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那須家の再興 今ここに!  作者: 那須笑楽
302/331

302 梅と玲子

更新に時間を頂き感謝です。




── 梅 ──



史実より10年早く時が動き西国と東国が激突する関ヶ原合戦が間近に迫る中、那須家で極秘の評定が開かれていた、戦闘が開始された場合に那須側の勝利は確実であると考えていたが激戦の最中に敵将の関白である秀吉を仕留めても良いのか、又はどうすべきかと言う議論に発展していた、戦では敵将を打ち取ってこそ確実な勝利と言えるが秀吉の位が邪魔となり果たして討ち取ってよいのであろうかという疑問が提示されたのである、不思議と言えば実に不思議な疑問であった。



「では皆の意見は戦闘時であると言う大義を踏まえるのであれば討ち取って良いという意見で間違い無いのか? 出来る事であれば生け捕りにしても良いと儂は考えておるが!」



「降伏を申し出れば生け捕りした後に仕置は切腹等御屋形様に一任致しますが、御屋形様の悪い癖であります温情を与え酌量する事は勘弁願いたいと思います!!」



「うんうん、そうでありますとも、天下の趨勢を決める大戦であります、関白の罪を問わずに酌量は勘弁願います、某などは引き回しの上獄門磔でも良いと思う程であります」



「某も切腹などの名誉は要らぬと思います、遠慮のう仕置をして下され!!」



「半兵衛は如何に思う?」



「皆様の意見は是非に厳しい仕置を望まれておるようです、その事を念頭に入れまして捕えた後に成敗の差配をしてはどうかと思われます!」



「・・そうか・・では・・」



「お待ち下さい!!! 」



「どうした梅!! 何か意見があると申すか、折角である女子を代表して意見を申して見よ!!」



「僭越ながら皆様方の意見を聞き、実に失望しておる処でありました、結論から申しますと関白の仕置は切腹や獄門磔など一切なりませぬ、殺してはなりませぬ!!」



「何? 梅!・・・皆の意見が間違いと申すのか?」



「大間違いであります、御屋形様を裏切る仕置となります!!」



梅の一言によって極秘の評定が波乱含みとなった、梅は資晴の側室であり那須家を支えて来た功労者ではあるが男尊女子の戦国時代の評定時に参加する事自体異例でありその梅から皆の意見が間違いであり御屋形様を裏切る仕置と言われ怒気が籠る評定へと変わってしまった。



「梅殿! 某は御屋形様が幼少の頃より仕えており、同じく梅殿もくノ一の身でありながら御屋形様に仕えておりましたが、今の言葉は聞き捨てなりませぬ、この忠義にも納得の行く説明をして頂かねば納まりが尽きませぬ、ここにいる皆一同、御屋形様を裏切る仕置など望んでおりませぬ、言葉使いに遠慮せずに是非に説明をお願いします」



「ありがとう御座います、芦野忠義様! では皆様是非にお聞き下さい、皆様の仕置は関白と言う秀吉を武将のケジメとして切腹等の仕置を望んでおりましたが、秀吉を殺した場合の後を考えておりませぬ、今、秀吉を殺せば、秀吉は民の神へと昇天してしまいます、神殺しの汚名を妾の主人である那須資晴様に着せる事になり絶対に避けねばなりませぬ!!」



梅が語る内容はこの地獄絵図の戦国期に秀吉は百姓から生まれ育ち天下人にまで上った日ノ本初の最下層から上り詰めた者であり日ノ本9割以上の百姓を代表する頂点に立つ者、東国の百姓達であってもその英雄伝には憧れを持っている、戦の戦犯処理で秀吉を処断した場合は日ノ本中の百姓達の憧れである秀吉を亡き者にした怨嗟が那須資晴に向かう事になるという説明であり、それは許されない事でありもっての外である事、秀吉を殺して神として崇められた場合に、その因により第二、第三の秀吉が出現するであろう事が語られた。


梅が語る説明をじっと聞き入る一同の怒気を含んだ顔付は次第に青ざめて行く、武士の戦であれば勝敗は敵将を倒せば決着が付くが、百姓の頂点に立つ者が敵将と言う説明に評定に参加していた武将達は困惑へと変化していた、忠義も梅の説明に感じ入り感嘆していた。



「梅殿! この忠義、充分納得出来申した、我らの心得違いであった、御屋形様に取り返しのつかぬ仕置を求める処であった、助かった梅殿!!」



「梅よ! 儂ですらそのような事は気付かなかった、敵は百姓の頂点に立つ者であると・・実に恐れ入った話である、仮に秀吉を捕えた場合は仕置はどうするのが良いと思われる!!」



その言葉を待っていた梅はニヤリと笑い一言!!



