敵の名はガルスグレーサー
西暦2998年、突如として地球はガルスグレーサーと
名乗る
異星人に侵略戦争を仕掛けられた、そして圧倒的な科学
力の差により
危機的な状況に陥る、主人公たちは新型の戦艦に乗るこ
とになるが
それは小型の駆逐艦ハヤテ、がっかりする主人公達だが
ハヤテに乗り込むと、そこは全ての物体が10分の1に
なっている
世界で、本当のハヤテは全長1300メートルを超
える巨大戦艦だった
見た目は駆逐艦、中身は巨大戦艦、敵を欺くにはまず味
方から
地球を防衛するために真の実力を隠して活躍するハヤテ
を御覧下さい。
「艦長、前地球艦隊より受信<R38ポイント
にて集結せり>との事です」
通信隊長のジョンが勝艦長にそう報告する
「そうか・・響R38ポイントに
リープ1で移動だ」
勝艦長の指示を復唱する響
「ハヤテR38ポイントに向かいます」
「リープ1で発進」
リープには段階が存在し
リープ1で光と同速
リープ2で光速の10倍
リープ3で光速の100倍
と言う様に1上がるたびに桁が
一つ上がります。
_____________________
ハヤテはR38ポイントに到着し
その姿を現した
赤い星その名は火星
此処こそが指示された艦隊集結ポイントであった。
そこには地球を守護する太陽系防衛艦隊の
名だたる宇宙戦艦が艦隊整列していた
「見ろよ長門だ金剛・・霧島・・伊勢も
居るぞ!」小原正二・戦闘補佐がそう言って
ハシャぐのも無理はない
宇宙戦艦乗りにとってはどの船も伝説の
名戦艦ばかりである
「今からこの大艦隊でガニメデの
木星基地を奪還しに行くんだな!」
そんな大艦隊の中に小型艦のハヤテが
入っていくと、場違い感が物凄い。
「赤城に飛龍までスゲー」
運行補佐の岩川光太郎までもが子供みたいに騒ぐ
男子ってこーいうの好きよね・・
崎・観測長女子が艦隊構成を報告する
「戦艦31航空戦艦5空母28巡洋艦67
駆逐艦123高速ミサイル鑑26の
計280です」
その時ジョンスミス通信隊長が
勝艦長に報告した
「艦長司令部より暗号命令が入りました
IS67IBが出ています」
勝艦長はもう一度ジョンに聞き返す
「IS67IBに間違いないか?」
ジョンは再び暗号を読み上げる
「ハイIS67IBに間違い有りません」
勝艦長は腕を組むと軽く息を吐く
「その暗号IS67IBとは
何なんですか?」誠矢の問いに
勝艦長は表情そのままに
「撤退命令だ」
誠矢は驚いて エ!?と声が出てしまった
それはハヤテクルー全員が同じ反応になる
「撤退・・・一体何故!?」
_____________________
全地球艦隊は
地球に向けて一路リープした
火星から地球までの距離も
リープならあっという間だ
戦艦のリープバブルに単独では
リープ出来ない小型艦も乗せて貰い
一緒に地球まで一斉に帰還する。
青い地球に
戦艦艦隊・空母艦隊が大気圏に
突入し、東京沖の海上に着水すると
全ての艦から艦長達が撤退命令の
理由についての説明を聞くために
司令部に集められた
司令部の防衛会議場に入ると
全ての艦長が用意された席に着席し
「勝艦長!」
「貴方は何か小田司令から聞いてますか?」
そう話しかけてきたのは偶々となりの
席になった戦艦金剛の艦長だった
「いいえ私は何も聞かされていません」
本当の事である、だが金剛の艦長は
「貴方の艦は何かと秘密が多いですからね・・
勘ぐって済みませんが・・」
勝は動じず「いいえ」とだけ応えた
やはりハヤテの事は他の艦長達の目にも
怪しげに映る様だ
そして小田司令が
今回の突然の撤収命令に
ついての説明を始めた
「レーザー式宇宙天望遠鏡が
アステロイドベルトで
大変危険な宇宙竜巻現象を観測したのが
太陽系防衛艦隊がリープした直後であり」
「参謀本部は敵の新兵器を疑い
艦隊の安全のために緊急会議した結果
撤退を決断した」とのことだ。
小田司令が勝の顔をそれとなく見て話す
そう言うことか・・・箱を開けてみれば・
ハヤテの全てを秘密にしている
弊害が出たと・・そう言う理由だったか・・
「参謀本部としては必要な追加調査のうえ
詳細は調査を終えてから報告書に纏めおって報告
するので理解して貰いたい
なお木星域奪還作戦そのものは継続する事を
各艦長に先にお伝えしておく」
