225 名君の采配
戦国時代の武将たちを名君という言葉を当てはめると、優れた指導者、内政に貢献した人、戦上手、後継者を作り家を長く保つ基礎を作った、他にも色んな要素が加わるであろう、名君で具体的な名前を検索すると本当なのかという人物がヒットする。
今川義元、北条早雲、北条氏康、毛利元就、織田信長、山本勘助、山中鹿介、真田幸村、竹中半兵衛、雪斎、黒田官兵衛などの名前がヒットする、武将も含まれている様だ、では名君に対して暴君は誰なのか、暴君は比較的分かり易い。
暴君で出る名前は、織田信長、三好長治、龍造寺隆信、大友宗麟、武田信虎、武田信玄などが見られる、場合によっては天下人になってから秀吉は人格が明らかに変化したという内容も多い。
では最後に暗君は誰であろうか、意外と面白い名前がヒットする、豊臣秀吉が意外と多い、やはり天下人になってからの評価が低い、他に、長曽我部元親、大友宗麟、朝倉義景、今川氏真の名前が見受けられる。
この中で戦国三英傑と言われる徳川家康の名前が見当たらない、それと作中でお手紙将軍の足利義昭の名前もヒットしなかった、見方によって名君であったり、暴君であったりする、そしてここより暗君の氏真が事もあろうかという者とタッグを組み登場する事に。
「良くも儂を頼り、床まで一緒に交わるとは、その度胸には恐れ入る、昔を思い出すのう、久しぶりに堪能致した」
「何を言いますか、妾を最初に奪ったお方ではありませぬか、忘れたとは言わせませぬぞえ、それにお互い肩身の狭い身であります、傷を舐めあい労わるのが婦道というものです、幼馴染でもあり、妾とは従兄ではありませぬか、今川家の血が流れている者同士労わりましょう」
「父上が築いた東海三ヵ国、覇者であった今川家、今では結局北条に嵌められ取られてしまった、信玄が侵略して来ると申して全部いい様に取られてしまった、一番悪い奴は北条氏康と氏政親子である、そなたも北条親子に嵌められたのだ、いつか復讐をせねばならぬが我らには力が無い、残念である」
「ほんにそうでありますな、しかし、本当の一番の悪者は織田信長であります、あ奴が義元様を亡き者にしたのが事の始まりです、あ奴こそがこの不幸な根本であります」
「そうじゃ、信長が父上を倒した時から今川家は転げ落ちたのじゃ、信長と北条に仕返しが出来たらのう、どんなに嬉しい事か、そなたもそう思うであろう、瀬名よ!!」
「では、私と組み色々と策を練りましょう、男どもは私の色香で狂わし彦五郎様の味方に付けましょうぞ! 妾にこの瀬名にお任せあれ!!」
「懐かしい響きであるな、瀬名よ、もそっとこちらに来るが良い、その色香をもう一度確かめようぞ!!」
今川氏真は京にあった今川館に住み着き北条家から毎年3000石の食い扶持を与えられ自由気ままに過ごしていた、今川家は多くの公家衆とも交流があり縁戚の公家もいる、そこへ三河を放逐された築山御前、又の名を瀬名、元家康の正室であった瀬名が従兄の氏真の元に身を寄せた、息子の信康とは別れており行方知らずとなっている。
愚かさとは時には危険な事を平気で考え正当化する、他者の事はどうでもよく己の身の欲望が満たされる事のみが唯一無二となる、氏真と瀬名、両者を支えている根っ子は欲望であり飽くなき強烈な煩悩と言える、この二人が狙う敵は織田信長と北条親子への復讐。
── 名君の采配 ──
那須家第二十代当主那須資胤、史実では一度も戦に敗れず那須の地を守り1583年に死去し、嫡子資晴が当主を継ぐ事になる、佐竹、蘆名、結城白河家、宇都宮と数々の戦を行う、全ての敵は那須家より多い石高の家である、そして那須家は関東八屋形の一角として関東11ヶ国の中では群を抜いて地位が上であった。
関東八屋形とは、当主を殿ではなく御屋形様という一歩上の上位の者が治める家、宇都宮氏、小田氏、小山氏、佐竹氏、千葉氏、長沼氏、那須氏、結城氏の八家を指す。
八屋形が出来た経緯は応永6年《1399年》鎌倉公方足利満兼が就任するに際し、時の関東管領上杉朝宗の提案によって定められたとされる『足利治乱記』。
八家は鎌倉公方を支える名家として国の守護を出す家柄として定められ、守護でなくとも守護不入が認められるなど自家の領土内における強力な支配権を持つ家である、後に関東八屋形の支配権は鎌倉公方の介入も容易には許さないほどにもなった。
戦国時代に入ると小田原の後北条氏が勢力を拡大させ、八屋形による支配体制は崩壊し、八屋形の家々も戦国時代に巻き込まれ各家が勢力を拡大する戦いに入る。
那須資胤が那須の地を守る事が出来た大きな理由の一つとしてこの屋形号の家という格式が影響している、大名家の上の大名家という格式が領内にいる譜代の武士と民達が纏まり、その那須という名に誇りを持って対処した要因も大きいと言える。
那須資胤は間もなく代替わりを行う事を公にしており、徐々に嫡子資晴に権力が移譲出来る様に配下の年老いた者を隠居させ家々の嫡子に代替わりを行っていた、その最中に資晴から子孫が絶える話を聞き側室の件を了承した、北条家の娘、鶴は13才と幼くまだまだ子を産める年では無い、側室の子は家の存続として血を継承できる資格者である、正室の子に男子が生まれなければ側室の子が家を継ぐ事に瑕疵は存在しない正しい方法と言える、問題はその側室に誰が一番良いかと言う現実問題であった。
