9 平家と鞍馬・・・1
やっとの思いで里に到着するようです。
農家の家族と別れ、目的地、平家の里へ、先頭は山師松男が、次にマタギ良蔵、真ん中に侍女の百合と百合に背負われた正太郎、最後に忠義という順番に、なんでも里に行く道には、一見道に見える所を進むと迷路になり、方向も分からなくなり遭難する罠があり、仮に抜け出しても次の罠が待ち受けており、容易に近づく事が出来ない場所であり、ここより先は慎重に歩むので山歩きに慣れているマタギと山師を先頭に進むのであった。
その里は過去に平家追討により源氏の者たちに里の近くに住んでいた平家の者たちが襲われ数十人の命が奪われた事がその昔にあったそうだ、その教訓から平家の里では、時告げ鳥を飼ってはいけない、お祝いのこいのぼりなども、禁忌とし、どの位置からも見つからない場所に里を作り、里のマタギが監視役となり目を光らせているとの事だ。
山師の松男はこれまでに前任者から監視役のマタギと顔合わせをしているので、里に行く場合、マタギが松男を見つけた場合は里まで先導し、案内されるとの事、いつも宿泊する宿に指定されている家の主人が里の長ではないかと思うとの話であった。
主人の名前はいつも胡麻化され不明だと説明を受けた、私が那須家の使いで、様子うかがいで来ているにも関わらずいつも丁寧に歓待して頂きこちらが恐縮する程だと、もちろん宿泊したお代も受け取らず申し訳ないばかりであると松男からの説明であった。
里には男鹿川という川に沿って道と思えない河川敷を歩いたり、山側に移動したり、樹海の中に入ったりと、全く周りが樹木に囲まれ、方向感覚も無くなり、松男がいなかったら間違いなく遭難したであろう、そんな中、獣道を進むと大きい樹木の根っ子の所に、やや大きい鳥のヒナが二羽泣いており、松男の話では鷲のヒナではないか、その木の上に巣がありそこから落ちたのでは、あと一か月もすれば巣立つ時期だと、まるまる太っているので焼いて食べると美味しいと松男は喜んで取り上げようしたが、正太郎は怒って食べたらお前は切腹だ、ヒナを里に連れて行きなんとかしてもらうと言って叱ったのである。
ヒナを拾って正太郎の服の中にしまい、一緒に背負われて里へ向かうのであった、暫く行くと突如二人のマタギ風の男が現れ、松男と挨拶し、正太郎に。
「この者たちは里の者です、ここから先を案内するとの事です」
「そうか、那須正太郎である、道不案内なのでよろしく頼む」
と声をかけ二人の男は頭を下げた後黙って先頭と一番後ろに分かれて歩き出したのである。
松男に聞いていたが本当に何処かで我らを見つけ監視した上で松男と確認出来たので、姿を現し道案内になったのだろうと理解したものの、こんなに奥深い山の中でどうやって見つける事が出来たのか不思議でならなかった、里の者と合流して約一刻二時間ほどで里らしき風景が樹海を切り開いた所に突如出現という感じで現れた。
三依から僅か8キロ位の距離であるが、既に日が暮れる夕方となっており昨日よりも皆の様子は疲れたようである、従女の百合も疲れ果てて、ずーっと一言も話もせずに疲れ果てている感じある。
正太郎はずーっと背負われており、体中が座ったままの状態で固まってしまったかと思うほど硬直した状態で里に着いた。
案内してくれた男達が馬の面倒と荷下ろしをし、さらに拾ったヒナ二匹も面倒見ると言って預かってくれ指定の宿に案内通され、さっそく宿の女将が挨拶をされ我らを受け入れてくれたのである。
そのまま部屋に案内され、宿には温泉が引かれているのでゆっくり体を休めて下さい、夕餉も準備が出来ましたらご案内しますと言って女主人は下がり、中居さん的な女中と入れ替わり支度をしてくれたのである、正太郎は城にある湯舟にはいつも入っているが温泉という湯は初めての事であり、百合に聞いても初めてだと言っていたので、私の体を洗うなどの面倒もあり百合と一緒に温泉に入る事になった。