モヤモヤした空気が議場内に流れた。
_______________________
勝艦長に声を掛ける艦長達は誰しも
疑問に思っていた
最新鋭艦とは言え・・
勝艦長ほどの優秀な艦長が
言っては何だが只の駆逐艦の艦長とは
余りに勿体ない話である
お節介ながら
上層部に異議申し立てを・・と言う者が
後を絶たない、それだけ勝艦長はその実力を
高く評価されているのである。
だが勝艦長は頑なに思えるほど駆逐艦の
艦長職に拘り固執しているように見える
それが有らぬ疑惑を沸かせる元になる
そして只の駆逐艦に防衛上の最高機密という
敵を攪乱する目的にしても余りにも厳しい
情報封鎖ぶりが次第に、
ハヤテを巡って賄賂や談合の温床だと、
根も葉もない黒い噂が一人歩きし出しているのだ
今現在・・
ハヤテを取り巻く味方の目は冷たく厳しい
一つ目が戦艦建造に関する水増し請求疑惑
駆逐艦1隻に対しての開発費にしては
余りに巨額すぎること
二つ目が軍事兵器の横流し疑惑説
駆逐艦サイズには絶対に搭載できない数の
艦載機並び重戦車の数々の行方
三つ目が搭乗員数の水増し疑惑説
駆逐艦の必要搭乗員数の10倍の申請は
給料と食料の大量発注から疑わしい
四つ目が今回の作戦でハヤテが計上した
軍事物資の補給の数量が膨大すぎる件
此も通常の駆逐艦の10倍以上の武器弾薬を
計上している
五つ目が基地設備の不正使用疑惑
犬吠岬の地下施設を改造し大規模な
トンネル工事をしている件
施工会社との
癒着までもが見え隠れする
ハヤテ関連で最も大きな疑惑を招く
疑心となる軍事費を支出した。
まだまだ数え上げれば
キリがないのだが
軍の監査が黙認していることも
多くの防衛隊員達に疑惑を与えていた
ハヤテの乗組員達は
これらの状況を既に説明を受けている
ハヤテが初戦闘で大勝利を納め地下基地に
帰還したときその説明がされた。
<ハヤテの秘密を決して口外しては成らない>
これは日本政府から
下された勅命でありそれよりも
ハヤテの秘密を共有する
仲間達同士の血の誓いと成っている
誠矢達だけでなく
ハヤテ乗員1540名全ての
運命がこの誓いに掛かっていた。
勝艦長から直接、
乗員全員に艦内放送の
形で語られたのは、各々の部署で
各班リーダーに艦長の言葉を傾聴する様に
指示されてからだ、ハヤテ各部署に設置された
モニターに艦長の姿が映し出された
「ハヤテ乗員諸君・・諸君等も薄々気づいて
いるとは思うが・・ハヤテは普通の船ではない」
勝艦長の言葉に
全ハヤテ搭乗員が注目する
「ハヤテの科学力は、この天の川銀河でも
恐らく類を見ないレベルである」
誠矢は銀河の何処かの星が地球に
技術提供をしていると思っていたのだが
それが外れて意外だった
「ハヤテの技術は天の川銀河の外より
もたらされた物だ!」
勝艦長の言葉に息を呑む誠矢
「そして諸君等はその外より来た者達の
末裔なのだ!」
「エエ!!?」
此には誠矢も衝撃を受けた・・それって・・
ハヤテに乗る搭乗者全員の話なのだろうか?
「いきなりこのような話を聞かされて戸惑うのも
解る・・だが私を含めハヤテの秘密を知る
関係者は皆・・王国の血に繋がるの者だ」
王国の・・
誠矢は少し前に春吉がOKと
口を滑らせたのを思いだして、
まさかあれは
王家という意味だったのか?
我ながら随分と間抜けな勘違いを・ん?・
春吉さんは・・確か王家と言ったよな・・
勝艦長の話は続いた
「自分達が異星人の子孫だと言われても
気にすることはない、何せ2万年も前の
話なのだ・・だが・・」
2万年前って・・それはもう完全に
地球人と同化してる俺達は間違いなく
この星の人間だ
「地球に今攻め込んでいる敵勢力・・
名をガルスグレーサーと言う」
此処でハヤテクルー達は初めて敵の
名前を知った、ガルスグレーサー・・
それがキャシーの仇の名か!?
敵の名を知ったことで
大城誠矢は婚約者を殺された怒りを
思い出し憎しみが再燃された
そしてそれは
誠矢以外のハヤテ搭乗員全員が
同時に抱いた感情だった。
「ガルスグレーサーめ・・」
「そして此処からが重要なのだが・・
ガルスグレーサーの狙いが我々王国に
対する復讐なのである」
勝流水艦長の口から・・あり得ない言葉が
語られた・・王国に対する復讐?
