第21話 魔道具店
ベッドを完成させたわたくしたち。
日が頂点に登ってちょうど12時といった所だろうか。
これならまだ間に合いそうだ。
「さて、それでは早速、仕事を受けに……」
「クレア」
「なんでしょう?」
マーレがとても寂しそうな目をわたくしに向ける。
「あのね」
「はい」
「お腹減った」
「そ、そうですか……」
昨日の夜にあれだけ食べたし、朝もそれなりに食べたと思ったのですけれど……。
まだ必要だったみたい。
「では、狩りにいくべきですかね」
「あれ? お金はもうないの?」
「ええ、布団を買うのに使ってしまいましたわ。ああ、それに、マジックバッグも買いたいのですが、いくらかかるか……」
「あーそうか」
前回ロックゴリラの肉を持ってきた時に目立ちすぎてしまった。
そうはならないように、ルーシーさんにマジックバッグを買うことを勧められた。
なので、今回はそれを買いに行きたいのだけれど……。
金額的に買えるかわからない。
いくら庶民感覚とずれているとはいえ、きっと魔道具の値段は高いはず。
そうそう買えるものではないと思う。
「でも、値段の確認はしておくべきじゃない?」
「それも……そうですわね。では山に行く前に一度探しに行きますか」
「うん。でも、1つお願いしてもいい?」
「なんですの? マーレ」
「実は、そろそろ魚が食べたいんだよね」
「はぁ」
「だから、マジックバッグの店にいって、それから海に行きたいんだ」
「でも、わたくし、泳げませんわよ?」
「そこは僕がなんとかするから」
「なるほど、わかりましたわ」
ということで、わたくしたち3人は街中を通り、海に向かう。
その途中、ルーシーさんに会いにいって、いい魔道具のお店を紹介してもらった。
「ここがいいそうですわ」
わたくしたちが店に入ると、中には貴族の服をまとった人や裕福層な商人ばかりだ。
それ以外の人は店員らしき人しかいない。
店について言及するならば、広さは小学校の体育館くらいだろうか。
長い机が何台も置かれ、その上にはキレイな魔道具が等間隔に置かれていた。
「なんとも場違いな感じが……」
「クレアも元貴族なんだから間違ってはいないぞ」
「ティエラ、ありがとうございます。そうですわね」
わたくしはティエラの言葉に励まされ、頷いて中を優雅に歩いていく。
魔道具を見ると、その隣には説明が書かれた紙が置かれている。
ちゃんと見やすいように斜めに置かれていて、美しいたち筆だ。
「えーと、なになに。この魔道具は撥水性の高いアクアジェリーフィッシュで作られてる布で……これはいりませんわね」
「それ美味しいのかな?」
「ジェリーフィッシュってクラゲですわよね? どうなんでしょう……」
クラゲを食べたことがないので、美味しいかどうかわからない。
でも、食べてみたい気持ちはちょっとある。
「せっかくだし、捕まえてみるかな……」
「マーレ。今はそれよりもマジックバッグですわ」
「お客様はマジックバッグをお求めですか?」
そう言ってわたくしに話しかけてくるのは、ピシリとスーツを着こなした女性の店員だった。
とても柔らかい笑顔で、笑いかけてくれる。
「ええ、マジックバッグを持った方がいい。ということを言われたので、いくらくらいするのかの確認に来たのですわ」
「なるほど、ではこちらへどうぞ」
彼女はそう言って、わたくしたちを先導してくれる。
「こちらに並んでいるものは全てマジックバッグになります」
そう言って壁際に並んでいた20個以上あるカバン全てをしめす。
「こんなにありますの?」
「ええ、マジックバッグをご利用される方は多いですから。用途や機能別に様々な物があるのです」
「なるほど……」
わたくしはざっとみると、肩掛けのポーチ型のものや、リュックサック型のもの、それにアタッシュケース型のものなど本当に様々な物があった。
ざっと見てみるけれど、元々の大きさが大きいほど収納量も増えていくみたいでした。
それに、すごく小さいけれど、収納量が多いものは桁違いの値段になっている。
「手に取ってみても?」
「もちろん」
「では失礼して」
わたくしはポーチ型の小さめのマジックバッグを手にとって中に手をいれる。
なんだか手が伸びたような感じがする。
空間が拡張されて、それと同時に手も伸びるようになっているのだろうか。
わたくしはマジックバッグを元の位置に戻すと、店員さんが話しかけてくる。
「お客様の収容するご予定はどれくらいでしょうか?」
「正直……ある程度持ち運びにくくてもいいので、できるだけ大きいのが嬉しいですわ」
「となると、このアタッシュケース型がいいかと思います。この店内の半分ほどの広さがあり、値段も100万レアードとなっております」
「100万……レアード……」
わたくしの目がその金額の多さに変わってしまう。
そんな大金どうやって払ったらいいのだろうか。
少なくとも、今のわたくしにそんな資金はない。
なので……。
「あの……一番お安い物はどれになるのでしょうか?」
「そうですね、お求めやすいものですと、このリュックサック型のものになります。このサイズの5倍までしか入りませんが、5万レアードでお求めいただけます」
「5万レアード……」
そんな金額はない。
どうしたらいいのでしょうか。
そんな金額があったら家具を作りたい。
というか、まだ仕事も受けていない状況で、そんなものを買う余裕なんて……。
そう思っていると、店員さんは難しいと察したのか、話してくれる。
「ええ、ご自身で拡張したい袋を持って来ていただければ、こちらで付与魔法をかけることも出来ます。腕利きの付与魔法使いがいますので」
「魔道具の作り方って付与魔法を使うんですの?」
彼女の言葉で、わたくしに電流が走った。
「ええ、基本的にはそうなります」
「なるほど……分かりましたわ。ありがとうございます。また今度伺いますわ」
「はい。お待ちしております」
わたくしたちはそう言って店から出る。
すると、ティエラが話しかけてきた。
「クレア、何か思いつくことがあったの?」
「ええ、きっとなんとかなる素晴らしい案がありますわ」




