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第二章 ~『街とシャーロット』~


 魔力の回復を習得してから数日が過ぎた。魔力の絶対量はこの短期間で爆発的に増加しており、鍛錬の成果が現れていた。


 呪い解呪のための大きな成果を得たと、真っ先にシャーロットに報告したエリスは、お祝いも兼ねて街に遊びに行かないかと誘いを受ける。


 初めは一日も欠かさずに鍛錬し続けたほうが良いかとも考えたが、いくら回復魔術で疲労が癒えるとはいえ、毎日続けていると流石に体が息抜きを求めていた。


 また、シャーロットにも休息が必要だと判断したのも大きな理由だ。呪いに侵された息子を心配し、見て分かるほどに彼女は困憊していた。


 アルフレッドが帰ってきた時に、シャーロットには笑顔で出迎えてほしい。そのためにも二人で街に遊びに行くことにしたのだ。


(嫁いできてから街を訪れるのは初めてですね)


 屋敷から馬車で数十分の距離に街はあった。煉瓦造りの瀟洒な街並みで、柿色の瓦屋根は、オルレアン公爵領の観光名所にも選ばれているほどに美しい。


「綺麗な街並みでしょう。亡くなった夫がデザインしたの」

「そうなのですか⁉」

「アルフレッドの料理作りの趣味はきっと夫に似たのね。細部までこだわる性格もそっくりなの」

「私もアルフレッド様のお父様にお会いしてみたかったです」

「きっと夫もエリスさんのことを気に入ったはずよ。なにせアルフレッドと似た者同士だもの」

「ふふ、なんだか照れてしまいますね」


 エリスが頬を赤くしていると、シャーロットの足が商店の店先で止まる。ガラスのショーケースに飾られていたのは、輝くようなドレスたちだ。


「さぁ、入りましょうか」


 シャーロットが先導する形で店に足を踏み入れると、従業員の女性たちが一斉に頭を下げる。


「お待ちしておりました、シャーロット婦人」

「久しぶりね、マーニャ」


 名を呼ばれた店長と思わしき女性がシャーロットと挨拶を交わす。


「そちらが噂の……」

「息子の婚約者よ」

「やはりそうでしたか。噂以上の美女ですね」

「ふふ、そうなの。自慢の娘なの」


 マーニャはエリスを観察するように上から下へと視線を巡らせる。そして合図を送ると、統率された軍隊のように一斉に従業員たちが動き始めた。


「エリス様、こちらのドレスは如何でしょうか?」

「こちらの鞄も良くお似合いだと思います」

「ならこのネックレスも付けましょう」


(いったい何が起きているのでしょうか!)


 エリスが戸惑っている内に、コーディネートは進んでいく。ファッションショーのように多彩な服が用意され、最終的に一着のドレスで従業員たちの手が止まる。


「これが最もエリス様にお似合いですね」


 満場一致で納得だったのか、店内に拍手の雨が降る。選ばれたのは桜色のドレスで、黒曜石のようなエリスの黒髪と見事に調和していた。


「このドレスは私からエリスさんへのプレゼントよ」

「こんな高価なもの頂けません」

「大切な娘に贈り物をしたい親心だもの。遠慮せずに受け取って。ね?」

「……本当によろしいのですか?」

「もちろんよ。着飾ったドレスで王都から帰ってきた息子を驚かせましょう」

「シャーロット様……」


 早くに母を亡くしたエリスの心に染みる優しさだった。感動で目頭を熱くしていると、シャーロットは彼女を抱きしめた。


「私とエリスさんは血の繋がりはないわ。でも本当の娘だと想っている。これは本心だから」

「シャーロット様……っ……わ、私も……あなたが義母で良かったです」


 エリスもまたシャーロットの腰に手を回して抱きしめる。二人は親子の愛を確かめ合うように力を込めるのだった。


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