それは2万年にも及ぶ怨嗟の物語
天の川銀河に
文明が栄えるより遙か昔
太古の宇宙に科学文明を極めた
一つの星があった
その星には二つの文明が存在し
やがて二つの文明の間で戦争となり
星は滅びた
そして二つの文明は生き延びるために
争うように一つの星を目指す
結果として最後にその星を手にしたのは
アトランテスと呼ばれる王国で
追い出された方はムー帝国と呼ばれた
そして戦いに敗れたムー帝国は
やがて帰ってきてアトランテス王国に
復讐を果たすと誓い宇宙の果てに
旅立ったのだ
ムーの大陸円盤がその後どうなったか
誰も知らない ________
「奴等ガルスグレーサー
は2万年の時を経て姿と名前を変え
復讐のために帰ってきたのだ」
勝流水艦長の話を聞いて
素直に信じられる
人間が何処にいるというのか?
殆どのハヤテクルーが半信半疑だ
自分達が原因で
地球今は未曾有の危機に
陥っているなどと言う話を・・そのまま
信じる方がどうかしている
「敵ガルスグレーサーの存在は当然
天の河銀河連邦も周知しており
ガルスグレーサーの軍事力が
銀河連邦をも凌駕すると知ると」
「秘密裏にガルスグレーサーと裏取引し
地球侵攻に関してだけは黙認すると言う
話に纏まった」
誰かが何かを床に落とした音が響いた
「つまり地球はガルスグレーサーに生け贄として
銀河連邦に差し出されたのだ!」
絶望的な静けさがハヤテの空間に浸透する
「俺達は・・地球は・・見捨てられたのか?」
誰かが、声を詰まらせそう呟いた
だが此処で勝流水はハヤテの勇姿を画面に
アップで映させる。
「だが・・ハヤテなら・・この超古代魔動
技術の結晶である王家の船ならば・・2万年の
過去から来た亡霊を討ち滅ぼす事が出来る
ハヤテ一隻でガルスグレーサー全戦力を
淘汰出来るのだ!」
ハヤテたった一隻で銀河規模の軍事国家と
戦って勝利すると宣言する勝艦長に・・
誠矢は決して不可能ではないと思った
俺から皆に言いたい・・ここは言うべき所だ
誠矢は春吉の席に近寄るとこう切り出した
「春吉さん・・俺は・ハヤテの皆に
聞いて欲しい事があるんだ!」
誠矢の眼には確かな決意の光が灯っていた。
_____________________
勝艦長の話を聞いた段階では
ハヤテクルーの気持ちとしては
何の希望も見いだせない
状態だった、地球が銀河連邦に見捨てられ
孤立無援に成っている上に・・
敵の目的が自分達が関係していると知り
只々動揺させただけだった。
逃げられるものなら
逃げ出したい、それが正直な気持ちだろう
だがそこに・・飛び入りで参加したのが
大城誠矢・戦闘隊隊長だった
「皆!突然済まない・・大城だ
勝艦長の言ったハヤテ一隻で
敵を全滅させると言う話だが・・何も
全滅させる必要はないと俺は思う」
「敵戦力の1パーセントでも撃退したら
敵を退けるのは可能だと思うんだ!
