261 清州会議
6月27日に清須会議が行われた、参集した重臣に向かい一方的に怒声を上げ命じる信雄、信孝を獄門磔とする事、当主は自分であると主張し場を乱した事で控えの間に移動となった、最初からこれでは荒れに荒れる会議であろう事は最初から分かっている事であり物別れになる可能性すら予見できた、そこへ更に一悶着問題を起こす人物が登場した。
── 清州会議 ──
信雄と信孝が控えの間に移動した事を見届け勝家が話を始めようとした際に新たに信長の妹お市が乱入し勝手な事を述べ場を乱す事に。
「此度兄上の正室帰蝶まで黄泉の国へ旅立ってしまった、妾の立場は知らぬ間に織田家一の不幸な身となり取り残された、浅井は兄上に滅ぼされ、兄は息子に滅ぼされ、甥の信忠まで逝ってしまわれた、信孝によるお家騒動により我が身は不幸の只中に落とされた、織田家の姫として育つも不幸の連続であるこの始末如何にする、これが織田家の姫で良いのか、当主は皆で決めるが良いが妾の幸せはどうするのじゃ、妾を取り残し出家し尼となれば良いのか、不幸の只中に残し尼となればその方達を呪い殺すであろう、しかと伝えたぞ!!」
言いたい事を一方的に述べ去るお市、その立場は確かに不安定ではあるものの如何にも自分本位の事柄のみでありこの場では控えるべき話であった、暫く会議の場は騒然となり徐々に冷感漂う沈黙が続く、ようやく丹羽が柴田に会議を始めようと促し開始された。
「では先ずお家騒動を起こされた信孝様を如何にするかを決めようではないか、皆の意見と考えを聞きたい忌憚なく申されよ!!」
「では某が最初に述べる、某は上様と同じ乳母にて乳を分け合い育った兄弟とも言える立場であります、血は繋がらずとも兄、弟として歩んで来ました、信忠様も某の甥と同じであります、お家騒動とは言え断腸の極みであります、理由はともかく某は切腹が正しいかと判断しております!」
「うむ池田殿の御立場は幼少の折より某も良く知っております、その気持ち充分理解出来申す!! では他に如何でありますか?」
「では私が・・今の池田殿の言われる様に信孝様を切腹に追いやった場合は当主は信雄様となるのではないか、先程もそうでありますが織田家の当主となり果たして上様と同じ様に政が回りましょうか、むしろ滞るのでは無いのでしょうか、我らは配下の者達であり織田家三男信孝様を追いやる立場では無いのでは、その資格は配下に無きと考えます!!」
「うむ・・羽柴はそうのように思うのであるな!!」
「丹羽殿はどうであるか?」
「某が思うにお家騒動が起きた家は何をどうしても一族で殺し合いが始まります、信孝様とて例外ではありませぬ、残された我らが如何に決めようとも今後は信雄様と信孝様の争いとなります、切腹も簡単にはお受けしないでありましょう、信孝様の御家騒動を起こした理由は諸国に伝わっております、帝にも文が届きお咎め無しであり織田家の事は織田家にて解決すべきとの判断であります、はっきり言えば信孝様の行ったお家騒動を認めている状態と言えます、ここは思案のしどころであり我らの力量が試されております、安易なる判断は避けねばなりませぬ!!」
「では如何にすれば良いのだ? 儂とてこんな事態となり見通しなど何も持っておらん、だからと言って放置する訳にもならぬ故こうして集まったのじゃ、誰もが納得する事等無理であろう、お家騒動を起こした信孝様を当主に据えるなどは無理であろう、信雄様しかおらぬ上様の次男でありそれが正統であろう、新たな当主が信孝様をどうするか決めれば良いでは無いか!?」
「柴田様それではあまりにも投げやりであります、これだけの者達が集まり最初から簡単な筋書きで当主を決めればそれこそ織田家は没落してしまいます、上様が築いた織田家を放置してはなりませぬ!!」
延々と噛み合わぬ清須会議、そもそもが無理な話であり纏める事が出来ない会議だと言うのは誰の目にも判っている事と言えた。
結局この日は話が纏まらず翌日に持ち越しとなった、その夜に柴田は丹羽を自室に呼びつけた。
「お主何時から猿の仲間となったのだ、上様を裏切る気であるか、その方が儂に敵対する腹積もりなのか、はっきりと申しせ!!」
