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第四章 ~『シロと三人のお茶会 』~


 ケビンが去った後、エリスたちは庭の四阿に集まっていた。紅茶のセットがテーブルの上に並べられ、周囲には鮮やか華たちが咲き誇っている。


「私も現場にいられなくて残念だわ」


 シャーロットが溜息を吐く。それにエリスとアルフレッドが反応した。


「シャーロット様はお仕事で外出中でしたからね。仕方ありませんよ」

「ただ母上の気持ちも分かる。エリスの毅然と立ち向かう姿は必見だったからな」


 シャーロットがエリスとアルフレッドの前に置かれたカップに紅茶を注ぐ。ローズティの薔薇の香りが広がった。


「次の機会があったら、絶対に見逃せないわね」

「私としては、ケビン様との関わりはもうこれっきりにしたいです」

「大変だったのね……そんなエリスさんにお土産があるの。仕事終わりに街で買ってきたのよ」


 テーブルの上に置かれた木箱を開けると、アーモンドや胡桃のクッキーが並んでいた。甘い匂いが食欲をそそる。


「にゃ~」


 その匂いに真っ先に反応したのはシロだった。シャーロットの傍に近寄り、クッキーをねだるように愛らしい声で鳴く。


「猫ってクッキーが好きなのかしら?」

「シロ様は甘党ですから。特別な猫様なんです」

「にゃ~」


 シャーロットはクッキーを手に取ると、それをシロの口元まで運ぶ。楽しみにしていたのか、シロは尻尾を振りながら、美味しそうに齧る。口に合ったようで、すぐにクッキーを平らげてしまう。


「可愛いわね」

「ふふ、私たちの家族ですから♪」

「それに食欲も旺盛ね。きっと立派な猫に育つわ」


 クッキーを食べ終えたシロは、シャーロットの膝の上で丸くなる。満腹になったおかげで睡魔に襲われたのか、スヤスヤと眠りについた。


 エリスたちはシロを起こさないように注意しながらも、紅茶や菓子を味わいながら談笑を楽しむ。ケビンの相手をしたことで貯まったストレスが吐き出されていった。


 歓談の時間が過ぎた頃、シャーロットの表情が変化する。真剣な面持ちでエリスとアルフレッドを見据えた。


「そろそろ本題に入りましょうか」

「今後についてだな」

「ええ。エリスさんが回復魔術を使えることは今まで以上に秘密にしないといけなくなったわ」


 ケビンはオルレアン公爵領に滞在している。噂が流れれば、彼の耳にもすぐ届くだろう。屋敷の中なら安心だが、外出先での回復魔術の使用は控えるべきだった。


「あの、もし回復魔術を使えると知られたら、お父様は私の婚約を一方的に破棄できるのでしょうか?」


 貴族の令嬢は家のために縁談を結ぶ。聖女の生まれ変わりなら、公爵より上の立場の貴族に嫁がせることも可能だ。


 父がそのような勝手をしないか心配になったのだ。だがアルフレッドは微笑んで、首を横に振ってくれる。


「無理だ。公爵である私と結んだ婚約を伯爵が一方的に破棄はできない」

「でもお父様なら王族に嫁がせようと画策するかもしれません。そうなれば、王家から圧力がかかるかも……」

「安心しろ。仮に王家からの頼みでも私はきっぱりと断る。君の傍にいられるなら、相手がどんな権力者でも膝を折ることはしない」

「アルフレッド様……」


 愛されていると実感できる言葉に安心する。彼ならどんな困難が訪れようとも、きっと守り抜いてくれるだろう。


「それにケビンは王家にまで話を広めないはずだ」

「どうしてですか?」

「あの口振りだと、君と復縁したいのだろう。そうなると、王家に君の存在を知られたくないはずだからな」


 恋のライバルは少ない方がいい。競争相手を増やすような愚行は犯さないはずだ。


「でも、最悪は想定しておくべきね。私、王族にもお友達がいるの。変な動きがあれば教えてくれるように根回ししておくわね」

「さすが母上。頼りになるな」

「家族のためだもの……ただ本当は正式な婚姻を結ぶのが最良だとは思うけどね」


 婚約状態だからこそ、他の男に取られるかもしれないリスクがあるのだ。正式な婚姻さえ結んでしまえば、相手が国王でも皇帝でも、その縁が切れることはなくなる。


 だがアルフレッドが正式な婚姻への移行に躊躇っていた。呪いに侵されている彼は、先が見えない状態だ。最悪の場合、婚姻を結んだ直後に、エリスが未亡人になることもありうると心配していたのだ。


(アルフレッド様の呪いさえなくなれば、婚姻に躊躇いはなくなるはずです)


 自らの幸せのためにも、アルフレッドの呪いを治したい。その想いを改めて強く持つのだった。


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