300 関ヶ原・・・1
「そろそろ予定の時刻だが、中はどうなっておるかの忠義!!」
「まだ1000名程残っている様です、城と共に運命をと考えている者達かと、武士の情けで送ってあげるべきかと思われます」
「では時刻になったら木砲と石火矢で城を燃やすが良い、大手門を初め出入りできる門も木砲にて破壊すれば良い、城内に兵は送らないで良い、新しい城ではあるが戦の狼煙として利用出来れば良い、城から逃げて来る者は武装を解けば逃がすが良い!!」
那須軍の最初の攻撃目標は伏見城であった、朝鮮出兵の後に秀吉は将来の隠居後の居城として伏見城を完成させていた、史実より2年早く完成させていた伏見城を攻撃する事で那須側も明確に秀吉と対峙するという宣戦布告として城を破壊する事にした。
一方大阪城は那須の幟旗を林立させ10万を超える軍勢で包囲した、伏見城への援軍を阻止する目的と那須の幟旗を林立つせる事で敵は那須家であるという事を明確に伝える為であった、実際の包囲している軍勢は北条家と小田家の軍勢であるがあえて両家を伏せるようにしての包囲であった。
半兵衛の策は秀吉に籠城と言う策を用いられない様にする為に伏見城を破壊し、大阪城を包囲する事で挑発を行い関ヶ原の大地に誘い入れる呼び水として二城を利用したのである、大阪城と伏見城は秀吉の城であり贅を凝らしての城であるがその贅の源は民からの搾取である、戦国時代の戦いでの暗黙の了解とも言うべきルールがある、これまでは領地を広げる為に戦を行い勝利した場合は城を明け渡す、又は城攻めをして城を取る事で勝敗が決まっていた、例外はあるものの戦では不思議と城を壊したり破却する行為は珍しく城を接収した方が勝利したと言う事である、日本には城がいくつあるのか? 古い城も合わせれば2万5千以上も各地に城(城跡も含め)があるという、砦も城の一部として含まれているかと思うが相当な数と言える。
那須資晴が開戦の狼煙として伏見城を炎上させる行為は明らかに挑発であり大阪城に籠城させない為の策と言えた、挑発に乗らずに籠城でもすれば西国大名達は秀吉の元を離れてしまう事は目に見えている、伏見城への攻撃は僅か半日で終了した、城の城郭はハチの巣のように穴だらけとなり門は全て破壊され櫓も本丸も全てが火に包まれ炎上した、修繕しての利用は無理と言えた、一方伏見城が炎上し破壊された事で大阪城を包囲していた10万を超える軍勢はどこかに引き上げていた。
資晴率いる那須軍は京都から琵琶湖を北上し長浜より右側15キロに位置する関ヶ原に向かって移動を開始した、大阪城を包囲していた那須軍に見せかけた偽装の兵団は大阪より京都から三河に向けて移動を開始した、両軍が京都まで同じ道程にする事で西側には那須軍全体が関ヶ原に向かったと錯覚させる為の行動であった。
そして関白率いる西軍は約2週間後に続々と大阪に戻れる事に、この1ヶ月間は大阪より名護屋へ、そしてトンボ返りという精神的にも大変にきつい状態と言えた、ただ大阪に敵勢の那須が退去していた事で城内に戻る事が出来た秀吉は那須の動きを探る事に専念させ兵士達の身体の回復を計る期間を設けざる得なかった。
「三成! 伏見はもはや利用出来ぬ状態なのだな?」
「はい・・・申し訳ありませぬ・・」
「まあー良い、新しい隠居の城を作れば済む事よ、那須達の動きは判明したか?」
「はい、関ヶ原にて巻狩りなど行い戦支度を整えているようです」
「関ヶ原の地は儂が最初に得た長浜の地である、あの原っぱで戦う準備をしているとは、大した度胸と褒めておくが所詮若造の猿知恵じゃ、冥途の土産に天下取りした戦いを見せてやろうではないか、のう三成! 山奥の戦いとこの関白秀吉の戦いの違いを示してこそ天下人よ!!」
「それと内裏はどうなった? 那須の軍勢が所司代を追い払ったと聞いていたが?」
「今は居りませぬ、那須本軍と合流した模様です、所司代も京に戻っております」
「では帝は安全という事だな!! 内裏まで包囲するとは罪深い奴らよ!! 磔だけでは気が済まぬ、一族皆殺しじゃ、北条と小田の動きは?」
「それが三河から先には幾重にも関所が設けられ入れませぬ、そこで多数の忍びを放ち探りさせましたが戻る者がまだ居りませぬ、那須と連動した動きをしているものと思われます」
「きっとそうであるな、三家は一体じゃ、恐らく上杉家も同じであろう、此度はその四家を滅ぼす、さすれば1000万石は石高が増える、手柄の恩賞としては充分であるみなも目の色を変えて戦うであろう!」
三成が那須の軍勢が関ヶ原で戦準備の巻狩りをしているとの報告が伝えられたが実際には資晴の指示でこれまで那須五峰弓の封じられていた封印を解き本来の機能を兵士達が使えるように調練を行っていた、五峰弓の備えていた本来の機能とは弦を獣の筋を使い矢が強力な勢いで遠方に飛ばせる事であった、本来の機能とは、弓の開発時は約275間(約500m)現在の五峰弓は320間(580m)も飛ぶ弓でありこれまでは資晴の指示で弦を和弓の弦にして7割の機能で使っていた五峰弓である。
