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第一章 ~『旅立ちの伯爵令嬢と父からの餞別』~

 旅立ちの日はすぐにやってきた。娘が嫁ぐというのに見送りに父の姿はない。屋敷の前に停められた馬車の側にいるのは、馴染みの侍女だけだ。


「お嬢様ともこれでお別れですね」

「寂しいですか?」

「はい、とっても。私、お嬢様のことを気に入っていましたから」


 歳が近いこともあり、彼女は姉のような存在だった。嫁いだら、エリスはオルレアン公爵家の人間となるため、これが今生の別れになるかもしれない。そう思うと、悲しみで胸が苦しくなった。


「お嬢様のことが好きなのは私だけではありませんよ。他の使用人たちも皆、寂しいと口にしていましたから。そして言葉にはしませんが、お父上も同様のはずです」


 侍女はギッシリと大金貨が詰まった革袋を手渡す。伯爵家の令嬢でも驚くほどの大金だった。


「お父上からの餞別だそうです」

「……こういう一面があるから、お父様のことを憎みきれないんですよね」


 不良が親切を働いたら善人に映るように、最低の父だが、ふとした優しさに心が染みるのだ。


「お嬢様、悪い男に引っかからないでくださいね」

「心配無用です。アルフレッド様は人格者だそうですから。きっと私を大切にしてくれるはずです」


 呪いで外見が醜くなっても、アルフレッドは領民たちから支持されていると聞く。嫁いできたエリスのことを無下に扱うこともないだろう。


「それにお父様を恨んでも仕方がありませんからね」


 最低の父だが、伯爵令嬢として平民より裕福な暮らしをさせてもらったのも事実だ。


「でもムカついてはいますから、お父様の言いなりにはなりません。私がアルフレッド様を幸せにして、長生きしてもらうことにします」


 呪いを受けたとしても、長寿だった者がいないわけではない。最高の花嫁になって、アルフレッドと共に幸せな人生を過ごせれば、それこそが父に対する一番の復讐になる。


「お嬢様の前向きな考え方は嫌いじゃないですよ」

「ポジティブなのが私の長所ですから」


 侍女に別れを告げ、馬車に乗り込む。馬が走り出した後も、彼女はずっと手を振り続けてくれていた。


(オルレアン公爵家でも良い人に巡り逢いたいですね)


 今度こそ幸せになるんだと自分に言い聞かせながら、車窓に映る光景を眺める。瞳に故郷の景色を焼き付けながら、馬車に揺られるのだった。


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