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第一章 ~『魔力ゼロ』~

 婚約破棄されたエリスは、庭を見渡せる渡り廊下で俯いていた。


(私に魔力さえあれば……)


 神託を受けた頃は、まだ妹のミリアと変わらない期待を受けていた。魔力がなくとも、彼女の身に刻まれた魔術は、世界で二人といない回復魔術だったからだ。


 その期待を証明するように、縁談の話も山のように届いた。中には王族からの縁談や、帝国の皇帝からも嫁いでこないかと誘いがあったほどだ。


 だがそれもある意味で納得できる。


 人は生きている限り、誰もが病気や怪我を負う。だからこそ回復魔術は権力者たちが喉から手が出るほどに欲する力であるからだ。


 もし回復魔術を扱えたなら、きっとケビンも婚約を破棄していなかった。そう思うと悔しさで下唇を噛み締めてしまう。


(私の魔力はもう増えないのでしょうか……)


 魔力は一定の年齢に達すると無自覚に目覚める。時期や量は個人差があるが、十五歳を超えた頃には、ほぼ例外なく魔力を纏うようになる。


 だがエリスは完全な魔力ゼロを維持していた。王国の長い歴史の中でも魔力が少ない者はいたが、ゼロは初めてだった。


 回復魔術が有用で、期待されていただけに落胆も大きかった。結局、魔力がゼロのエリスは腫れ物扱いされてしまい、現状に至る。


(明日でとうとう二十歳の誕生日だというのに……)


 人生最悪の誕生日を迎える羽目になる。だが立ち止まっている暇はない。


 エリスは婚約破棄のことは忘れようと努め、自室へと足を向ける。


 庭から自室までは距離がある。赤絨毯が敷かれた廊下を進んでいると、父の執務室から声が漏れ聞こえてきた。聞き馴染んだ声は彼と侍女のものだ。


「エリスはショックを受けていたか?」

「……陰ながら見守っていましたが、涙は流していませんでした。ただ……お嬢様は子供の頃から人前では泣かない人ですから」

「そうか……だが、これもすべてロックバーン伯爵家の発展のためだ。エリスには悪いことをしたと思うが、妻に似て容姿は整っている。すぐに次の婚約者は見つかるはずだ」


 エリスの瞳と髪は黒曜石のように美しい黒で、白磁の肌はシミ一つない。夜会では大勢の殿方の視線を釘付けにしてきた美貌の持ち主ではある。だからこそ父は娘の婚約破棄を受け入れたのだ。


(でも私は……)


 新しい婚約者が欲しいわけではない。ケビンと結ばれたかったのだ。


 自室に戻ったエリスはベッドに飛び込むと、枕に顔を押し付ける。ケビンとの思い出が頭を巡り、一筋の涙が溢れる。


(私、あの人のことが好きだったんですね……)


 悲しみに身を任せて眠りにつく。嫌な思い出を忘れるため、夢の世界に沈んでいくのだった。



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