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那須家の再興 今ここに!  作者: 那須笑楽
271/331

271 蝦夷参戦




関白による小田原成敗が現実のものとなり三家と関白側の戦準備が進む中、蚊帳の外に置かれた者達が函館の蝦夷館に集まり気炎を上げていた、その者達とは蝦夷を治める那須資晴の義理兄である大酋長ナヨロシルクと根室の大酋長イソンノアシと娘婿の助と津軽安東家当主、安東 愛季ちかすえ達が澄酒を豪快に飲みそれぞれが真っ赤な顔で下野にいる那須資晴に向け文句を言っては怒気を吐き又は大笑いして翌日に対応を話し合う事になっていた。



「流石に昨夜は呑み過ぎましたな! 年甲斐も無く楽しい一時でありました、それと助殿が仕留めた熊の熊鍋『カムイオハウ』という物を初めて食しました、体中がカッカし火照りましぞ、寝床で自分が熊に生まれ変わりした夢を見てしまいました、あっははははー!」



「ほうそれは吉夢でありますぞ! 安東殿 熊は我らにとって神に奉げる食でありカムイの使いでもあります、それ故に大切に食するのです、自らが熊となる夢とは安東殿の願いが神に通じた事になりますぞ、昨夜の話が適う事になりますぞ!」



「本当であるか!? それは良い話である、では早速那須資晴の御屋形様を驚かす手立てを談合致しましょう、日ノ本の侍達の戦でありますから侍達の事を良く知る某が中心に話をお勧め致します、ご了承下さい」



「ではイソンノアシ殿、根室側からの参戦出来る兵数は如何程になりましょうか?」



「そうであるな、助よ如何程であろうか?」



「はい義父《父上》様、凡そ5千の者が参加出来まする!」



「では根室側が5千でありますね、ナヨロシルク殿は如何でありますかな?」



「儂の方は7千であるな!」



「では蝦夷の地より全部で1万2千という事になります、我ら安東家でなんとか1万8千を集めましょうさすればこの蝦夷の地より三万もの大軍が那須の御屋形様が知らぬ処から援軍が突如現れる事になります、きっと驚かれて腰を抜かしましょうぞ!」



「あっはははーそれは拙い、腰を抜かす相手は関白とかゆう奴でなければならん、資晴が腰を抜かしては周りの者まで腰を抜かしてしまうぞ、あっははははーそれは良い話である!!」



この談合は何のために行われているのか? 那須家に臣従している安東家と蝦夷の者達には小田原への戦の話が一向に届かず蚊帳の外に置かれておりこのままでは最後まで知らずに終わってしまうと言う危機感と戦力として見られていない事に腹を立てていた、こうなっては自分達の勝手な判断で参戦すると決めての談合である。


那須資晴も気にしてはいたが遠方の蝦夷からの参戦では余りにも偲びなく申し訳ないとの気を使っての対処であったが逆にそれが刺激となりこのような談合に至っていた。



「では後は某の調べた処、此度の戦は小田原の城に北条家は籠り籠城戦となります、籠城戦でありますので勝負が付くまでに暫く日数が掛かります、見立てでは三ヶ月間から半年ほど要するのではと思います!」



「籠城戦とはそれ程時間が要する戦いなのであるな、城を持たぬ故それは知らなかった!」



「お二方は那須の城に滞在した経験をお待ちですから城とはどのような大きさなのか見当が付くかと思われますが、小田原の城はあの烏山の城の10倍以上も大きい城であり城下の町が城の中にある途方もない大きさの城なのです!」



「何だと! 町が城の中にあるだと・・・町も城の一部なのか?」



「はい、町の外に石積みの塀と堀が幾重にもあり、その内側に人々が暮らす街がありその中心に大きい城があります、故に途轍もない大きさの城になっております、聞く処によれば那須資晴様が未だ幼い頃に北条家に訪れこの日が来る事を伝えた事で20年もの歳月を使って城の備えを万全に固めた様であります!」