しかし7割しか飛ばぬ弓であっても火縄銃とは互角以上に渡り合い強力な武器として活躍しており問題は無かったが秀吉の決戦に備えついに封印を解く事にした資晴であった。
「御屋形様! これが本来の五峰弓であったのですね、某も初めて知りました!」
「昔、父上に弦は和弓の物で使用した方が良いと申してこれまでずっーと秘事としていたのじゃ! 此度は相手が秀吉であり先の小田原の戦いで五峰弓の力を痛い程知っている、それ故に対策をして来るであろうと考え封印を解く事にしたのじゃ、忠義が知らぬ以上知っている者は弓之坊とほんの数人よ、一応半兵衛には策を練る上で教えたが実際に使うのはこの調練が初めてじゃ! 弓には慣れたであろうか?」
「皆! 驚いております、これ程飛ぶ弓とは恐れ入ったと申しております、しかし流石に300間近くの的に当てるには、中々どうしてと言った所です、アインとウインと同じ様に目が遠目が出来る者が有利のようでありますな、人の目の方が追い付いて行きませぬ!」
「そうであろうな300間も離れてしまえば人の姿は豆粒程の大きさよ、豆を的に調練しているようなものじゃ、儂でも中々当たらん、後は秀吉が何処まで弓の対策をして来るかによるな、我らはやるだけの事は致した、この戦で戦国を終わらせるのじゃ、どちらが滅んでも戦はほぼ無くなるであろう!」
「何を謙遜成されておりますか、勝つのは我らでありますぞ御屋形様!!」
「まあーそうなのだが(笑)油断は禁物じゃ、ここは敵地じゃ、地形は調べつくしたがそれだけでは勝てぬ、最後は果たして天運がどちらに付くか味方するかであろう!!」
「何を弱気でありますか? 天運も既にこちらに付いております、全てが順調に御屋形様の思惑通りに動いております、大将は強気でいて下され!!」
「気持ちは充分強いのだが・・・戦の後に儂が勝てるか心配なのじゃ!! 秀吉は立派な所も多々ある、権力で西国の者達を縛り付けておるがそれだけではない、南蛮の者達に日ノ本の民を奴隷とする事を禁止にした、中々出来るようで出来ない事じゃ、布教に付いても厳しい条件を付けた様じゃ!!」
「それであれば御屋形様も前より宣教師共に同じ事を言っておりました、違いは無いかと?」
「それがのう聞いた話では南蛮の者だけが悪いようでは無いのだ、西国の諸大名がこぞって税を払えない者と自分と違う宗教の改宗をせぬ者達を南蛮に売っていたというのじゃ、南蛮にはもともと昔から奴隷と言う制度があり売る者達がいるからそれに従ったと言うのじゃ!!」
「・・・それでは売る奴らも成敗せねばという話になります、売る方も売る方ですが買う方もでありますな、日ノ本の中での移動であれば取り返す事もありましょうが他国の南蛮に連れて行かれた者達は戻りようがありませぬ!!」
「そうじゃ、その奴隷と言う仕組みを根絶させた事は秀吉を認めざるを得ないであろう!!」
「他に懸念されている事はあるのですか?」
「・・・忠義にしか言えぬが、新しい幕府を開く話は皆が知っているが、それって誰が将軍となって行うのかと言う頭の痛い話が戦が終われば現実となるという事じゃ!! 義兄の氏直殿にそーっと伝えたが断られた、小田殿はその話であろうと察知して逃げてしまった、儂も結構疲れておるという懸念が残っているのじゃ!!」
「何を馬鹿な事を言っているのですか!!! 御屋形様しかおらぬでしょうが! 今更その事で悩むとは某も怒りますぞ!! この話を皆が聞けば殺されますぞ!!」
「だから忠義にしか言えぬと言ったでは無いか!! こうなったらお主が考えよ! どのようにすれば良いのか、手順と仕組みを考えよ!!!」
「そんなのは簡単であります、幕臣であった和田殿の知恵と十兵衛と半兵衛に手順と仕組みを考えろと命じれば良いのです、それが手順であります!!」
「おほ!! それが忠義の手順なのか? それを手順と言うのか? では儂も忠義を見習って忠義に手順どおりに動けと命じるぞ、それが儂の手順じゃ!!!」
「いつまでもぐずぐずと余計な話をしておるのですか、妾が横にいるというのに二人ともひっぱかれたいのですか!!」
この関ヶ原合戦では側室であった梅がくノ一という役目に戻り侍女として付従っていた、梅は幼少であった資晴を支えた功労者であり何時しか軍師としても才覚を伸ばし資晴とも半兵衛とも違う意見を述べ大手柄を上げており那須家の中で重みのある側室として認められていた。
「なんだとくだらん話と言うのだな! ではどうしろと言うのだ梅申して見よ!!」
「簡単で御座います、文句を言わずにやる事をやれお前様! であります!」
「・・・・・・」
「・・・さてそろそろ某、調練を見て参ります、では御免!」
「おいおい・・・忠義は儂の横におらねばならん!! 行くな! 置いて行くな!!」
この後資晴は関ケ原の原っぱに立たされこってりと梅に説教された。
五峰弓の封印が解かれましたね。
次章「関ヶ原・・・2」になります。




