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那須家の再興 今ここに!  作者: 那須笑楽
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267 秀吉と三家




天正13年《1585年》7月11日近衛前久の猶子となった事により、羽柴秀吉は正式に関白宣下を受けた、これにより武家全ての大名の頂点となる。



『関白辞令の宣旨 權大納言藤原朝臣淳光宣、奉勅、萬機巨細、宜令内大臣關白者 天正十三年七月十一日 掃部頭兼大外記造酒正中原朝臣師廉 奉 ─ 足守木下家文書』


※ 注釈 権大納言藤原朝臣淳光宣のる。勅みことのりを奉うけたまわるに、万機ばんき巨細こさい、宜しく内大臣をして関白にせしむべし者といえり。天正13年7月11日 掃部頭兼大外記造酒正中原朝臣師廉 奉うけたまわる。




── 石田三成 ──



この年の秋に秀吉の軍師は黒田官兵衛と言えるが文官で頭角を現し内政に秀でた若き武将石田三成、関白就任に伴い、従五位下・治部少輔に叙任され秀吉子飼の出世頭であり主君一辺倒のカミソリ厳しい文言で叱責口調の威圧感溢れる英才の石田三成が那須資晴の元に秀吉の使者として訪れていた。



「態々遠き那須によくぞお越し下された、では関白様の文を拝読させて頂く!・・・ほう明年早々に北条家、小田家の当主と共に訪れる様にとの要請であるな・・・これはどの様な意味で我ら三家を呼ばれておるのでありましょうか、石田殿些か説明をお願い致す!?」



「これは異な事を申されます、那須様は織田信長様とは昵懇の仲となり政を支えるとの約束をされました、それを反故になさるというので有るまいか、当時上様であられた織田様は御不幸にも亡くなられましたが織田家内乱を封じ今は織田家を従える立場となった関白様は織田様を継承する者でありさらに帝より武家の頂点であります関白の位を授かりました、これ偏に武家の頭領であり要請があれば従うは当然の事であり聡明なる那須様であれば文の意をくみ取る事が出来ましょうに! それとも聡明なる評は世間の独り歩きなる噂でありましたでしょうか? しかし折角の申し立てであります若輩ではありますが某も従五位下・治部少輔を授けられましたので丁寧に文の意を教えて進ぜましょう! 」



「そこに書かれております内容は三家の者は急ぎ駆けつけ関白様に臣従を誓えとの意が書かれております、織田様との約に従い三家には特別に図る故にとの話であります、御分かり頂けたでありましょうか!!」



「なるほど臣従を誓えに来いとの要請でありますな、ではお聞き致さねばなるまい、石田殿! 関白様はどのような政を致すのであろうか? 我ら三家は織田殿との合議でも政の内容をお聞きした上で織田様の味方に付く事を判断したのです、織田様の地位にひれ伏して従った訳では御座らん、天下安寧の政をどのように致すのかそれが一番大切な事である、その事をお聞きしたい! その上で三家は判断する事になる!!」



「では関白様の政を聞く迄は従わぬとの話であるか!! 恐れ多くも武家の頂点に立つ関白様に下者の者が無礼にも政の中身を知りたいと、その上で下者の三家が判断すると言うのか関白様をなんと心得る、良く聞くのだ関白様に従わぬ九州の島津成敗が明年行われる、仮に三家が従わぬとなれば関白様を相手に逆賊となり成敗される事になるそれでも良いのか、ここは直ちに命に従い臣下の礼を取るべきであろう政に口を挟むなど無礼千万である!!」



「そう威圧的な口調にて脅さずとも良いであろうに!! 石田殿は飛ぶ鳥を落とす勢いの若き英才であろうにて、であれば威圧は不要じゃ! 威圧で従う者は腹に含みを持ち従う様で従いはせぬ! 関白様である確か今は藤原様は織田家の中で威圧を武器に功を上げた方ではあるまい、そなたは佞臣なるが故に先程の物言いで圧しておるのであろうそれでは関白の位を汚す事になる、今儂が述べた事を一字も漏らさず関白様に伝えるが良い、文は確かに預かり申した、返書は無しである!!」