「ふ~流石儂の弟ぞ! これは褒めてやらねばならぬ! ではその小田原の城は食料なども充分大丈夫なのか、こちらから持って行かなくても良いのか?」



「そこは抜かりが無いでありましょう、我らは密かに参戦するだけで大丈夫です、それと兵糧迄運ぶ船がありませぬ、今我らの処には交易の船が多数ありますが、それでも3万もの大軍を運ぶには足りませぬ、急ぎ1000石船を造らせておりますがそれでギリギリの処となりましょう」



「我らは何時蝦夷の兵を集めれば良いのか? 何しろ広い地であるから呼び掛けても集まるまでに一月は必要であるぞ」



「その点は大丈夫であります、此度は籠城戦であります、戦が始まってから呼び掛けて頂き頃合を見て我らの出番がやっと来ます、ですから時間はありますので問題ありませぬ、集合する場所はこの函館になります、そこでナヨロシク殿には那須資晴様が発明された組み立て式のグルを多数湾の近くに設置をお願い致します、何しろここに蝦夷の戦士が1万2千もの大勢が集まります、頃合をみて進軍しますのでそれまでここに留まる事になります」



「確かにそうじゃ! イソシアン殿の方でも食料をなんとか用意して頂きたい、大丈夫であろうか?」



「問題ない、鹿と熊も沢山用意致そう、のう助!」



「はい、義父様何なら鹿は1000頭、熊は200頭程用意致しましょう!!」



「えっ、根室の地にはそれ程多くの鹿と蝦夷熊がおるのか?」



「どういう訳か知りませぬがわさわさと多くおります、海岸に行けば熊は何時でもおります、それも何頭もおりますので100や200あっと言う間に獲れます、間引かねば此方が危うい事になりますので儂などは専ら熊狩りに出されております!」



「それは凄い処であるな、この函館周辺でも鹿は沢山いますが蝦夷熊はそこまではおらんかと、根室とは熊の繁殖地なのかも知れぬな!!」



「蝦夷鹿も沢山おりますので干し肉を沢山用意致しましょう、安東殿の方で澄酒の手配をお願いしたい、蝦夷では米を作っておらぬので澄酒は無いのじゃ!」



「承知した、蝦夷の戦士と荒くれの東国武士には酒が必要であります、思う存分呑んで頂きましょう、確か御屋形様が言うていた異体同心という奴であります、蝦夷の戦士と侍達が同心となり戦う戦となりましょうぞ! 今宵も先ずは我らが異体同心の見本を示しましょうぞ!!」



「そうじゃそうじゃ! 我らが見本とならねば今夜も宴会である! がっはははははー!」



ここに那須資晴の預かり知らぬ3万もの軍勢が結成される事になった、蝦夷人の者達は戦についての集団で戦う戦略等の知識は特に持っておらず、代わりに狩猟と言う意味の狩りの知識は抜きん出ており指揮する者が一流の強き部隊となる、津軽安東家が指揮役となれば戦力としての期待は充分と言えよう。


小田原での戦を見越して那須の工業分野でも革命的な技術が成されていた、それは以前よりゴムの輸入から今では小笠原諸島でのゴムの木栽培が成功した事により樹液が安定的となり荷駄を運ぶ車輪の技術革新であり今成洋一から伝えられた板バネ、スプリング、回転軸を滑らかにし耐久性のある軸となるベアリングの完成と左右の車輪が右に左と動くステアリング機構が施された現代の車に近い機構の開発に成功していた。


板バネとスプリングを利用する事で衝撃の緩和と荷車全体の軽減化が図れ、荷を乗せる荷台の材質を竹製でも充分となり軽くなった分荷物を増やせることになった、これまで一番の問題は車輪の摩耗と軸となる部分がどうしても劣化による交換頻度が多く荷車が普及している那須では修理が追い付かず問題となっていた。


その事を見越して今成洋一からベアリングとステアリング機構の仕組みが伝わり開発に取り組んでいた、ベアリングは回転する小さい球形の鉄球が必要でありそれを研磨して作り上げるのに職人による技の底上げが必要であった、それに一役買ったのが那須で職人として京から移住していたメノウ職人による研磨技術であった、新球の型に鉄を流し出来上がった鉄球でも最後の仕上げは職人による感を頼ってのベアリング球を完成させなければならない、そのベアリングが作成出来た事により各車軸に付けられ更に前輪にはステアリング機構が施され馬が右に曲がれば前輪も右に曲がり左に曲がれば左に前輪も曲がるという実に抵抗なくスムーズに動く荷車の完成となった。