「柴田殿が言われる事心外である織田家を思えばこその意見であり誰が当主に相応しいのか某にも確証は御座らん、それとも柴田殿の意見をごり押しした場合全ての責任は柴田殿が背負われますぞ、信孝様を切腹として信雄様が当主となれば全ての尻拭いは柴田様が行う事になりますぞ!! 今は皆が意見を述べるしかあるまい、その上で柴田殿の意見で纏まればそれぞれが責任を負う事になりましょう、ごり押しは危険でありますぞ!」
「では貴様は儂の意見が主流となり纏まれば協力するというのか?」
「勿論で御座るが果たしてどうなるかは某にも半日の話では判断出来かね申す、正直参っております、首座の柴田殿のお気持ちは理解しております!!」
「そうであるかなら儂も今一度思案してみようぞ!!」
柴田と別れた後に丹羽の元に黒田官兵衛が訪れた。
「丹羽様お疲れの処申し訳御座いません、訪れましたのは某の一存であります、殿である羽柴様は知らぬ事になりますその上で御耳に入れたくまかり越しました」
「官兵衛であるな毛利との和議ご苦労であった、羽柴殿に知らせずに訪れるとはそちに考えがあっての事であるな、一応話は聞くがその後の事は知らぬぞ!!」
「ありがとう御座りまする、お話はお市様の事になります、殿である羽柴様はお市様の事を慕っておりますのでこの話は出来ませぬ、会議の折にお市様より妾の幸せをとの話がありましたと聞きました、此度の会談の成功させるにはお市様がカギを握っているかと思われます、お市様は上様の妹君であり今は一番上に立つ者であります、そのお市様の身を安らかに手当てする事で全て良い方向に向かわれるかと思われます、如何でありましょうか?」
「ほう中々どうして面白き観点である、その方はお市様が納得される手当が施されれば上手く治まるというのであるな?」
「はいその通りであります、お市様はご自分の身も織田家も護れというお話であるかと、信孝様を切腹させ信雄様が当主になっただけでは織田家は厳しく実に危ういと皆様の中にあります、もちろんお市様の中にも、そこで先ずはお市様の身を安全なる方向に手当する事で皆がお市様の幸せを考えている証左を示すのです、さすれば配下一同が纏め示した案に納得され織田家へ示す案に賛成されるかと思われます、我が身の幸せがかかる重要な案であれば賛成致しましょう!!」
「お主凄い話であるな! 流れ的にはその通りであり実に的を得ている、それでその先のお市様へ提示する案とは何であるか?」
「この話を纏めるにもう一人重要なお方がおります、某の口から言うには憚られますが柴田様は血筋を大事にされるお方であり結果についてはあまり思慮致しませぬ、突き進む事で道を切り開いておりますが此度は主家である織田家の進退に関わる重要な会議であります、頑固一徹に進むだけでは此度は纏まりませぬ、そこで先程のお市様の幸せを柴田様に責任をお持ちになって頂くのです!!」
「おっひょ~~なんだと・・・これまた驚いた・・柴田殿にお市様を嫁がせると言う事であるか・・柴田殿に嫁げばお市様の身は安泰という案であるな!!! 途方も無く考え付かぬ案であるが柴田殿には正室がおらぬ・・あ奴は独り身である・・これは妙案であるぞ!! して当主はどの様に致すのじゃ?」
「はい柴田様とお市様が結ばれる話が纏まれば柴田様も明確に織田一門となります、さすれば頑固一徹から思考も柔らかくなり申す、何しろお市様の安泰を考えねばなりませぬ、当主に付きましては某に妙案がありますがその案についてはお市様と柴田様の案が結ばれてからの案となりますので今は控えさせて頂きます、全ての方が納得できる案を羽柴様よりご提示する事になりましょう」
「うむ要は当主の案はお市様と柴田殿が結ばれる事が前提なのであるな、その話某が承った、儂に任せよ、それにしても羽柴殿には知恵者がいるのう・・毛利と和議を結んだお手並みは見事であり此度の案も実に的を得た良案である、実に気に入った、明日の午前は会議を休息と致そうその間に今の話を纏めよう!!」