男達はそれぞれ勝手にしろという事で分かれて温泉に浸かる事にした、正太郎は所詮五才の幼児であり、まだまだ女性の体に興味も無く、百合も嫡子ではあるがただの小さい子供であり、弟の面倒を見るといった感じで一緒に温泉に浸かるのであった。
「おーおぉー、これが温泉か・・・・うーうっーー い痛たたたーたー、お尻がじんじんするぞ、なんかいつもの湯舟と違うぞ、百合はどうだ?」
「ふぁーっーふー・・・」
と幸福感いっぱいの吐息を発する百合。
「足が、ふくらはぎがじんじんします、あーあっー、下半身もじんじんします」
と声をあげ。
「うーー体中がなんか痺れているようで疲れが癒されます」
と感動する百合であった。
「これは実に気持ちがいいのう、城の近くにも温泉はあるのかのう、百合は知っているか」
「さぁーどうでしょうか、聞いた事がありませぬ、与一様を祭っておりまする温泉神社の近くならきっとあるかと、ただお城からですとちと遠きになります」
「おっ、この湯はなんか目に滲みるぞ、目を開けられないぞ、変わった味もするぞ、舐めてみろ百合」
「あっ、きっと温泉は飲むものではありませぬ、目に入れてもダメです、あとで女中さんに聞きますので、それまではダメです」
平家の里、ここは後に温泉の名所としても有名になる湯西川温泉という所である。
泉質は単純温泉、効能は自律神経不安定症、不眠症、うつ状態、筋肉若しくは関節の慢性的な痛み又はこわばり(関節リウマチ、変形性関 節症、腰痛症、神経痛、五十肩、打撲、捻挫などの慢性期)、運動麻痺における筋肉のこわばり、冷え性、末梢循環障害、胃腸機能の低下(胃がもたれる、腸にガスがたまるなど)、軽症高血圧、耐糖能異常(糖尿病)、軽い高コレステロール血症、軽い喘息又は肺気腫、痔の痛み、自律神経不安定症、ストレスによる諸症状(睡眠障害、うつ状態など)、病後回復期、疲労回復、健康増進と案内されている。
温泉を堪能し部屋に戻ると、先程の女主人と名乗った女性が正太郎もとに再度挨拶したいとの事なので忠義以外を席から外させ女主人と三名にて行った。
宿で最初に挨拶した雰囲気とは違い、私が上座で、その横に忠義、女主人が下座に座り、女主人より。
「この度は大変に遠くき、困難な隘路の中、お越し頂き恐悦至極で御座います、私、女主人女将をしております、伴と申します、どうぞ里にてごゆるりとお過ごし下さいませ、御用の向きがありましたら里の者を代表して、私がお聞きしますのでなんなりとお申し付け下さいまし」
と挨拶する女主人であった。
「私が那須家嫡男、正太郎である、横にいるのが我が従臣の忠義である、私はまだ幼い童であり、世間の物事を学んでいる最中であり失礼な話などしてしまうかと思うがどうか許してほしい、此度は突然の訪問なれど、この様に伴殿始め隘路を道案内してくれた事に心より感謝いたす」
この通りであると言って頭を下げる正太郎に、驚き感じ入っている女主人であった。
そして正太郎より思いがけない話を振られる事に。
「明日、明後日でも良いので里を代表するというそなた女将と鞍馬に繋がる子孫の代表者と共に語り合わなければならぬ事があるので秘密裏に会いたい」
と驚きの言葉が発せられたのである、女主人は確かに里の者を代表する際の表側の者であり、だが、何故知っているのか、この里に鞍馬と言われる者たちがいる事を、これはこの里の者にとっても特別な秘事であり、決して言葉に出来ない程の里の命脈に関わる事であり、嫡子とは申せ、五才の童から申しつけされた事に驚愕し血の気を一気に失い、暫く間拝礼したまま動けなくなってしまったのである。
那須家の代々の当主であっても知りえない秘事を目の前にいる幼き嫡子から鞍馬という名が告げられたのである、その夜女主人のもとに一人の男が訪れるであった。
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温泉に入りたい、ここは本当に絶景でいい所ですよ。
次章「平家と鞍馬2」です。