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第二章 ~『アルフレッドとの再会』~


 扉が開き、トレンチコートを羽織ったアルフレッドが屋敷に足を踏み入れる。待ち構えていたエリスたちの姿に驚いて目を見開くが、冷静さを取り戻した彼は口角を上げた。


「ただいま」

「「おかえりなさい」」


 エリスたちもまた満面の笑みでアルフレッドの帰りを喜ぶ。三ヶ月ぶりの再会だった。


「王宮での会合が計画よりも遅れてしまった。心配させたな」

「寂しかったですが、無事なのは知っていましたから」

「どういうことだ?」

「これです」


 空間魔術で玄関の映像を映し出す。それだけで彼はすべてを察した。


「聖女と同じ力に目覚めたんだな」

「空間魔術の一種だそうです」

「やはり君は素晴らしい才能の持ち主だったんだな」


 アルフレッドはエリスの覚醒を自分のことのように喜んでくれる。それが嬉しくて、魔力を回復できるようになったことや、塩害被害を治せることなど、三ヶ月の間の成長をついつい口にしてしまう。


「私ばかりお喋りしてしまいましたね」

「いいんだ。君の話を聞くのを楽しみにしていたからな」

「アルフレッド様……」


 アルフレッドはいつだってエリスを無下に扱わないで尊重してくれる。実家で欠陥品と見下されてきた彼女にとって、彼の扱いは心の救いだった。


(やっぱり私、アルフレッド様が大好きです♪)


 呪いで醜い姿の彼だが、エリスは好意を抱いている。これこそが本物の愛なのだと改めて自覚する。


「再会を祝福して、君に渡したいものがあるんだ」

「もしかしてお土産ですか?」


 王都のお菓子でも買ってきてくれたのかと予想したが、懐から取り出したのは指輪だった。


「婚約指輪を渡していなかっただろう。これは私の気持ちだ。受け取って欲しい」

「あ、ありがとうございます」


 アルフレッドが左手の薬指にはめてくれる。ピンクダイヤがプラチナの指輪の上で輝いていた。


「とても綺麗ですね~」

「私のイメージ通り。君には明るい色が良く似合うな」

「ふふ、大切にしますね♪」

「喜んでくれて嬉しいよ。結婚指輪も楽しみにしていてくれ」


 婚約はしていたが、指輪を贈られたことで、アルフレッドと結ばれたという実感が増す。指を眺めれば、いつだって彼を思い出せる。それだけで口元が緩んでしまった。


「私が贈ったドレスも素敵でしょう」

「玄関で再会したとき、一瞬、言葉を失ったほどだ」

「ふふ、最初の驚きはエリスさんに見惚れていたのね」


 褒められてエリスの頬が赤く染まる。彼の言葉が本心だと伝わってくるからこそ、どうしても照れを隠しきれなかった。


「あの、アルフレッド様はこの三ヶ月の間どうでしたか?」

「私も寂しかった。いつもエリスに会いたいと願っていたよ」

「アルフレッド様……」

「ただ体調は回復しつつある。食欲もあるし、呪いが弱まっているんだ」

「それは朗報ですね!」


 呪いが消えてくれれば、アルフレッドと人生を共にできる。目頭が熱くなるほどに素晴らしい知らせだった。


 だがシャーロットは息子の回復を喜びながらも、どこか怪訝な表情を浮かべていた。


「どうかしましたか、シャーロット様?」

「呪いがどうして弱まったかを考えていたの。で、頭に浮かんだのは、黒魔術師が出力を弱めたからという説よ」

「え⁉」


 思いも寄らない答えだが、呪いをコントロールできるのは術者だけのはずなので筋は通っていた。


「でも完全に呪いを解除していないわ。理由があって、殺すような呪いから生かさず殺さずの呪いに方針転換したのね」

「どうしてそのようなことを……」

「理由はわからないわ。怨恨が目的だとすると恨みが小さくなったのかも。でもこれだけは言えるわ。方針転換のキッカケは王宮での会合よ。黒魔術師は参加者の誰かで間違いないわ」


 会合には王国中から有力者が集められている。その数は多く、犯人特定にまでは繋がらない。だがヒントにはなった。


(会合の参加者で、アルフレッド様が呪われることを望む人物ですか……まだ手がかりが足りませんね……)


 必要なピースが一つ手に入っただけだ。黒魔術師の特定にはまだまだ情報が必要だった。


「母上の推理は当たっているかもしれない。だが私はエリスの回復魔術のおかげだと信じている」

「ですが、会合中に私は治療していませんよ」

「きっと遅延性の効果が発揮されたんだ。エリスがいたから、呪いの症状を緩和できたんだ」


 アルフレッドはエリスが治療のために努力していることを知っていた。その頑張りに報いるための労いの言葉だった。


「そうね、きっとエリスさんのおかげね」

「シャーロット様まで……」

「そう信じたほうがロマンチックだもの。愛の力は偉大だったのよ」


 嫁ぐ前のエリスなら愛という言葉を薄っぺらいと感じていたかもしれない。だが今の彼女は違う。アルフレッドと出会い、本物の愛を知ったからこそ、本当に彼の助けになれたのかもしれないと信じられるようになっていた。


「エリス、頼みがあるんだ……すごく恥ずかしいのだが……」

「遠慮しないでください。私はどんな願いも受け入れますから」

「なら……君を抱きしめてもいいだろうか?」

「もちろんですよ♪」


 呪いに侵されているアルフレッドは醜い姿のせいで自信を失っている。そんな彼を肯定するように、二人はギュッと抱きしめあった。


「君に逢えない間、ずっと寂しかった。ようやく君を感じられた」

「私も再会できる日を心待ちにしていました」


 体のぬくもりとともに愛情が伝わってくる。彼が心の底から愛してくれているのだと実感できた。


「私には再会の抱擁を求めないのですか?」

「母上……申し訳ないが、私はエリスのぬくもりを忘れたくない」

「ふふ、ならシャーロット様も加えて、再会を喜び合いましょう」


 エリスたちは三人で抱きしめ合う。この家族の一員になれて良かったと、心の底から思えたのだった。


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