・・ハヤテが只一隻で銀河規模戦力の
1パーセントを葬り去れば、
ガルスグレーサーにとってその衝撃は
凄まじい物になる筈だ!」
大城戦闘隊長・・ハヤテクルーの耳に
誠矢の声は自分達若者の代表の言葉に聞こえた
「そしてハヤテには単独でそれを叶える
実力があるのは間違いない事実だ!」
誠矢はアステロイドでの戦いを口に出した
「アステロイドでハヤテは無傷で敵大艦隊に
完勝した・・これは地球の全艦隊の戦力を
結集しても到底不可能な大戦果だ」
誠矢の言葉にはある種の説得力があった
敵の1パーセントでも撃退出来れば効果が
期待できるという話には魅力がある
そこに今は何の根拠もないが・・
「それに敵がどれほど巨大戦力でも
一度に来る数は其れほどでもないだろう
規模が大きければ大きいほど敵さんは油断して
かえって多くは出せないものさ」
そこで誠矢はわざと砕けた感じでフラットに
「何よりハヤテが駆逐艦サイズなのが
敵が本気に成りにくい点なんだ」
誠矢は勝艦長が絶対に言えないことを察して
喋っている、これが春吉にわざわざ自分から
喋らせて欲しいと言った内容だった
春吉は3Dカメラの前で話す誠矢に向かって
「グッジョブ」した
「俺だってハヤテが300メートルサイズの
大戦艦だったら新鋭艦だし用心もする・・
だけど駆逐艦サイズだったら用心なんかしない
それどころかバカにして適当にあしらう」
確かに誠矢の言うとおりだな・・誰もが
そう思った・・正論だ。
「事実・・敵もハヤテを侮り
全滅した・・其れも只の一撃で」
誠矢の言葉に嘘偽りが無いのは搭乗員なら誰もが
目撃した嘘偽りのない事実、否定のしようがない
「だから出来ればこのまま、ハヤテは実力を
隠し通して敵ガルスグレーサーを倒し続ける
のが一番の策だと俺は思うんだ」
誠矢の言ってることは単純明快で解りやすい
「だけど・・ハヤテの秘密を守るのに
一番の敵は・・実は味方なんだよな」
誠矢は頭を掻きながらそう言った
「ヒーローが正体を隠して悪と戦うと
どうしても理解してくれない同僚や
上司から悪口を言われたり邪魔されたり
するもんだ」
「俺達はそれに耐えなきゃ成らない
そんな彼等さえも助ける正義感が必要なんだ
そんなの何だか・・凄く格好いいだろ?」
聖矢の言葉を聞いている若者達の眼が
子供のように純粋な色に輝く
「確かに・・か・・格好いいかもな」
「実は・・今回具体的に足を引っ張られた
・・ハヤテの超兵器を知らない軍の御偉方が
アステロイドベルトで異常な現象が起きたから
艦隊を戻らせた・・それが事の真相らしい」
誠矢は春吉からこの事を事前に教えられていた
何かの役に立てばと用意してくれた話の種である
この話を聞いた若者達は
なんだよーそれ? 人の苦労も知らないで
知らなかったとは言え折角のチャンスをさー
と言う野次を飛ばす元気まで取り戻す。
「味方のせいで折角の苦労が水の泡だ
確かに・・・報われないよな」
これを聞きハヤテのクルー達は苦笑いした
・・ああ此から先・・同じ様な出来事が
頻繁に起きるのだろうと予測できたからだ
正義の味方って報われないんだ・・
「だけど俺達には地球を守る力がある
孤独な正義の味方も皆となら俺は
やり遂げる自信があるんだ!」
ハヤテ艦内に歓声が上がった。
___________________
この放送は、
ハヤテクルーの結束力を
否が応でも強める結果となった
又同時に誠矢は
ハヤテの艦内で一目置かれる
存在となった、具体的にはジャックゴルドーが
誠矢をサーと敬称を付けるように成ったことが
顕著な変化だと言える、
「グレートだ!サー・オオシロ」
気に入った相手でなければ戦車隊と言う
荒くれ集団の頭であるこの大男に
そう呼ばれることは絶対にない。
誠矢がハヤテの第一司令室に戻ると
仲間達から拍手喝采を浴びる
「なかなか面白い放送だったぜ誠矢」
誠矢は、からかうなよと響に返したが
響としては大真面目で
良くやったと言う意味らしい
「まあまあ照れるなって!」
大城誠矢を高く評価しているのは何も
誠矢の周りの若者達だけではない
東京湾の港に停泊している
駆逐艦ハヤテに黒塗りのベンツが
乗り付け、そのままハヤテに転移した
そしてハヤテの艦長室に勝艦長を訪ねて
小田司令が訪ねてきたのである
