第10話 仕事の後のご飯は美味しい
「とっても美味しかったですわね」
「うん。僕も大満足」
「なかなかいい店もあるじゃないか」
わたくしたちは一仕事を終えた後、マーレがめちゃくちゃ吟味して選んだ店で食事を済ませた。
その店は量も味も素晴らしく、シェフを雇いたいと思うくらい。
まぁ、もう没落しているのですけれど。
「では、そろそろ出ますか」
「だね」
「そう言えば、宿は取っているのか?」
「宿……あ……」
すっかりと忘れていた。
というか、通り過ぎるつもりだったので、宿の必要を感じなかったと言った方がいいかもしれない。
これから宿を取らなければ。
そんなことを思っていると、一人の男が入ってくる。
「お前ら! 例の魔物が退治されたぞ!」
「なんだって!?」
「さっき偵察に行ってきた冒険者が魔物の死体を発見したらしい!」
「まじかよ! 最高だな!」
「やってくれた奴感謝するぜ!」
男の方たちが楽しそうに話し出す。
わたくしはせっかくなので聞く。
魔物が倒されたということは、宿を取らなくてもいいかもしれない。
彼らの話は続く。
「俺だったら瞬殺してたけどな!」
「何言ってんだ! てめーは瞬殺される側だろうが! 金級冒険者でもなんとか逃げるので精一杯だったんだぞ!」
「口ではなんとでも言えるからな! つか、倒したのは誰なんだ?」
金級……確か冒険者のランクで上から4番目くらいのランクでしたわよね?
そのランクでも勝てない魔物とはすごい。
少し落ち着いたと思ったら、話を持ってきた男の方が叫ぶ。
「それが死体も肉しか残ってなくて、わからないんだよ!」
「まじで?」
「そう! こんな英雄級の強さを持っているやつなんて早々いねぇ! 王都で表彰されてもおかしくないんだよ!」
「そこまでか?」
「ああ! すごいのはここからでな!? 周囲に被害を出さないように、簡単に狩り取ったらしいんだ!」
わたくしはのんびりと食後の紅茶を手に取り、ゆっくりと口をつける。
「まじかよ! そんなことできるのか!? 相手はあのコカトリスなんだろ!?」
「うむぐぁ!」
「?」
「?」
「?」
「し、失礼いたしました。思わず紅茶が出そうになりましたわ」
それは優雅でないので、瞬時にくちびるを噛んでことなきを得ました。
くちびるが痛いですわ。
でも、今の話……。
「コカトリスを瞬殺ってまじかよ!? ミスリル級のパーティがしっかりと対策してからなんとかっていうレベルだろう!?」
「そうなんだよ! それを瞬殺! 被害もほとんどなし! これは王都も抱え込みたくなるだろう!?」
「だな! そんなすげーことができるやつは王都で頑張ってもらった方がいいんじゃねぇかな!」
ガタガタガタガタ。
わたくしは自分の腕が震えていることに気づく。
「クレア? どうかした?」
「え、ええ……というか、その……ティエラ。あの……さきほど倒したのって……もしかして……」
もしかしたら、わたくしがコカトリスと思っているのはコカトリスではないかもしれない。
そう希望を込めてティエラを見たのだけれど。
「あれはコカトリスで間違いないぞ。羽はベッドに使うと最高にいい素材になる」
「そうなんですのね……」
そこでわたくしの頭は超高速に回転する。
もし、もしもコカトリスをやったのがティエラだとバレてしまった場合、わたくしたちは王都に連れていかれるだろう。
そして、力ある冒険者として、多くの魔物を狩り、馬車馬のように一生懸命働かなければならない。
「嫌ですわ!」
「どうしたの? 急に」
「マーレ、ティエラ。すぐに出発いたしましょう」
そうなったら一刻も早くここから出て行かなければならない。
「そうだね。もう十分食べたし」
「俺もクレアが行くと言うのなら行くぞ」
ということで、王都に連れ戻されない様に急いで村の出口に向かう。
「お、もう終ったのかい?」
「ああ、さっき案内して下さった衛兵さんですね。はい。終わりましたわ」
「そうか、逃げるように戻っちまって悪かったな。仕事が立て込んでてよ」
「いえいえ、それで、魔物が退治されたそうなので、出て行ってもよろしいでしょうか? 少々急いでいまして」
「もちろんだ。せっかく直してくれたのにすまないな。数日いてくれたら村長に話して出来高分のを支払うように交渉するんだが……」
「いえいえ、時間稼ぎのために作ったものですので、本職の方に確認もお任せいたします。よくない所がありましたら直してくださいませ」
わたくしがそれだけ言って行こうとすると、衛兵は更に聞いてくる。
「名前くらいは聞いてもいいか? 修理してくれたアンタの名前くらい覚えておかないと」
そう聞かれて言わない方がいいかもしれないと思う。
理由としては、王都から追手が来るかもしれないのだ。
なら、なるべく自分のことは明かさない方がいい気がする。
「名乗るほどの者ではございませんわ」
「そうか、気をつけてな」
「はい。それではごきげんよう」
ということを話して、わたくしたちはカレドニアに向かった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
***とある衛兵の場合***
「おい! お前たち知ってるか!?」
村の門番として、仕事をしていると、同僚が息を切らせて走ってくる。
「一体どうしたんだ? 魔物はもう倒されたんだろう?」
「それが、建て直された見張り台がやばいんだよ!」
「やばい? どういうことだ?」
あの嬢ちゃんが直してくれた所だったらどうしよう。
少し不安になるが、そうではなかったらしい。
「あんな完璧な修理どうなってんだってことなんだよ! あの材木も! 技術も! 全てが一級品だろうが! あんなのボランティアで直しましたなんて言われたら他の大工が全員廃業する!」
「そんなにすごかったのか?」
「当然だ! 王都に連れて行ったら確実に工匠として名を馳せるくらいだ!」
「そ、そうか……」
そこまで話して、俺は彼女のことを考える。
彼女は名乗らなかったし、あまり自分を前に出さないように話していた。
それこそ、何かから逃げているようだった。
なら、彼女のことは黙っておいた方がいいのかもしれない。
そう思い、俺は彼女のことを黙っておく。
「見つかるといいな。そんな工匠」
「そうなんだよ! 何か分かったら教えてくれ!」
彼はそう言って、どこかに走り去っていく。
「言う時が……来るのかな……」
俺は振り返って村の外を見るが、嬢ちゃんはもう見えなかった。
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