「御屋形様の為に働かさせまする、生き地獄を味合わせます! 秀吉に取っては生き地獄かも知れませぬが罪は問わねばなりませぬ、その方が見せしめとなります!」



梅の話を聞き、ここにいる数十万石を差配する武将達は震え上がった、武将であれば磔で死ぬ方が楽であり戦に負けた無様な姿で生き恥を晒さねば成らぬとの仕置を聞き驚くとともに梅に逆らっては身が持たぬと自覚した武将達であった。


梅は女性ではあるがその感覚は鋭く男達とは違う視点で此れまでに那須家を支えて来た、男達は戦で勝利する処迄は考え付いていたがその先については当主である那須資晴が考える事であり配下の者は立ち入る事は出来ないと、上下関係の分別が邪魔をしていた、しかし梅にはその様な分別は必要が無く資晴が後に置かれる領分迄立ち入り忠言をした事になる、資晴もこの話を聞き戦前の評定を終える事にした。



「これよりの事は戦に勝利してからじゃ、勝ち負けは机上では決着がつかぬ、これにて今生の別れとなるやも知れぬ水の盃にて別れと致す! 良いな皆の者!!」




── 玲子 ──



戦が始まると言っても洋一と玲子には立ち会う事も出来ず結果を資晴より後に聞くだけである、戦略と軍略は充分伝えており洋一の役目もほぼ終わっていたが、ただ一つ玲子にも解決出来ていない大きい疑問が難題が残されていた。


それは那須資晴が幼少であった4歳の時に洋一と時を越えて繋がりあれから約28年が経過する事になるが何故繋がったのかとの一番の疑問、何故460年という時を経て繋がる事が出来たのか? 何故に那須家と今成洋一が関係する事になったのかという難題が残されていた。


玲子は歴史オタクであり戦国期に特化したオタクと言えた、洋一と出会った事にオタクにより拍車がかかり、歴史専門の大学教授に匹敵する知識量を備えているが460年という時を超えて繋がっている理由の謎が一切解けていなかった。


玲子は歴オタとは別にSF系の映画や書物にも興味を示す趣味を持っており、SF世界の空理空論も充てはめ考えて見るも謎に近づく事すら出来なかった。

ここ数年は那須家の史跡跡を巡ったり、最近ラべノで流行っている『異世界物語』なども読み漁りヒントが何処かに無いか探求していたが手がかりが見つからない状態であった。


玲子の考えは一つ一つの現象は点であり、点が増える事でそれを線で繋ぎ、最終的には立体として三次元で考察する事で難題の解決の糸口が見えて来ると考えていたが線を繋いで立体的に見ようとしてもその立体像が見えないでいた、玲子は迷路に迷い込んだ状態と言えた。



「洋一さんの中では那須資晴と繋がった事で昔の事を知りながら現代の令和で生活を普通にしているけど最近あった精神的な負担の外にも悩みとか気になる事とか無いの?」



「確かにあの鬱病というのは自分ではなんとも言いようのない状態でした、無気力というか物事を考える事から逃げなくてはという感覚に支配されていたと思います、正直こんなにも自分が弱い人間だったのかと思い知らされました!」



「それは私にも原因があるから申し訳なかったと・・・のんびり屋の洋一さんに、あれやこれよと言った具合で何でも要求していた自分が悪かったと反省しています、資晴と繋がって長年何かと負担になっている事をいつしか当然のように忘れていたのよね、本当にごめんなさい」



「いや、自分ももっと玲子さんに心配事など打ち明けていればストレスが溜まらずに負担にならずに済んだのに、でも今は会社を辞めて農協の臨時技術職員として農家を訪問出来る方が合っているみたいで伸び伸びと働けるし毎日が楽しい、だからその件は気にしないで、それより玲子さんの方が行き詰っている様だけど、疑問は解明しないと駄目なの?」