現代の車の機構と同じ原理であり動かす動力がエンジンなのか馬なのかの違いだけと言える、三家に通じる街道と主要な町には駅舎が以前より整えられており人の往来も活発になる中での新技術が導入されより多くの品である交易品が庶民に渡る事になり貨幣経済が動き回る結果に、高価な砂糖とて今では利用されるまでに至ってた三家、10年以上も戦が無い事での恩恵を甘受出来た証左と言えよう、そんな三家ではあるものの三家側でもあり以前は織田家と同盟を結んでいた徳川家康は関白より厳しい忠告を受けていた。




── 秀吉の脅し ──




関白からの脅しとは小田原成敗時に関白軍が進む進路に三河を通過し駿河に向かう事になる、徳川が関白側に付かぬ場合に最初の戦場が三河になる、20万を超える関白軍にどうあがいても1万2千程度の徳川では太刀打ちは出来ない、かと言って恩義ある北条家とは臣従関係にあり裏切る事も出来なかった。


中々決断しない家康に最後通牒とも言える回答の期限が迫る中、本多と急ぎ小田原に向かい北条家と対処について話が行われた。



「家康殿の苦衷は理解致した安心されよ、岡崎、浜松が抜かれた場合の次は我らの掛川である、その先にある支城も次々と敵の手に落ちる事になる、その事は既に我らは見越しているのじゃ、徳川家は臣従とは言え織田家との関係もあった事から相談があるまでは手を出さなかったので御座る、そこで徳川が生き延びる策をお伝え致す、関白の目的は我らのこの小田原であり道々の城には眼中は無いであろう、そこでじゃ先ずは関白側に従っても問題は無いであろう!」



「えっ、某に寝返れと申されるのか? それでは面目が御座らん!」



「いやそうでは無く、岡崎と浜松を通過させるのじゃ、その際は関白軍が通過する時に炊出しを施しご苦労様と言って送り出せば良いであろう、北条家との関係もあり兵は出せぬが裏方となって協力しますと言う姿勢であれば関白側も受け入れるであろう、恐らく敵側の主力部隊は三島、沼津周辺に展開するであろう、本陣は後方の駿府であろうな! その後方に徳川殿がおるという訳じゃ、その最後方にいれば戦にも巻き込まれず安全じゃ!!」



「成程、では掛川以降の城ではどのようにされますのか?」



「全ての者はこの小田原の城に入る事になる、既に準備は整えておる、戦とは関係ない民百姓はそのまま残るが兵卒は皆この小田原に入る事になる」



「そうでありましたか、某が今更聞く話では有りませぬがこの城に籠る兵は如何程になりましょうや? お役に立つようでありましたら些か兵糧をご用意致します」



「籠城する兵は約8万、家族町民など含めて25万という処じゃ、戦前に避難できる宛てがある者は帰る事になっておるのでほぼそんな感じじゃ、それと兵糧は大丈夫じゃ! 那須家と小田家がその都度用意してくれる事になっておる、此度の戦は無謀なる権力と侍の意地の戦いじゃ、どちらが正しい道を歩んでいるのかという大切な戦である、我ら三家の力を満天下に示す時が来たのじゃ! 成敗と申してこの小田原に来るようであるが成敗される為に関白は態々来た事を後悔させねばならぬ大恥の誹りを受ける天罰を与えねばならん、徳川殿は後方より楽しく戦模様を観ておられよ!!」



会談での話を聞き安心して帰路につく家康主従ではあるが本多からの助言で米1000石と弓矢武具多数を送る事となり手配した家康、家康は関白側に示し合わせた内容を伝え了承された、その際に通過する岡崎と浜松の城では関白軍の兵卒を懇ろにもてなす様にとの話で治まった、この時この懇ろにもてなすという食事と寝床の手配で徳川家は戦以上の地獄を見る事になる、どちらの城にも連日1万を超える兵達が移動して来るのである。



いよいよ小田原成敗が始まりますね、戦前の準備、仕事もそうですが段取りが全てと言って良いでしょう。

次章「陣触れ」になります。

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