「よくぞおいで下された小田司令」
「やあ勝君!お邪魔するよ」
小田司令は上機嫌である
「それでわざわざお忍びでお越しに成られた
理由は何でしょうか?」
小田司令は砕けた感じで勝流水に
「気心の知れた者同士、たまには君と
語り合いたくてね」
「まあハヤテの中が一番安心して
気が抜けるからな、料亭などより余程良い」
小田司令はドカリと艦長室の重厚な
ソファーに腰を降ろした
勝流水は自慢の酒の一瓶を取り出し
「それでは今宵は司令ではなく
友人として貴方をもてなそう」
小田司令は満面の笑みで
「ああ流ちゃん!久々に飲み明かそう」
それから二人の小さな酒宴が始まった
「まあ・・一献」
清酒が杯に注がれる音が鳴る
おととと・・・・
「それにしても見事な演説だった・・」
勝流水は其れが自分の事ではないことなど
とっくにお見通しだ
「大城の事なら予想外のイレギュラーだ
出しゃばりすぎたとも言える」
だが小田司令はそれが勝流水の本音では
無いことは先刻承知である。
「少なくてもハヤテクルー1540人の
心を掴んだのだからやはり王家の血筋は
伊達じゃないと言う事だろう?」
「少しは励みになりましたか?」
勝流水の言葉に小田司令は笑いながら
「大いにね!」そう言い酒を飲む
今後の艦隊帰還命令に関する艦長達に
約束した科学的調査に納得いく理由と
説明をするのを考えると気が重い状況だが
其れが緩和される様な明るい話である
「まあ彼のカリスマ性が開花するのも
時間の問題だろう・・楽しみなことだ」
小田司令は御満悦の様子だ
「我等が王国の未来も此で安泰だな・・
後はよい后でも娶られれば」
嬉しさで話が止まらない小田司令に勝艦長が
「浮かれすぎですぞ司令」と釘を差す
小田司令は急に真面目な顔になり
「だが此で王子は名実共にハヤテの
顔になった・・色々と心配事が増えるのは
間違い有るまい」
「まあ確かに・・危険な目にあうリスクは
今までより多くなるだろう」
勝流水の言うリスクは王族なら
誰しも抱える問題だ
「まあその為に・・王族を守る王家の剣が
常に王子を幼い頃から守っているのだからな」
小田指令が言っているのは誠矢が幼い頃から
行動を共にしてきた人物のことだった
「坂巻進吾・・そして崎景子・・あの二人が
大城兄妹を守護する王家の剣だと知るものは
もう流ちゃんとこのワシだけだな」
坂巻進吾と崎景子の両親は
王国の敵との壮絶な戦いの末に亡くなっていた。
王国の敵とは・・ガルスグレーサーとは別に
地球に残ったムーの子孫達である
その
ムーの末裔を名乗る一団が
ガルスグレーサーと手を結び近頃
スパイ活動を活性化しているのは
由々しき事態だ。
「ムーの末裔か・・敵はガルスグレーサー
ばかりではないと言うのが何とも腹立たしいな」
小田司令はそう言って杯を煽った
更に勝流水の言葉
「此処だけの話・・防衛隊艦隊の中にも
奴等の手駒が紛れ込んでいる
・それら・からもハヤテの秘密を守り抜き
戦いに勝利しなければならない」
「前途多難だな・・」
小田司令の酒はいやが応にも進む・
夜の東京湾に明かりが灯り
又・停泊する
巨大な戦艦群がライトを点灯すると
幻想的な光景が傷ついた人々の心を癒す
地球を護る
宇宙戦艦の勇姿は人々に安心と
安堵の夢を見せてくれる。
ああ・・
こんなに大きな力強い存在が
自分達の命と生活を守ってくれている
そう思うだけで安らかな睡眠が
約束されるのだ
T都市が壊滅して
日本エリアの首都機能は
第二の首都となったY都市に移された
灯りが灯るとT都市の部分だけ
日本全体の灯火の中に黒い穴が開いている
悲しい現実は宇宙からは丸見えになる
この光景を
遠くから見るガルスグレーサーは
どう思うのか?
人工密集地に平気でミサイル攻撃をする
連中を同じ人間だとは誠矢には思えない
東京湾駅から直通のリニアに乗れば
横浜駅に5分で到着だ
大城誠矢は
ハヤテクルーの仲間達に誘われ
夜の横浜にやってきた
ハヤテの放送でスッカリ誠矢の
ファンになった小原正二の提案だった
「隊長の放送に俺本気で感動しました!
こうして無理して付き合って貰って
すいません、でも俺達」
小原が誘ったのは戦闘部隊の隊員達である
「大城戦闘隊長ともっと話がしたいんです」
うっ!