「なななんと某を佞臣と・・関白様の使いであるこの石田を佞臣と言うたな!! 度重なる無礼なる下者の物言いこれは大罪である、この罰は島津の後は三家であるぞ!!!」



石田三成は秀吉の従順な下僕であり主人の威光をより高める役割こそ自分に課せられていると理解していた、性格も自分に厳しく他者にはより厳しく接する事こそが美徳であり正しい道であると、しかしこの性格は後年災いとなる。


この那須資晴との謁見は物別れとなり関白との最初の衝突となった、三成が碌に相手にもされずに帰還した事でこの年の暮れに別の使者が那須に訪れた。




「殿下三成では経験が不足しております、三家の者共が何を考えているのか不明でありますが島津の後に戦になるやも知れませぬ、某自ら那須と北条に参ります、城の備えなど知るに良い機会となりましょう!」



「その昔儂は那須殿が嫡子となる前にそれはそれは楽しい歓待を受けた記憶がある、上様とも誼を通じた那須殿が何故三成を相手にせず追い返したのか不思議である、関白に逆らうとは思えぬが今一つしっくりと解らぬ、何でも三成の話では侮辱されたと那須は下賤の輩であったと興奮しておった!」



「きっと三成は殿下の威光をかさに威圧成る物言いで話したのでありましょう、頭が斬れる鋭才ではありますが殿下と違い相手の心を掴むことが出来ませぬ! しかし良い経験になった事でありましょう」



「あ奴以上に事務方の才ある者はいないであろう、重宝する者であるが不得手もあるというじゃ、では官兵衛たのんだぞ!! 知恵を使い調略して来るのだ!!」





── 新たな使者 ──




この年の瀬に那須の観光と言う名目で三名の浪人姿の者が烏山城下の町で長逗留をしたいとの理由で宿屋に入った、一人は片足を痛めて足を引きずる主と配下の従者という感じの三名である。


片足を痛めている浪人姿とは勿論秀吉の使者として新たに来た黒田官兵衛である、官兵衛は石田三成の言う通り物別れになった場合三家との戦に備える事を踏まえ那須家の実態を念入りに調べる目的で城下町に入った、そこは三成より流石は物事を理解している秀吉の軍師と言える。




「仲居どの・・これはなんでありますか?」



「やだねぇーお客さん那須は初めてかえ、これは那須の御屋形様が考案されたアジのフライというそりゃー大変美味しい魚だよ、それとこの横のは猪肉のフライというこれも人気の食べ物なのさ、後でとびっきりの美味しい『那須プリン』も持って来るからね、この宿は美味しい夕餉が出るから毎日が楽しいからね、聞きたい事があれば何でも聞いてくれよ、じゃー後で『那須プリン』を持って来るね!」



「変わった夕餉ではあるが仲居があそこまで言うのであれば美味なのであろう、皆一緒に食そうぞ!!」



「これは・・・サクサクと柔らかい煎餅の様じゃ・・・・味もアジだけに絶品じゃぞ、驚いた!!」



「黒田様こちらの猪肉のフライも絶品です、宿屋でこの様な食が出来るとなればこの城下は予想以上に賑わっているやも知れませぬ!」



「うむ明日よりこの城下を念入りに調べるのだ、それと先程口の周りに刺青をした女子が歩いていた南蛮の者かと思うが見つけたらどこの国か聞いて見よ、儂はこの宿屋近辺を散策する、それにしても美味い夕餉である、仲居が言うていたとびっきりの『那須プリン』とやらも楽しみであるな!!」



この夜、那須家の忍び和田衆より1-3という数字が資晴に届いた、1-3とは1組で3名の国外の者が城下町に入ったという意味である、城下の町には和田衆が忍び宿を多く運営しており国外の者が滞在した場合の人数を把握すると共に監視の対象者として暗号であった、決して珍しい事では無いが宿屋を利用するのが一番他国の者かを判断するのに適しておりその行動も監視が簡単と言えた。



「この年の瀬に来るとは果たして何者であろうか、仕官を求めてか・・それとも探りをいれる者達であろうか、どちらにしても後三日後には正月となる、小太郎! 後はそちに任す!」



「判り申した動きがあれば知らせに参ります、では!」



那須資晴が正月準備に追われるなか黒田官兵衛は翌日より近辺を散策するも城下町も正月を迎える準備で大勢の者達が店での荷の卸しに追われ近隣の百姓達や町人達も買い出しに繰り出しており予想を超える繁盛ぶりであった、又京周辺では見かけぬ人が押し歩く荷車で買い出しをしている者が多く道行く人にその荷車はどこで買えるのか聞き出し『うばくるわ《乳母車》』と書かれた看板の店に訪れた。



