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第一章 ~『魔物肉と悩みの告白』~

 オルレアン公爵家での歓待は予想を遥かに超えていた。与えられた私室は来賓をもてなすための調度品で飾られ、ソファやベッドも雲に沈むように柔らかい。


 前世の記憶のおかげで庶民感覚を忘れていないエリスは、歓待に感謝しながらも、あまりの絢爛さに恐縮してしまう。


(お部屋の時点でこれなら食事はいったい……)


 オルレアン公爵領は美食の街としても有名だ。食事はどれほど贅を尽くしたものになるのかと、恐る恐るダイニングへ向かうと、純白のテーブルクロスの上に、見たこともないほどの御馳走が並んでいた。


「お腹空いたでしょう。嫁いでくれたお祝いも兼ねて、御馳走を用意したの。遠慮せずに食べてね」

「は、はい」


 椅子に腰掛け、料理に目を通す。海亀のスープに、白身魚のカルパッチョ、温泉卵の乗ったサラダに、鉄板の上で焼かれたステーキまで用意されている。


「さっそく食べてみて」

「で、では頂きますね」


 どれから手を伸ばすべきか悩んでいると、ステーキを焼く脂の匂いが鼻腔を刺激した。ゴクリと息を飲み、ステーキを口の中へと運ぶ。すると次の瞬間、舌の上で肉が溶けていった。


「このステーキ、肉汁が!」

「口の中で溢れるでしょう。これがオルレアン公爵家の名産品である魔物肉なの」


 魔物肉は貴族でも滅多に口にできない高級品だ。味だけでなく、栄養価も優れており、食べれば寿命が伸びると評されていた。


「特にレッドバッファローの肉は鮮度が大切だから、王都に運べないの。王族でさえ、現地でなければ味わえない贅沢品なのよ」

「オルレアン公爵領の人たちが羨ましいですね」

「ふふ、あなたも今日からその一員になったのよ」

「そうでしたね♪」


 こんな美味しい料理を食べられただけでも、オルレアン公爵家に嫁いできた甲斐があると笑みを零す。


 その言葉を受け入れたシャーロットも笑みを返し、その後、真剣な面持ちへと変化させる。


「エリスさん、あなたには我が家の一員になって欲しいと心から願っているわ……でもね、強要したくはないの。もし息子の姿を見た上で、夫婦としてやっていけないなら、婚約破棄も受け入れるから」

「シャーロット様……」


 令嬢たちから婚約を破棄されてきたアルフレッドにはもう後がないはずだ。息子の妻となる女性を喉から手が出るほどに望んでいるはずなのに、それでもエリスを気遣える心に感動してしまう。


「安心してください。私は婚約破棄の辛さを知っています。裏切るような真似はしませんし、人の価値は外見で決まったりしません」

「エリスさん……」

「むしろ私を受け入れてもらえるかの方が心配なくらいです」

「何を言うの。エリスさんは立派な淑女じゃない」

「いいえ、私は欠陥品なんです。なにせ魔力がありませんから」


 隠してもいずれは知られる欠点だ。それならば最初から打ち明けようと、エリスは悩みを吐露する。


 騙されたと怒りを剥き出しにしたり、エリスを婚約者に選んだことを後悔したりしてもおかしくはない。


 だがシャーロットの反応はどちらでもなかった。彼女はすべてを受け入れるように、安らかに微笑んでいた。


「悩みを打ち明けてくれてありがとう。でも安心して。我が家に魔力の有無で人を差別するような人はいないから」

「シャーロット様……でも、私は……」

「欠陥品なんかじゃないわ。だってあなたは私の義娘だもの」

「……っ……あ、ありがとうございます」


 胸の内が熱くなる。きっと人前でなければ泣いていただろう。魔力ゼロに負い目を感じ、悩んできたからこそ、受け入れてくれたシャーロットに感謝した。


「お礼を言うのは私の方よ。息子は呪いのせいで醜くなり、今まですり寄ってきた令嬢たちは手の平を返したように去っていったわ。だから人の価値は外見で決まらないという言葉に救われたわ」

「シャーロット様……」

「息子を紹介するわ。付いてきてくれるかしら」

「はいっ!」


 二人は席を立ち、アルフレッドの元へ向かうのだった。


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