誠矢を見つめる若者達の熱視線が眩しい
誠矢は自分の部下と親睦を深めるのに
呑みに行くからと響と坂巻を誘った
「わるいな進吾!崎さんとデートの
予定だったら本当にゴメン!」
そう言って手で拝む誠矢に
「大丈夫だ・・帰りに合流する予定だからな
こっちも真耶ちゃんとデートしてるから
気にしないでって言われたよ」
坂巻は誠矢にとって
同い歳でも頼りになる兄のような存在で、
逆に響は弟みたいな存在なのである。
横浜の繁華街は
敵の空襲を受けていない
それだけで今の地球では
幸運な街だといえる
全戦力の3割を失った防衛軍の
現戦力で世界の都市を守りながら
侵略軍と戦うのは
殆ど不可能だと言って良い
だが・・・
アステロイドベルト戦でハヤテが
ガルスグレーサーに与えた打撃は
損耗率20パーセントにも及び
今直ぐに地球に向け敵が
侵攻してくる可能性は低くなった。
「俺達が地球を守ってるなんて
何だか凄いですよねー」
小原が誠矢に楽しそうに話しかけてくる
そして小声で
<敵がガルスグレーサーって名前でさえ
公表されてませんもんね>
誠矢は小原に小声で
<余り外でその話はするな
ハヤテ艦内以外は何処に敵が聞き耳を
立ててるか解らないからな・・>
其れを聞いた小原の表情が一瞬固まる
<・・お・・俺・考えなしに隊長を
誘ってしまってすいません>
誠矢は小原の肩を叩き
「其れは良いんだよ、仕事以外の話なら
何も気にする必要はないから大いに楽しもう」
その途端 小原の表情が明るく戻った
「はい!大城隊長!」
誠矢を中心に若者達は夜の繁華街を満喫した
酒に弱い響も早々に潰れる位には羽目を外した
坂巻が響に水を飲ませ夜風に当たらせていると
そこに誠矢がやってきて坂巻に声を掛ける
「竜一はどんな案配だ?」
坂巻は鷹のような
猛禽類の目に長い睫毛をして
いるのが印象的な美形だが、こう見えて
格闘技の心得まであるエースパイロットである
その佇まいだけで徒者じゃない感があった
相変わらずの強者のオーラだな・・
そう誠矢が感じていると
「こいつも誠矢の放送に気持ちが高ぶって
らしくなく飲み過ぎたみたいだ」
坂巻にまで煽てられると誠矢も少し照れる
「何しろ・・俺達はどんなに活躍しても
世間からは評価されない立場だ・・
だからお前の言葉で救われたんだよ」
「何だ坂巻お前もも酒に酔ったのか?」
「せめて仲間同士でだけでも褒め合わなきゃ
やってられない・・そう思うだろ?」
坂巻からそう言われ誠矢はハヤテの皆が
褒められたい気持ちで一杯なのに
其れが叶わない事が悔しいのだと解った
「これからお前が沢山褒めてやれ誠矢・・
皆お前に褒められるだけで戦う事が出来る」
誠矢は親友のこの夜の言葉を生涯忘れる
事はなかった。
その頃、店の中で一騒動起こっていた
たまたま誠矢達と同じように夜の繁華街に
やってきていた他の戦艦の乗組員達と
小原達が揉め事を起こしてしまったのだ
その揉め事の原因は
誠矢が警戒していた通り
ハヤテに関する根も葉もない噂がその発端だった
「だから其れは言えないと言ってるだろ!?」
小原正二は目の前に立つ筋骨隆々の屈強な
軍服を着た将校達と対峙している
「何故言えない!?お前達の船は
駆逐艦なのに戦艦3隻分の軍の補給物資を
貰ってるんだろ?」
「その物資を売った金が何処に行ったか
聞いているんだ!」
真実を言えない小原は言葉に詰まるしかない
「軍事機密だ・・」
此を聞いた顔に傷のある強面の
将校はビール瓶を取ると
その中味を小原の頭から注いだ
「聞き飽きたんだよその言い訳は」
小原の後ろにいたハヤテの仲間達が
強面将校の無体に声を荒げた
「貴様!副隊長に何しやがる!」
そう言って今にも掴み掛かりそうな
部下達を小原は手を掲げ制した
「やめろ!」
小原の制止で部下達は何とか踏みとどまる
そしてその強面将校はあろう事か
「どうせお前達が横領したんだろ?
そんな金があるなら俺達にも奢ってくれよ」
そいって挑発する
小原はニンマリ笑いながら
「テメエなんかに奢る・・金はないよ」
そう言い終える前に強面将校のビンタが
小原の顔面を張り飛ばした
「この俺を嘗めやがって!物資を横流しする
泥棒一味の横領野郎がよお!」
小原は拳を握りしめてこの屈辱に耐えた
そして心の中で、(危な・・かった)
(大城隊長の放送を聞いてなかったら
何もかも暴露して此奴を病院送りに
してる所だ・・感謝しますよ隊長・・)
そして
「テメエのへなちょこビンタなんか
全然効かないぜバカ野郎が・・」
この言葉を聞いた
その強面将校は怒りで
顔色が変わり今度は拳を握りしめて
小原の顔面を殴った!
その騒ぎを聞きつけ集まってきた
大勢の野次馬が野次や歓声を上げ
ていたが・・やがて
おい不味いんじゃないか?