「御主人・・この手押しの荷車は幾らで買えますか?」



「それは200文《2万円》よ! ここにあるのは行き先が決まっているので今は在庫が無いよ、正月10日頃に品が入るのでそれまで待つ事になるよ、品が入ると直ぐに売れてしまうので注文は早めに頼むぜ!!」



「ちょっと触っても良いか?」



「あ~それならこの修理した奴を動かしてくれ、車輪を新しくしたので新作と同じだ!!」



これまでの車輪は荷車と乗せる荷物の全荷重の負荷がかかる事ですり減り痛む消耗品であったが最近は洋一からの未来の技術の一つであるゴムが実用段階となり車輪の回りにゴムが付いた新作の乳母車が売り出されていた、既存の乳母車も新しい車輪の交換で新作と同じに利用出来た。



「店主よ、あそこで馬に曳いている便利そうな荷車は何処で買えるのじゃ?」



「あ~あれは許しを得た人だけに売られる荷車なんだは、商いで多くの品を仕入れる運送の者達と那須家の騎馬のお侍さんしか扱えんのよ、誰でも買える荷車では無いんよ! あの馬で曳く荷車も他国の人は皆欲しがるけどあれは無理なんよ、それとなこの先には駅馬車もあるがそれは見ておるかお侍さん?」



「昨夜この町に来たのでまだ何にも知らんのじゃ、済まぬがその駅馬車とはなんの事じゃ?」



「ついでだから教えて進ぜよう! 那須の殿様と北条様と小田様の家は親しい間柄で同盟を結んでおる、そこでお互いの家々では交流も盛んで配下のお侍さんがひっきりなしに行き来しており今では道も整備されて馬で荷車を曳くだけじゃなく人を乗せて行き来出来る馬車というのがあって道中の大きい宿場に駅という停車場があるのよ、それに乗れば小田原の北条様の御城には3日で行けると言う凄い物がこの先の駅馬車が見られるという訳じゃ!!」



店主より人が曳く乳母車、馬が曳く荷車そして駅馬車の事を聞き想像以上に新しい技術が取り入れられている事に眉間に皺を寄せる官兵衛、これでは三家を一筋縄で臣従を求めても無理であろう実に厄介な状況となっていると理解した。



「その方達はどうであった?」



「それが近くの村に年貢の事を聞きましたら4公6民であるとか百姓達も今では普通に米を食する事が出来ておる様です、それと常陸の海より新鮮な海の魚が氷漬けで運ばれて来ておりました、城下町には氷屋なる店もあり氷を家々に卸しており、家々では氷箱と呼ばれた氷室室があり日持ちしない品を入れているとの事です、我らには全くもって初めの事だらけであります」



「4公6民とは思い切った年貢であるな! 儂の方も驚く事ばかりじゃ!! 他にはどうじゃ!?」



「あの口の周りに刺青をしている女子の正体が判明しました、あれは蝦夷の民だそうで蝦夷人の者達です、結婚した女性はあのように口の周りに刺青をするようです、それと知りませんでしたが那須の殿様と蝦夷を支配する殿様は義兄弟となっている様です、義理の兄が蝦夷の支配者だとの事でした」




「蝦夷とは蝦夷えみしの事か?」




「その様です、皆蝦夷人(えぞじん)と呼んでおりました、その蝦夷の地より毛皮と昆布、干した魚など仕入れをしていると商人より聞き出しました」



「某昼餉に寄った茶店で砂糖を使った麦菓子を食しましたが那須では砂糖が色々な品に使われていると、時間があれば甘味処と居酒屋なる処で美味しい食にありつけるとお聞き致しました、是非そちらも行くべきかと!」



調べれば調べる程那須家が発展している事に眩暈する話であり念入りに下調べをする黒田官兵衛であった、結局使者としての登城は年が明けた10日となった。




戦が無くなり三家は内政に力を入れ国力を蓄えていた、そこへ黒田官兵衛が現れたという事ですね。

石田三成の性格は史実でも大きな問題に発展し豊臣家子飼いの重臣達が分裂してしまい結局は滅亡してしまいます、三成が温厚で気配りできる性格であれば豊臣家は存続出来たので無いでしょうか。

次章「決別」になります。

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