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那須家の再興 今ここに!  作者: 那須笑楽
308/331

関ヶ原・・・7



本陣に向かって走り出す小太郎、偽本陣の近くにいる飛風、大申、100貫、颯に陣幕内にいる梅の元に行き敵の手練れた忍び達から守れと言う指示を受け梅の周りにも鞍馬の一線級の忍び達が・・・



「菊・・妾の代わりにここにいよ、妾は陣幕の外に出る・・良いな! ・・それでは危のうございます梅様を守れませぬ! ・・案ずるな!! 良いな動いてはここにいる者達に迷惑がかかる、動いては成らぬ!」



敵の忍び達は頭領鈴木孫一を守るために指示に従わずに陣幕に向かう敵の忍び四名、梅は飛風、大申、100貫、颯達が来た事で陣幕の外でじっと動かずに様子を伺い鉄砲を構えている者へ全神経を合わせた。

梅は暗闇が支配する中で更に目を瞑り50間程離れた所に居る鉄砲を構えている忍びにだけ全感覚を研ぎ澄まし一切の音を立てずに陣幕の外に飛び出た。


その昔資晴が当主になる以前に暗殺されかけた時に不甲斐なくも梅は敵の忍びに倒され一命を失う危機に遭遇している、その後一命を取り留めたがくノ一として忍びとして主である資晴を守れなかった自分はあの時に死んだと理解している、今の自分はこの命全てを使い資晴を闇の中で葬り去ろうとする輩を見逃さず冥府に必ず送り引導を渡す守護者になるとあの日より誓い鞍馬の里でくノ一の師匠よりある技を授かっていた。 死の淵を何度も彷徨い身に付けた技! 師匠はあの時こう言った!



「ほうどうやら見切れたようじゃな、この動きを千鳥と呼ぶ! 次は苦無じゃが、特別な苦無を授けよう、これは飛苦無の一種であるか、飛燕という特殊な苦無じゃ、扱いは難しく、投げると自分に戻り受け取りに失敗すれば自らを攻撃される苦無じゃ、これは敵が複数いても使用出来る武器となる、攻撃力も強く敵の注意をこの飛苦無に向けさせる事も出来る、必勝の武器となる、見ておれ、儂が投げる腕の曲げ具合と、手首の返しを良く見極めよ! あの樹向かって投げるぞ、行くぞ、見極めよ!」



「どうじゃ、枝を切り裂き苦無が手元に戻ったであろう、掴めたか、後は調練の繰り返しじゃ、この苦無は『飛燕』という鞍馬の特別な者ににしか伝わっていない苦無じゃ! 梅に授けよう、そして資晴様を御守り致すのじゃ!」




梅の心が叫んだ、師匠あの技を使う時が来ました! あの日より繰り返し調練を行い身に付けた技、今使わずしてどうするのか、この者達を逃がせば当主であり主人である資晴にその牙が向かう事は自明の事である。


暗闇が支配する中でじっと動かずに狙いを定めて鉄砲を構える杉谷善住坊、この名を名乗る者がもう一人いたが既に信長によって殺されている、殺された杉谷善住坊という仏僧はやはり鉄砲により信長を暗殺しかけたが失敗に終わりその咎により生きたまま首から下を土中に埋められ、竹製のノコギリで時間をかけて首を切断する鋸挽き《のこぎりびき》の刑に処されている、ではここにいる杉谷善住坊は誰なのか?


信長に首を鋸引きされ亡くなった杉谷善住坊の遺児でありそれを育てたのが鈴木孫一である、何故遺児を引き取り育てたのか、父親である善住坊に暗殺依頼を行ったのが孫一であり鉄砲に馴れ親しんで育っている息子の養父となり二代目の暗殺者を育てたあげていた。


孫一は雑賀衆の頭領であり雑賀孫一とも呼ばれ当主は代々孫一の名を世襲していた、雑賀衆は鉄砲を得意とする傭兵集団であり顕如に味方し何度も信長を苦しめ立ちはだかった、その後信長は変により亡くなり時代は秀吉の天下に、秀吉は顕如率いる本願寺とも手を結び何時しか傭兵集団であった雑賀衆、根来衆は秀吉の組下に置かれ此度の戦に参戦していた。


