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エッセイ

長編小説の組み立て方──ひとつのヒント

作者: 歌池 聡


 ここで、色々な小説を読者として楽しんでいる皆さま。

『自分も何か小説を書いてみたいなぁ』なんて漠然と思ってらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

 でも、何を書いていいのかわからない、どう書いていいのかわからないので二の足を踏んでいられる方も──。

 やはり実際に書いたことがなければ、そもそもどうやって物語を作るのか、物語を組み立てていくのかなんてわからないですよね。


 そこで、小説初心者の方に自分がおススメしたいのは──『歴史』ジャンルです。





『──ええっ⁉ 歴史小説なんてほとんど読んだこともないし、なんだか難しそうだし、書くなんて絶対ムリムリ!』


 ──はい、そうおっしゃると思ってました。


 歴史小説と言えば、読者の年齢層も高めで、難しい知識がたくさんなければ書けないという印象がありますよね。

 確かに、史実に沿った展開をするガチの歴史小説を書くのは難しいですし、この『なろう』では正直あまり読まれません。


 でも、逆行転生などの歴史を改変していくタイプの歴史小説なら、自由度も高いですし、好んで読む読者層もそれなりにいます。


 そして何より、実は歴史改変ものの小説には、()()()()()()()()()()()のポイントがいくつかあるのです。


 大きく分けて3点ほど。それと注意点なんかについてもお話しします。

 それ以外のジャンルを書きたいという人にも、何らかのヒントになるかもしれませんので、しばしお付き合いのほどを。

 





1. 【キャラクター設定が、初めから読者と共有できている】


 もし貴方が歴史が苦手だったとしても、例えば『織田信長』と聞けば、漫画やドラマを通じてある程度のイメージは抱いているんじゃないですか?

『敵にも部下にも厳しかった怖い人』『何だか革新的なことを色々やった人』『本能寺の変で明智光秀に討たれた』等々。


 ──ほら、もうキャラクター設定はだいぶ固まってるじゃないですか。


 作品に『織田信長』を登場させるだけで、くどくどと説明しなくても、読者はもうそれなりにキャラクターのイメージを思い浮かべてくれるんです。


 あと、小説のノウハウを指南するエッセイなどで、よく『キャラクターの背景まで考えた方がいい』なんて書いてますよね。

 その人物の生い立ちなども想定し、なぜそういう性格になったかなども考えた方がキャラクター造形に深みが出るからということなんですが。

 その点、有名どころの人なら幼少期のエピソードなども色々ありますからね。


 信長なら、『実の弟と織田家のトップ争いで殺し合った』『実の母親が信長を毛嫌いして、弟についてしまった』『若き頃の信長のあまりのうつけぶりに、守役(世話役)の老臣が絶望して腹を切ってしまった』等々。

 そのあたりから、身内すら信じられず、どうせ自分のやろうとすることなど誰にも理解されないという孤独で厳しい性格になってしまったとかが考えられるわけです。


 あとは、皆が思い描くそのままのキャラクターでいくも良し、『実は○○だった』みたいな設定を付け加えて読者の予想を裏切るも良し、ですね。


 例えば、信長は怖そうに見えて実はめっちゃ小心者のビビりだった、とか──。

 豊臣秀吉はすごい人たらしの策略家に思われているけど、実はただのお調子者の大法螺(ぼら)吹きで、後で奥さんや弟がその法螺を実現させるべく四苦八苦していたとか──。


 そんな風に、読者が抱くイメージを逆手に取った設定を付け加えてみると、何だか物語が動き出しそうな気がしてきませんか?





 皆が知っているキャラクターを、自分の思い通りに動かして物語を作る──。

 そう、歴史改変系の歴史小説って、実はいわゆる『二次創作』や『パロディ』の一種なんですよ。

 そう考えると、ちょっとハードルが下がった気がしません?






2.【世界観の設定が読者と共有できている】


 例えば異世界ファンタジーなら、そのキャラクターがどんな格好をしているかなど、細かい描写が必要になってきますよね。

 でも歴史小説なら、読者の方もドラマや漫画などである程度のビジュアル・イメージを持ってくれています。

 くどくどと描写しなくても、『戦装束の騎馬武者』とでも書けば、ほぼ同じイメージを共有してくれるのです。





 また、地理の情報についてもそうです。

 あなたが一から創り出した異世界なら、『〇〇の町から××に向かって──』などと書く場合に、ある程度設定を固めておいて、簡単な地図を書いておくなど、しっかり情報を管理しておかなければなりません。

