呼び止めたとして、何ができるのか。

 わたくしが勝手に木で作ると言う?

 お客様の要望を無視して、勝手にやってしまう。

 そんなことはするべきではありません。


 その程度の分別はつきますが……。


「どうしたら良かったのでしょうか……」

「クレア」

「ティエラ……お恥ずかしい姿を見せてしまいましたわ」

「そんなことない。クレアの優しさは見ていた俺が知っている」

「ありがとうございますわ。しかし、まずは一度……家に帰りましょうか」

「そうだな」


 ということで、わたくしたちは一度家に帰ることになった。

 その道中も色々と考えを巡らせる。


 実際にあの場所を綺麗にして、それから新しい倉庫を建てるまでは時間がある。

 だから、なんとかして、どちらの意見も納得させられる答えを見つけなければ。


「クレア。飯を買っていこう」

「ええ……」


 わたくしは考えを巡らせながら、ティエラの言葉に適当に頷く。


「お、じゃあいつもの店でいいか?」

「ええ」

「こっちだ」


 わたくしはティエラに引っ張られるままに、店に入っていく。


「メニューはなにがいい?」

「ええ」

「何がいいかと聞いているんだが……」

「ええ」

「……なんでもいいか?」

「ええ」


 それから少しすると、わたくしの目の前に熱々の料理が置かれた。


「ん? あれ? わたくしなんで食事に?」

「俺が誘ったんだ。覚えていないか?」

「え……覚えていませんわ」

「そうか、まあなんでもいい。飯を食べよう」

「しかしマーレ抜きで食べたなんてこと……」

「大丈夫だ。いいから食べよう」

「でも」

「いいから、お嬢ちゃん。この料理はなんて料理だったっけ? クレアに説明してくれないか?」


 ティエラは静かなドワーフの子に聞く。


 彼女はゆっくり頷くと静かに話し出す。


「それは肉と魚のパイです。最初にそれぞれ調理して、後から混ぜ合わせて焼いたものになります」


 淡々と話す彼女の言葉に、わたくしは電流を流されたような感覚を味わっていた。


「そうですわ……」

「どうした?」

「これですわ! これで解決できるかもしれません!」


 これならば、もしかしたら……両方の意見を上手く対処できるかもしれない。


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