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第一章 ~『初めての回復魔術』~

 エリスは全身から湯気のように沸き立つ魔力に、改めて魔術師として目覚めたのだと実感していた。


 魔力ゼロのコンプレックスがようやく解消され、魔術の行使が可能になったのだ。彼女が試したいことは既に決まっていた。


「アルフレッド様の治療をさせてもらえませんか?」

「むしろ私がお願いしたいくらいだ」

「初めてですから。過度な期待はしないでくださいね」

「難しいが努力しよう」


 アルフレッドからすれば、長年苦しんできた呪いが解けるチャンスを得たのだ。期待するなという方が無理な話だ。


 エリスはアルフレッドの背中に触れる。呪われる前は、王国でも屈指の剣の使い手だっただけあり、筋肉の硬さを感じる。


「心の準備はいいですか?」

「いつでも」

「ではいきますね」

「ああ、頼む」


 手の平に魔力を集中させ、回復魔術を起動させる。癒やしの輝きが放たれた後、その代償としてエリスに魔力消費の疲労感が押し寄せる。


(長編小説を読み終えた後のような疲れですね)


 息切れが起きるような疲労ではなく、脳が休みたがっているような倦怠感に包まれた。肉体を纏っていた魔力も一回り小さくなっている。


「アルフレッド様の体に変化はありましたか?」

「大きな実感はない。だが僅かではあるが、痛みが和らいでいる気がする」

「本当ですか!」


 回復魔術はわずかとはいえ、呪いに対する効果を発揮したのだ。だがその喜びは束の間の幻想だった。彼が痛みを堪えるために拳をギュッと握りしめていることに気づいてしまったからだ。


(私を落胆させないためのアルフレッド様の優しさだったのですね)


 無力さに歯痒い思いを感じながらも、エリスの心は折れていない。


(でも、まだ呪いに回復魔術が効かないと決まったわけではありません。私の魔力量が原因の可能性もありますからね)


 魔力は魔術のエネルギーだ。車のガソリンに相当する力だが、当然、その量に応じて出力も変化する。つまり魔力が少ないせいで、回復魔術が真の力を発揮できなかっただけの可能性もあるのだ。


(まずはできることを一つずつ確認していきましょう)


 エリスは侍女にお願いして、果物用のペティナイフを借りる。その様子をアルフレッドは怪訝な目で見つめていた。


「そのナイフを何に使うつもりだ?」

「私の回復魔術の検証です。まずは小さな切り傷を治癒できるか試してみようかなと」


 そう答え、ナイフを指先に近づけるが、アルフレッドが腕を掴んで食い止める。


「君の綺麗な手を傷つけるのは反対だ」

「ですが、そう都合よく怪我人はいませんから」

「なら私が実験台になろう」


 アルフレッドはペティナイフを奪い取ると、指先の包帯をずらして、切り傷をつける。赤い血が溢れ、ポタポタと滴り落ちた。


「アルフレッド様!」

「痛いのは苦手でな。治してくれると助かる」

「本当、無理ばかりする人ですね」


 痛みを受ける役目を代わってくれた彼に感謝しながら、回復魔術で治療する。癒やしの輝きが放たれ、指の傷口は瞬く間に塞がれていった。


「エリスの回復魔術はきちんと効果があると証明できたな」

「です……ね……っ」


 魔力を完全に使い果たしたのか、目眩がして立っていられなくなる。そのままアルフレッドに体重を預けた。


「頑張ったんだ。あとはゆっくり休むといい」


 アルフレッドに甘え、彼の腕の中でそのまま目を閉じる。まずは一歩前進だと、回復魔術を使えた達成感に満たされるのだった。


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