誰か止めないとあいつ危ないぞ
そう小声で言い出す者達もいるが
何しろ大男6人のしかも軍服を着た
連中相手にそんな勇気があるものはいない
鮮血が飛び散りその喧嘩を見ていた
女性達が悲鳴をあげる
小原の顔はもう
血達磨だったが意地でも詫びる気はなかった
(何も悪いことはしていない
絶対に詫びたりしない・・)
それだけ殴られたにも関わらず
小原は倒れることなく耐えていた
「貴様!謝れ!謝るまで殴るのを止めんぞ!」
そして何度も何度も殴る、さすがに耐えかねて
小原の部下達が止めに掛かるが
彼等よりも先に素早く動いた影があった
そして調子に乗って小原を殴っていた
強面将校の拳を手の平で受け止めたのは
それは静かに怒る大城誠矢だった。
「何だ貴様!」
叫ぶ強面将校に誠矢は一言
「こいつの上司だ」
と言った
その強面将校は誠矢に握られた手が全く
動かせない事に気がつく
「こいつフザケるな離せ!」
そう叫んで
あいている方の拳で殴ろうとするが
誠矢は掴んでいる強面将校の拳を
砕けそうになる位に強く握った
「ぐぎゃあああああ痛い痛い痛い」
強面将校は痛い痛いと泣き叫んで
誠矢に拳を握られたまま膝から崩れ落ちる
「もっと体を鍛えないと恥ずかしいぞ」
誠矢は皮肉っぽくそう言いながら
強面将校の拳を解放した
「てっ・・てめえええ~~っ
か・・構わねえからやっちまえ!」
強面将校がそう仲間達に言うが
その時、誠矢ともう一人
帰って来ていた坂巻進吾が颯爽と現れて
強面将校の仲間達の前に立ちはだかった
「何だ此奴!邪魔だどけ!」
そう言って殴りかかった男に
坂巻は人差し指の1本を立て
それを首に突き立てた
その瞬間その男は
ものも言わずに地に伏した
坂巻流銃拳の達人である
坂巻進吾は厳しい修練により指先を
魔導で圧縮硬化させ対象者に
指弾を撃ち込むという技を身につけている
坂巻は見えない速度で次々に
男達に指弾を撃ち込み、あっという間に
屈強な男達は沈静化された
電光石火!
一体何が起こったのか・・
見物の野次馬はもちろんの事
この場にいた
他の誰にも坂巻の動きを
目で捉える事は出来なかった
「酒の飲み過ぎは程々にな」
坂巻が倒れた男達にそう言うと
野次馬達も そうか飲み過ぎか~
だっせ~ 足がモツレたんだろ?
と言う野次が飛ぶ 致し方ない、素人には
坂巻に向かっていった男達が勝手に倒れた
ようにしか見えないのだから。
強面将校は
目の前で起きていることが
信じられず悪夢でも見ている気分だった
そして自分の前には
自分より5歳は年下なのに
やたらと迫力のある大城誠矢が
自分を見下ろしながら睨んでいた
誠矢は部下である
小原正二の様子を見てこう言った
「今此処で貴様を殴っても
けが人が増えるだけで防衛隊の特にならない」
「・・だが小原をあそこまで
痛めつけられてはこのまま黙って
帰す訳にも行かないな」
さてどうするか
誠矢はそう言うと
強面将校の胸倉を掴み
腰が抜け立てない強面将校を
曵吊り起こす
「隊員証を出せ!」
誠矢の目を見ているだけで
怖くて逆らえない
強面将校は情けない顔で許しをこうが
誠矢は命令を変えない
強面将校が震える手で
ポケットから隊員証を差し出すと
其れを確かめ
「そうか貴様は戦艦金剛の搭乗員か・・
こんな事で経歴に傷を付けたら艦長に
顔向けが出来ないぞ!」
強面将校は顔色が変わった
「そんな・・ちょっと待ってくれ!・・
いや下さい!」
「俺の階級は駆逐艦ハヤテの隊長クラスだが
同時に軍警の特殊班を指導する坂巻流銃拳の
顧問もやっている」
「ぐ・・軍特の・・顧問官!」
強面将校は悲鳴を上げた
なんて男に逆らってしまったんだ!