 何となくで書いていると、後々『××は○○の南だったはずなのに、何で北になってるんだよ!?』などの矛盾が生じかねませんからね。


 あの世界最長の小説とも言われる『〇イン・サーガ』でも、実は序盤で地図をしっかり作っていなかったばかりに、作者の方が帳尻合わせに苦労してたんですよ。


 その点、歴史ものなら地理情報はもう出来上がっています。

『越後国から信濃国へ──』とでも書けば、歴史小説の読み手なら、だいたいどの辺りかを瞬時に理解してくれるのです。

 あまり歴史に詳しくない方もターゲットとするなら、『越後国(現・新潟県)から信濃国(長野県)へ──』と表記すると、より親切ですね。





 細かい語句に関しても同様です。

 異世界ものなら『将軍』『領主』などという言葉を使う時に、どのくらいの人数を束ねているのかなどの説明は必要ですが、歴史もので『将軍』といえば征夷大将軍ですし、『大名』といえばどのくらいの地域を治めていたなどのイメージもおおよそ伝わるのです。






3.【主人公から離れたところの設定ももう出来上がっている】


 長編小説を書く上で、初心者が見落としやすいポイント──。

 それは『主人公に関係ないところでも世の中は動いている』という点です。


 ファンタジーあたりでよく見るパターンで言いますと。


 魔法学園に通う主人公が、苦難を乗り越えて仲間たちとの絆を深めながら、学園内で見下されていた立場から這い上がって、学内トップにのし上がる。

 そこで、主人公たちをもっと活躍させたいと思った作者は、隣国が攻めてきた・あるいは魔王軍が攻めてきたという、よりシビアなシチュエーションを書きたくなってしまうものなんですが──。


 しかし、そこで読者はぽかーんとするわけです。



『隣国』って何? 戦争になるような気配なんてあった?

『魔王軍』って、そんなの今まで存在すら出てなかったじゃん!



 そうなんです。お話の都合で突然強大な敵を出しても、よほどうまくやらなければ読者は醒めてしまいます。

 本当は前もってそういう伏線を散りばめておくべきなんですが、初心者にはなかなか難易度が高いです。

 かといって、何の前触れもなく『隣国の暴君が侵略戦争をしかけてきた』では説得力がありません。


 やはり敵に関しても、それなりに設定は練り込むべきでしょう。

 敵味方両勢力の政治形態はどうだとか、それぞれの国力はどのくらいでこれまでの外交関係はどうだったかとか、向こうは何の目的でどういう勝算があって攻めてきたのか、くらいは考える必要があるかな?

 あと、敵方の主要キャラクターも何人かは設定しなければいけませんね。『親玉とその他大勢』なんて大雑把さでは、読者の興味を惹きつけることは出来ません。


 ──ね? 考えることが多すぎて、大変そうでしょ?


 でも歴史小説なら、そういう他国の設定やそこにいる多くのキャラクターたちもすでに出来上がってるんです。

 




 例えば。

 現代の知識を持つ主人公の活躍で、織田信長の陣営が史実より順調に勢力を広げていくとしましょう。

 そこに立ちはだかるのは、武田信玄か上杉謙信か、はたまた毛利、北条、あるいは島津なのか──。


 どの勢力を選んでも、それぞれに、あなたの想像をはるかに超えるクセの強いキャラたちがひしめき合って、物語に登場させてもらうのを待っています。

 歴史を紐解いてそういったキャラを知ることは、あなたの創作活動に大きくプラスになるはずです。





 歴史小説以外のジャンルを書く場合でも、それら実在の人物像をキャラに投影させるというのもアリですね。


 例えばファンタジーやSFで、主人公のピンチを救ってくれる謎の人物を登場させるとして。

 その人物が『織田信長』タイプのキャラだったら──?

『豊臣秀吉』だったら? あるいは『坂本龍馬』だったら?

 ──それぞれ、その先にまったく違った展開が広がっていきそうじゃないですか?

 





4.【注意点:歴史小説を書く時に起こり得ること】


 ここまで、歴史改変小説が小説初心者にも向いているということをお話ししてきました。

 ただ、歴史小説にありがちなトラブルについても書いておかないとフェアじゃないですよね。


 歴史小説を書いていると、その時代にやたら詳しい方からの指摘が来る可能性は高いです。

『この時代にその技術はあり得ない』『その人物はその時点ではもう死んでいるはずだ』等々──。


 かなり厳しい口調で言われることもあろうかと思いますが、でも落ち込む必要はありません。むしろ『ラッキー!』くらいに思っておきましょう。

 