「やはり資晴は適当に側室の当てがあると申していたか、そんな気がしていたは、この話を七家に広めれば皆喜んで娘を連れて来るであろうがそれでは側室の家が力を付け微妙な空気となるであろう、支えていた七家が足を引っ張り合う事になりかねん、侍女衆も各家からの者達が多い、中々どうして簡単な事と思っていたが、藤よ良い考えは浮かばぬか?」
「妾が決めても良いのなら言いますが、皆驚かれると思います、資晴とて考えおらぬでしょう、妾がその者の名を告げば前に進みましょうが七家の者達は反対を述べましょう、それを押し切る覚悟も必要となります」
「では七家の者とは関係ない者なのだな、儂もそれが一番良いと思っていた、昔の様に小さき家であれば問題無いが200万石を超える家となっては莫大な力を持つ事になる、儂の代、資晴の代は大丈夫あろうと思うが、その次は側室の家が那須に取って代わっているかも知れぬ、どこかの家だけに大きい力を与えては拙い、儂も七家以外が良いと考えていたその者は誰であるか?」
「申し上げ致しますが、七家の中で反対する者が出るかと思われます、いや必ず出ます、その場合はこの話が立ち切れた場合如何致しますか、側室の話を説明するとなれば必ず七家から娶る様にとその者は強く言われましょう、お前様がその異議を退けられましょうか、退けられ無くばその者が強引に側室を用意する事になります、妾はそれが心配で名を言う事を控えていたのです」
「ではその七家の者が反対すると申すのだな、どんな理由で反対するのだ?」
「貴方様の前では従順な振る舞いにて何も問題ありませぬが、戦で不在となり城代を務めた際にいかにもという顔で城の者を威圧しておりました、その者は貴方様が当主となる前の先先代の時に上那須、下那須にて些か争った際に我ら下那須の敵側に一時通じておりました、もうお判りでありましょう、大関殿が必ず反対致します、資晴が側室を検討していると知れば必ず牙を向きます、妾には判ります、殿方とは見える景色が違います」
「ふむ~大関が物申すと言うのだな、那須家の七家の中で一番大きい家である、今の大関高増の家は元々大田原家の分家であったが今ではその出自の大田原家より力を付けておる、強ち《あながち》その話は間違ってはおらん、声高高に反対すれば他の家も同調するやも知れん、七家の中から側室を迎えればその家が力を得る又とない機会であるからな!!」
「この際、あ奴も代替わりをさせるか、高増も50じゃ、息子も確か16になっておる、那須家の当主が若返りするのだ七家もそうせねば、資晴がやりたい事に余計な口を挟むであろう、代替わりを先に仕向けよう、そうすれば反対は出来ぬ! 芦野も忠義になる、大田原はまだ息子が10才程じゃ、代替わりが出来ぬ、千本と福原は息子達が資晴の重臣になっておるから問題は無かろう、そう見るとやはり大関が危険となるか、良しここは儂に任せておけ!! 処でその藤が良いと思う側室とは誰であるか?」
「妾の見立てでは本人の希望はともかく、資晴を支える上でも、その家の者も別の使命を持っており、権力には無縁の家であります、側室に値する女子は『梅』しかおりませぬ!!」
「・・・鞍馬の梅か・・・権力には無縁の者達じゃ、資晴が最初に洋一なる者から平家の里を訪ねるよう言われた地であり、那須家躍進の守り神である、その鞍馬の梅であるか・・・梅について反対する者は鞍馬と敵対するであろう、表立っての反対は大関以外控えるであろう、その功績は誰もが認める者達じゃ、鶴の侍女長でもある、鶴とて頼る者じゃ、凄い者に目を向けたのう、恐れ入った、そなたならでは慧眼じゃ、儂には読めなんだ!!」
「お褒めはまだ早いと言うものです、梅は聞く所、自らの結婚については関心が無いと、婚儀については欲が無いと伴殿から聞いております、本人が嫌がっておればこの話は流れまする、ゆっくりと諭さねばなりませぬ、一切他言無用の秘事でありますぞ」
「そうであるな、大関の件、七家の件は儂が担う、梅については藤に任す、男は関わらぬ方が良いであろう、資晴にも未だ話さぬ方が良い!!」
「そうで御座いますね、外堀を埋めて進まねばなりませぬ、七家についてはお前様にお願い致します、妾も絶家だけは回避する事を願っております」
側室と言う案は簡単に見えて予想以上に大変な事だと改めて感じていた資胤と資晴、そこへ思いも欠けぬ梅の名前が登場した、その梅は結婚という事態を受け入れない、受け入れる事を回避しようとしていた、その理由は梅も女性であったとの一言で納得出来た、男には判らぬ心理と言える、鞍馬の伴が何度も説得致すも首を縦に振らぬ梅、資晴が嫌いなのかという事についても首を振り違うと述べる梅であった。
実にややこしい話であり、次回に繋がるのか不安となります。
次章「伊賀攻めになります。」