明日一日での決戦となり勝ち目が薄いと判断しての鈴木孫一自ら手練れを率いて南宮山にいると判断し奇襲を行うも那須資晴はそこにはおらず逆に窮地に追い込まれた孫一のもとに駆け付け脱出させようとする配下とそれを察知した鞍馬小太郎は飛風、大申、100貫、颯に梅を守るように指示を出し、自らは那須資晴がいる本陣に向かって飛ぶ出した、奇襲が失敗した事を悟り配下の者達に戦支度を行って明日に備えている軍勢の中心に那須資晴はいる、そこを襲えとの命によって引き返す者達と孫一を脱出させようとする者達の戦闘が開始された。


苦無の切音が飛び交う暗闇、眼を凝らし地音で敵の位置を探る忍び達、それとは別に陣幕の外に出てゆっくりと風の流れと歩みを合わせ梅が気配を消して杉谷がいるであろう場所に歩み出した。


(・・・こちらに近づく者がいるのか? ・・気のせいか・・・陣幕内に複数の者が忍んでいる筈じゃ、儂は最後に立ち去る者を仕留めるだけじゃ・・陣幕との距離は50間・・簡単には近づけぬ、儂の場所は解らぬ筈じゃ!!)


杉谷の予想とは違い確実に一歩一歩梅は近づいていた、何故近づけるか? 梅を導く先程まで申と一緒にいた狼が梅の横に・・獣に取って闇こそ自分達が自由に動ける時間であり狩りの時間である、ゆっくりと風に紛れて一歩一歩近づく梅の足取りが敵との距離が30間の手前で止まった。


善住坊も狙撃の達人であり何者かが近づいて来る事を察知し、その方向に銃口を闇の中に狙いを付けた。


梅が30間の距離で止まった理由は微かな臭いであった、それは先程撃った一発の鉄砲からの微かな硝煙の臭いであり硫黄臭を感じ取ったからである、風の流れと硝煙の臭いから敵のいる場所が判明した事でそこに留まった、両者の距離は30間、お互いに敵がそこにいる事を知りどちらかが倒れる事で勝負が付くと・・しかしどちらも自分が負けるとは歯牙にもかけていない。


梅は懐から特別な苦無を取出し手に構え呼吸を小さく小さく浅く・・心音も減らし気配を消す事に勤めた、善住坊とて同じ様に暗闇に溶け込み気配を消している、30間の距離では鉄砲の方が有利であり梅のいる場所が判明したら簡単に討取られる距離である、お互いチャンスは一度きり、暗闇のお陰で梅の姿を確認出来ずに引き金を押せないだけであり梅は距離を10間以内にする必要があった。


梅は横にいる狼と少し距離を取り善住坊に向かって再度動き出した。


(・・・二手に分かれたのか・・・もう一人いたのか?・・いや人では無い・・・? う・・もう一つも人なのか?)


善住坊が訝しるのも当然であった、30間の距離から動き出した梅の足の歩みは人のそれとは違っている事で地音で確認した善住坊が訝しんだのである、ひとつは狼の足音であり地音は微かな四足素行での動き、もう一つは二足であったり三足であったりと不規則な微かな地音で察知したからである、不規則な地音は前後左右に揺れて動き規則性の無い動作でありながら徐々に近づく、昼間であってもその動きを見れば得体の知れない物に憑りつかれ不気味さが漂う歩行と言えた、この動きこそ相手の思考を混乱させ平常心を失いさせる梅が師匠より授かった歩行術『千鳥』である。


眼を凝らし近づく気配が何なのかをその距離20間近くとなった時に朧げな靄を確認する事が出来た善住坊である。


(・・・あの靄のような物が儂に近づく正体か? 霊など儂は信じておらぬが魂の抜け殻でも漂っているのか・・・それとも篝火の煙が漂う陽炎の塊が彷徨って近づいて来るのか!?・・・では何故地音が微かに感じ取れるのだ!)


距離が20間となった処で足の速度を速める梅、今は暗闇が味方している、敵が混乱し判断に迷っている内に10間以内にと千鳥の速度を速める梅、梅からも善住坊の姿が朧げではあるが地面に伏している者が確認出来た、狼はやや後方で梅と速度を合わせ牙をむき始める。


(・・・もう少し近づいたら先に狼を仕留めるか!・・得体の知れぬ物を先に撃ち狼が走って来た場合次弾の玉薬を鉄砲に込める時間が足りないであろう、先に狼であれば次の弾込めに間に合う、10間の距離で先に狼じゃ!!)