「正直本当行き詰ってしまったの、頭がパンクしそうなの? 解決出来ない事がストレスになっていて、いろいろ手あたり次第調べたけど、460年先の人間と精神が繋がるという現象に近いケースがどこにも見当たらなくて、SF小説の中でも時空警察、時空トラベルという分野があるけど、主人公が過去や未来に行き来して飛べる内容が主で、洋一さんみたいに別の人間になる460年前の那須資晴という人物と繋がるケースが無いのよ、他にもいろいろと仮説を立てて検討したけど解明に結び付かなくて今は迷路の中ね!!」



「最近玲子さんが読んでいた異世界物語の転生作品も主人公が過去や別の異世界に転生する話が中心ですからね、人と人が時を超えて繋がる話はネット検索しても無かったですね、空想世界と自分の身に起きた現象を比べても無理な話なのかも知れません、どうか悩み過ぎないようにして下さい、何気ない所にヒントが転がっているかも知れません、今はそれに気づけないだけかも知れません」



「私の性格なんだよね、気になった事はほっとけない性格なんだよね、考える事も好きなんだよね、だから城跡巡りも収穫が無くても楽しみの一つなんだ!!」



「じゃー今度の休みに烏山城跡に又行きますか? いい運動にもなるし」



「それなら神社にも行きたいので連れて行って!!」



玲子が此れまでに幾つか発見した中で今成洋一と那須資晴が繋がる点だと思われる事柄に今成家の祖は、宇野源十郎であり川越の今成と言う名前の村を北条家から拝領した馬廻役の侍でありそれはそれで大発見があった、北条家の家臣団が記されている北条分限帳には宇野源十郎 200貫465文 武蔵国川越筋今成 御馬廻衆という記述が明記されており、やはり川越が今成性発祥の証拠と言えた、そしてこの200貫465文は現在の金額に簡易計算すると約2500万円、当時は貨幣経済が整っていない時代であり2500万の利用価値はその10倍はあるであろう事から北条家では今成と言う名の祖になった宇野源十郎の地位は相当高いと言えた。


宇野源十郎の地位が高い証拠に川越にあったとされる今成館跡にあり現在も存在している今成神社がこの宇野源十郎による勧進で神社が寄進されている、一介の武士が神社を寄進など出来る筈も無く寄進した際の受書には川田備前守今成という名前で既に官位まで記載されている事から地位が高い人物と言えた。


その他にも宇野源十郎の実家とも言うべき本家は現在の小田原市に外郎家という名の家があり、北条早雲の招きにより小田原に来た事が判明している、現在の当主名は外郎藤右衛門という名前であり代々受け継がれて来た当主の名前だ。


この外郎家の人物を模した歌舞伎演目がある、歌舞伎俳優の二代目市川團十郎が持病で声が出なくなり、役者人生をあきらめかけていた、ところが『ういろう』という薬が喉に効き目のあることを聞き服用してみると喉の病がすっかり治りそのお礼にと演じたのが歌舞伎十八番の『外郎売』である(詳しくは268章に記載)


この今成性の祖に関係する発見はこれまで誰も統一した流れを辿っておらず部分的には読み解いた人はいたが全体像を明確にしたのは玲子が初めてである、これにより今成家は北条家と大いに関係があったと証明できるが、何故那須家である資晴と繋がったのか?


その後、休日となり洋一と玲子は約束通り那須烏山城跡を訪れていた、廃城となってから久しく年月が経過しており、山城でもあり石段が崩れた個所や道々は木々に覆われていたりと散策するには時間を要する城跡であった、昼の休憩と言う事でランチを広げ休む中、広場では草刈りを終えた年老いた男性が美味そうに煙草を吸っていた、距離が離れており煙も気にせずに食事を二人でしていたが余りにも美味そうに煙草を吸う男性の口元にある煙草に玲子の目が止まりじっと見つめ煙草が灰に変化して行く様子に見入っていた。


玲子の中で煙草が灰になる動きを見て・・・・時空って・・・・煙草と・・・


この日の烏山城での散策で玲子は大きな手掛かりとも言うべき発想の転換を・・感触を掴んだ!!



梅は凄いの一言、梅だけでも物語が出来そうです。

次章「関ヶ原・・・3」になります。

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[一言] タバコの煙と時空の繋がり、あるいは共通点とは?玲子は◯◯についてひらめいた!
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