官兵衛より示された案は柴田勝家を抑え込む案と同時に今は織田家筆頭の立場であるお市様を安心させる両得の案と言えた、妙案とも言える策が成功すれば当主を決める際に柴田もごり押しが出来ないであろうと推測出来た、柴田にお市が嫁ぐとなれば柴田が得る地位と実益が大いにありごり押しする場合それを失う恐れが生じる可能性がある。
「なんと儂にお市様を娶れと申すのか、あの市様をか!?」
「それが一番良いと思うておる柴田殿に嫁がれるとなればお市様も織田家の行く末に安堵されるであろうと思われる、何しろ織田家一の重臣である柴田殿が後ろ盾となる訳である、それに正室を据えるには最高のお方であるぞ!!」
「してどうなのじゃ、お市様の意向はどうなのであるか!?」
「柴田殿が迎い入れるとなればこれより儂がその旨を伝えに使者となろう、流石に柴田殿が行く訳にはならんであろうに!」
「ふむふむでは丹羽殿是非に頼む! お市様が儂の正室となれば誉である実に嬉しい話である、なんとか纏めて下され、後は当主をどうするかであるな皆の意見が一つになれば良いがと思うておる!!」
「うむその事じゃが、お市様が柴田殿に嫁ぐとなれば実質織田家の当主は柴田殿が差配する事に成ろうぞ、誰が当主であれ少し時期を観て選んでも良いので無いか、拙速に選び禍根を残すより良いかと思うがどうであろか?」
「儂の元にお市様が来るとなれば確かにそうとも言える、先ずは丹羽殿お市様によろしくお伝えして下され、お市様を大切に致しますと言うていたと伝えて下され!!」
「うむでは行って参る!」
丹羽から提示された案を聞き喜色満面で喜ぶ勝家、お市も自分の行く末を考えた時に一番の実力者である柴田勝家に嫁ぐ事を素直に受け入れた、お市の中でも柴田が主人となる事で自分の意見も大事にされるであろうし粗末に扱わぬであろうと充分に推測出来た、官兵衛より提示された案がここに実現する事になった。
お市様が柴田に嫁ぐ話が上手く纏まり丹羽より官兵衛へ伝えられた、次の当主に付いての案が提示され驚くも納得する丹羽、そして午後に清須会議は再開された。
「柴田殿お聞きしました、お市様を迎えられますようで誠におめでとうございます!!」
「いや何某も急に決まりお市様が安堵されるのであれば上様にも喜んで頂けるかと思われ今更ではあるが有難い話であると思うておる!!」
「柴田殿がお市様を向かい入れぬのであれば某がと思いましたが実に残念であります!!」
「あっははは何を言うか羽柴には妻がおるではないかそれも色々と女遊びをしていると聞いておるぞ、もう充分であろうに!!」
「これは参りました、あっはははー!」
「では当主に付いて決めましょうぞ!!」
「では儂より本能寺の変より信孝様に捕縛され一連の事を見届けた某の意見を聞いて下され、先ず信孝様が当主に成る事は無理である、理由がどうであっても親殺しであり他国に聞こえが悪い、それと朝廷がこの変に対しお咎め無しという事を考えた場合に切腹を申し付けると帝の意向に背く恐れあり実に危険と考える、よって今はこの尾張に留まっている事から尾張の政に専念されるのが良いと思われる!!」
「次に当主の件であるが信雄様と考えて見たがここに来て大きい懸念が生じました、一つには信孝様が変を起こし上様と信忠様がお亡くなりしても近くにおるのに仇討の軍勢を起さずに領国に留まり、本来であれば15000もの軍勢を持っていれば羽柴殿が苦労して中国より引き返さずとも数日で動けてた筈であるのに尻込みしていたというでは無いか、上様ではあれば即断で動いたであろう、それともう一つ安土城を放火した下手人は信雄様の軍勢であるとの目撃者が現れ申した、信憑性のある話であり本当であれば実にだいそれた罪を犯した話でありむしろ切腹は信雄様になると思われるが如何であるか?」
「待て待てその話は何処から出た話なのだ本当に信雄様の軍勢が放火したと言うのか?」
「ではこの話を良く知る羽柴殿より皆にお聞かせ下され!!」
「この話は伏せなくてはならぬ話でありましたのでお知らせしませんでしたが我らが急ぎ中国より戻り京の町を平穏になる様警備に入りましたのは20日前後の話であります!」
秀吉から官兵衛の伝えた次の妙案が披露される事に。
官兵衛が影となり動く事で秀吉の思惑通りに動いております。
次章「三法師」になります。