 もしあなたの作品が何かの賞を取って書籍化するとなれば、恐らく『校閲』というプロセスが入るはずです。

 事実関係に間違いがないか、年代的な矛盾がないかなど、プロがかなり細かく調べてくれて、修正をうながしてきます。


 つまり、間違いを指摘してきた人は、その『校閲』をわざわざ無償でやってくれているんです。

 あなたの作品の完成度を高めるチャンスだと謙虚に受け止め、丁寧に対応しましょう。





 ただし、すべてを鵜呑みにするのはダメですよ。コメントをくれた人が、本当に正しい知識を持っているとは限りません。自分でもちゃんと調べてみましょう。


 ──ある歴史小説家の先生が作品に架空のキャラを出したところ、そのキャラの子孫を名乗る人から『うちのご先祖様の扱いがぞんざいで、けしからん!』とクレームが来たことがあったとか。

 どないせえっちゅーねん。





 まあ、そういうレアケースは置いといて。

 送られてきた指摘が正しくて修正可能な場合は、修正してお礼のコメントを返しましょう。

 そこを変えると話を大幅に変えざるを得ないので変えられない、という場合は──『せっかくご指摘いただきましたが、これこれこういう理由で変えられません。次回作以降の参考にさせていただきます』くらいが無難かな。


 その指摘が間違っていたとしても、丁寧にコメントを返しておいた方がいいでしょう。

『自分の調べた範囲では○○という説が有力なようです。せっかくご指摘をいただきましたが、本作ではそちらの説を採らせていただきます』くらいでしょうか。

 向こうは、わざわざ時間を使って間違いを指摘してくれるような親切な人です。今後も味方してもらえるよう、丁寧な対応をしておく方が絶対にお得です。





 ただ、中には『○○が実は××だってことも知らねーのか、馬鹿かお前は!』みたいに挑発的な姿勢の人もいます。この場合、ムキになって強く言い返したりすると向こうが面白がってエスカレートして、炎上に繋がりかねません。

 この場合も『それは知りませんでした。ご教示ありがとうございました』などと丁寧に返しておけば、向こうもそれ以上あまり強くは言ってこないでしょう。

 まあ、あまりにしつこいようなら、最悪その相手を『ブロックする』という手もありますしね。






5.【さあ、お話を作ってみよう!】


 色々調べていくとわかると思いますが、実は歴史の史料ってけっこう『穴だらけ』で『いいかげん』です。

 かなり有名な人でも生まれた年があいまいだったり、何をしていたのかわからない期間があったりしますしね。

 オリジナルのエピソードを入れ込む余地はいくらでもあります。


 歴史改変小説って、序盤は史実の流れが決まっているので書きやすく、それ以降は意外に自由度が高いですよ。


 あと、オリジナリティを出すための方策として、女性キャラを活躍させるというのは狙い目です。

 歴史の史料には、あまり女性に関する記述が残っていません。名前だけでもわかっていればまだいい方で、信長の娘の人数すらはっきりしてませんからね。

 ぜひ、自由な発想で魅力的な女性キャラを生み出して、大いに活躍させてあげてください。

 

 ただし、あまり欲張って、そのヒロインが歴史上の大事件の数々に片っ端から関わっていて──というのはあまりお勧めしません。

 昔、とある大河ドラマがそれをやっちゃって、かなり酷評されてましたしね。





 さあ、まずはあなたの書きたいように書き出してみましょう。

『あ、いやでも、その前に詳しい知識を十分に蓄えてからじゃないと……』なんて思ってたら、いつまでたっても始められませんよ。

 書いているうちに、色々調べることも出てきますし、知識なんて後から勝手に増えていくものです。


 ──それでも、もう一歩踏み出せない方のために、とっておきの秘策を。

 どんな厳しい批判や厄介な指摘が来ても返せる、万能のフレーズを伝授しておきましょう。

 それは──。





『これはあくまでパラレルワールドのお話です』


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― 新着の感想 ―
[良い点] 歴史小説への価値観が変わりました! [一言]  お久しぶりです。  長らくお休みをいただいており、復帰最初に歌池 聡様のエッセイを読ませていただきました!  確かに、長編作品を書こうと…
[良い点] >実はいわゆる『二次創作』や『パロディ』の一種 なるほどなぁ。 めからうろこです。 [一言] パラレルワールドって万能なことばですよね。 でも全ての歴史小説がある意味パラレルな世界観だと…
[良い点] とても勉強になりました(*^^*) どうもありがとうございます♪ 史実や地理的なもの、人物像を用いるときのこと。 もともと在るものを使うということに負担を覚えていたのですが、利点として考…
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