「もももも・・申し訳有りません!!」
だがもう遅い
誠矢は自分の電子隊員証に
強面将校の隊員証を赤外線登録すると
隊員証を強面将校に返した
「俺の権限でお前を軍警の特訓に参加させてやる
なーに少しばかり精神と体を鍛え直すだけだ」
軍警察の特殊部隊の特訓に参加できるのは
一部の志の高い隊員には垂涎の訓練だ
ただしコーチ達は鬼教官ばかりで
地獄特訓と噂される・・・のだが
此に参加出来るのは
防衛隊でも大変名誉な事とされてる
「艦長も貴様の幸運に喜んで
送り出してくれる事だろう」
そう言って誠矢は強面の肩に手を置いた
「良かったな」
「うおおお」
強面将校は絶望の声を上げ
力なくうなだれる・・自業自得とはいえ
誠矢はそのまま
小原の様子を見に行った
小原の顔は血だらけだが
何とか無事なようだ
部下の隊員達が誠矢を涙目で見て
「隊長・・俺達・・悔しいです」
と言って泣いている
「た・・隊長・・俺・・」
誠矢は小原の怪我を確かめ終えると
ホッとした様子になる
「良く我慢したな小原
・・・お前が暴れたら
難しいことに成る所だった
さすが俺の部下だ偉いぞ」
其れを聞いただけで小原は鼻の奥が
痛くなり涙を流した
「た・・隊長に褒め・・凄く・・嬉しい」
誠矢はそんな小原の頭を撫でて
「解った!解ったからもう喋るな」
気が緩み小原はそのまま意識を失った
「おい!急いでハイヤーで小原を基地に送り
Dr.北本に観てもうように手配しろ」
誠矢達が慌ただしく小原を
運びだそうとしていると5人の男達を
黙らせてきた坂巻が誠矢達に近寄ってくる
「誠矢、たった今景子から連絡があって・・
真耶ちゃんが具合が悪くなったから
直ぐに駐車場に来て欲しいらしいんだ」
その話を聞いた誠矢は
小原を見て少し戸惑う
「隊長大丈夫です話は聞きました
副隊長のことは俺達に任せて下さい」
誠矢は部下達に
感謝して後を任せその場を
後にした
・・だがその様子を密かに
伺っていた怪しい男が何処かに連絡をする
「こちらメジェド・・目標のタカが飛んだ
今から狩りの時間だ」
その不審者は口元に
不気味な笑みを浮かべた。
誠矢と坂巻は
気分が回復した響を引き連れ
景子と真耶が車で待つ
駐車場にやってくると
運転席の景子に
「待たせて悪い」
そう言って誠矢は
車の後部座席に乗り込んだ
そして横になって寝ている真耶に
「どんな調子だ?」
と優しく言葉をかける。
真耶は顔色が真っ青だった
「わ・・私は平気よ・・兄さん」
とてもそうは見えない
「直ぐに北本先生に見せたやりたい
悪いけど頼むよ景子さん」
「任せて」
ハンドルを握る崎景子の隣の
助手席に坂巻進吾が乗り込み
響が後部座席に
真耶を挟む形で乗り込む
「ゴメン真耶ちゃん隣に座るね」
響は大好きな娘の隣に座れるだけで
天国にも昇る思いである。
お尻が当たってて
意識するし肩も当たって
す・・凄くモジモジする!
これで真耶がもたれ掛かる相手が
自分だったら・・・
響がそんな妄想に耽っていると
いつの間にか車は高速道路を走っていた
「え!?」
その時である
対向斜線を走る大型トラックが
突然斜線を乗り越えて誠矢達が乗る
車に向かっていきなり突っ込んできた
「危ない!」
眩しいライトの光に照らされて
トラックを避けようとした景子は咄嗟に
ハンドルを切るも間に合わず
最早トラックとの衝突は回避不可能な
状況となった
その刹那
真耶が咄嗟にトラックを払いのける
仕草をすると、まるで巨大な見えない手で
払いのけられた様に巨体のトラックが
運転席を下に向けたまま
物凄い勢いで上空まで弾き飛ばされ
そのままガードレールを飛び越え
10メートル下の海面に叩きつけられた
後にはトラックのタイヤ跡が
不自然な位置で途切れているだけだった。
数年前に亡くなった友人の遺作です
10代の頃に書いたものなので
多少時代が古く感じられるでしょうが
宜しければ読んで見て下さい
亡き友に贈るメモリアルストーリー。
疾風 (神風型宇宙駆逐艦)
艦歴
発注西暦2986年度艦艇補充計画
起工2997年11月11日[1]
進水2998年3月23日[1]
竣工2998年5月11日[1]
性能諸元
排水量基準:1,2700t 公試:1,4000t
全長133メートル
全幅9.16メートル
機関グランディディエライト号艦本式缶4基
艦本式グランディディエライト2基2軸
速力光速の50~80%
航続距離∞
燃料水素:∞
乗員1540名
超高密度装甲オスミウム
兵装
主砲50センチ・アレキサンドライト・カノン3連3門
副砲35センチ・アレキサンドライト・カノン3連2門
45口径12cm2連装砲40門
銀河式53cm連装宇宙魚雷発射管30基
(宇宙魚雷100本)
留式77mm機銃2挺
爆雷180個
王家魔導炉システム
シルバニアによって
ハヤテ内部の物質は全て
10分の1に圧縮・縮小される
此れを称してシルバニア現象と呼ぶ。
王家システム兵装
超宇宙竜巻ジェット・トルネード
超重力グランディディエライト・カノン
超圧縮恒星砲クオークオーンプラズマ(QGP)