梅は千鳥速度を速め、15間、13間、11間となった所で梅と狼は止まった、梅は千鳥の動きは止めずに前後左右に時には後ろに斜め後方へと鉄砲の狙いが定まらぬように動くも距離11間《約20m》の処から距離を縮めなかった、完全に鉄砲の射程距離であり命中すれば致命傷になる距離、暗闇であってもはっきりとこちらに砲口が向いている事でここからがお互いの勝負処と言えた。


(動け・・儂はもう暗闇でも的を外さぬぞ・・さあ動け!!)


そして杉谷善住坊は狙いを狼に定めて発射した、次弾の弾込めは充分に出来る距離、装填を急ぎ不思議なる物の怪に狙いを定めて構えた、しかし善住坊に向かって来る燕が飛ぶ風きり音が5間程の距離まで迫った筈が遠ざかる、緊張感が走る中であり真暗な暗闇の中での一瞬の出来事に善住坊の判断が一瞬遅れた。


梅は千鳥を行いながら手元にある特別な苦無『飛燕』を善住坊に向かって投げた、特別な苦無『飛燕』も師匠から授かった技であり弧を描きながら手元に戻る苦無であり描く軌道を予測して防ぐには昼間であっても難しい苦無である。


梅は飛燕を投げすぐさま狼を左右に走らせ今度は全速での千鳥歩行を再開しその距離8間となった処で鉄砲の火が吹いたが予測に反して狼が左右に動いた事と飛燕が一旦近づいた事で的を外しいしまう、すぐさま次弾に玉薬を入れ鉛玉を込め近づく敵に狙いを定めて構えた瞬間に飛燕が善住坊の首に刺さり血しぶきを上げ地に伏した。


狼が梅の指示により左右に動いた事で一瞬判断が遅れる事に、同時に投げ入れた飛び苦無の飛燕は近づく梅の手元に戻り再び善住坊に向かって投げた事で『飛燕』が善住坊に突き刺さり止めを刺す事が出来たのである。


その頃、偽本陣の南宮山では鈴木孫一の救援に向かった忍び達と鞍馬達によって激しい戦闘が行われたが忍び同士の戦いであれば相手が誰であれ鞍馬達には敵わなず、結局最後孫一だけが傷を負いながら囲まれていた。



「お主にも遠吠えが聞こえたか! 鉄砲の者も倒したようだ、後はお主だけぞ!!」



「・・・」



孫一はこれまでの事を悟り苦無を首筋に中て一気に切り裂いて絶命した、忍びは表に出てはならぬ者達、それは傭兵集団であっても同じであり絶命したとて次の者が孫一と名乗り意志は受け継げられる。


那須本陣の那須資晴を探し暗殺に戻った孫一の配下の者達は次々と和田衆の忍び達に捉えられ又は葬られていた、小太郎が戻る際に本陣周辺にいる和田衆に警戒するようにとの狼煙火の合図を送った事で近づく敵の忍びを見つけては複数で囲み対処した事で事なきを得ていた。


そもそも今夜の襲撃に梅が参加した事は絶対にあってはならない事ではあると言えた、では何故に梅は危険を犯して偽本陣の南宮山に赴いたのか? それは敵の忍びが動いたと言う情報を聞き、那須資晴から遠さげた場所で葬るには梅が動く事で罠に誘えるという特殊事情があった。


梅は資晴が幼少時より常に一緒におり当主となってからもそれは同じであり資晴の側には梅という特別な女性がいるという事は敵側にも充分知られている事でありそれを利用して偽本陣に誘い込み無事に対処する事が出来たが後に資晴より厳しい怒りを小太郎は受ける事なる、それは後の話である。


那須本陣では暁七つ《御前四時》になろうという時刻に態勢を整え始めていた、最初に動き指定された位置に配置した部隊は千本義隆が率いる砲撃の部隊であった、その場所は桃配山の麓であり標高30~80mに200台もの砲門を配置しある場所に標準を合わせて時を待った。



久々に買い物上手な100貫の名前も登場しました、活躍場面はありませんでしたが良しとしましょう。

次章「関ケ原・・・8」になります。

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