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那須家の再興 今ここに!  作者: 那須笑楽
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217 鶴と梅

 




 ── 前兆 ──




 最近は儂も弱くなった物じゃ、酒を飲みふらつくなどみっともなくて人には言えぬ、兼続にふらつく所を見せたらなんと言うか、あの者が見張っていると思うと安心して飲めぬ、酒などに飲まれぬ儂では無い、酒桝に塩を付け飲む酒は実に堪らんこの旨さが何故判らぬのか、酒とは力である。



 上杉謙信この時46才の壮年であり、戦国時代ではシニアの年齢に入ったと言って良い、最近は酒を飲むと足がもつれふらつく時があり、それを直江兼続に見られると酒を隠されてしまう、澄酒を飲もうとすれば濁酒に変えられ酒精の弱い酒を飲まされていた、兼続は那須資晴からの助言を得てより謙信の酒飲みに注意しなんとか卒中が起こる事を回避しようとしていたが謙信は兼続の目を盗み塩を肴にして酒を煽っていた。



 脳卒中も脳梗塞も呼び名こそ違うが、命を奪う危険な病でありこの時代では致命傷と言える、特に卒中となれば症状が重く即、死に繋がる病である、謙信の足がふらつく、もつれるという症状は脳の血管に異常が来たしている初期段階で見られ、視野が欠けたり、歪んで見えたり、身体に力が入らない、頭痛、ろれつが回らない等の症状があれば酒などもっての外であり、安静にする以外に無い時代である。



 謙信の塩を肴に酒を飲む行為は自殺行為と言えた、確かに塩を利用したカクテル、ソルティードックなどは実に旨いと言える、しかし、それを飲むのは極稀であって毎日毎回飲むような品物では無い、謙信の場合は酒で糖分を獲りつまみを食べずに塩を舐めるという極端な酒飲みであり、危険極まりない。



 史実謙信は卒中の病に倒れこの世を去る事になり上杉家の危機が訪れてしまう、兼続は誰にも相談出来ずに苦悩していた、そんな最中、那須家より資晴が北条家の娘と婚儀の日取りが決まり上杉家も、三家の頭領との自覚で謙信が那須に向かう事になった、その従者の一人に兼続も入る事になり式が始まる数日前より那須に滞在していた。



 事が事だけに上杉家で謙信を襲う卒中の事を知っているのは上杉家の忍び軒猿だけである、そこで兼続は軒猿に那須資晴が事が起きた時に対処する話はどこまで進んでいるのか、北条家でも対処する為に動いていると説明されており現状はどうなっているのかを軒猿を通じ鞍馬小太郎に接触した。



 小太郎に軒猿が接触した事で資晴は風魔小太郎も此度那須に来ている事から資晴の館で忍び達による会談を行う事になった、軒猿は風魔小太郎に会うのは初めての事になる。



「軒猿と申したな、兼続殿がその後について状況を聞きたいとの事であるな、では儂から大まかな事を説明する、その後の仔細はここにいる忍び達の働き如何で成功すると判断している、手筈の内容についてはそれぞれが段取りを図り上杉家の一大事を回避するのだ、この事、上杉家の一大事ではあるが、三家全てに取っての一大事である事を肝に命じよ、では儂から具体的な事を伝える」



 館で資晴から軒猿、風魔小太郎、鞍馬小太郎に具体的に上杉謙信殿が何時どの様に卒中となるのかを語った、残念であるが亡くなり乱が起こる内容を伝えた、1578年3月6日に春日城の厠で卒中で倒れ意識が回復しないまま3月13日の未の刻《午後2時》に死去する事、養子とした景勝殿と景虎殿の、どちらを後継にするかを決めていなかった為、上杉家の家督の後継をめぐって御館の乱が勃発し上杉家で力は半減する事、この乱により景虎は敗北し亡くなる事で上杉家と北条家との関係は断ち切れる事になる、やがてその影響は天下の趨勢に及ぼし、北条家が滅亡し、上杉家も家は存続されるが小さくなり転封され越後と関係無い領地替えを強制的にされてしまう事。



 併せて那須家も小田家も改易となり廃絶する史実を忍び達に具体的に教えた、如何にこの事が重要な内乱でありお家滅亡の契機となる事を資晴は教えた、忍びは銭雇の者も多く、銭雇であれば主を変えれば生き延びる事は出来るが、ここにいる忍び達は銭雇では無く、家を陰から支える者達、守り神として支え、家に仕える忍び達である。



 忍びの役割は表とは違い、汚れ役を引き受け、誰にも悟られず使命を果たし消えて行く者達である、その使命に誇りを持ち、支えているという死命こそ使命であり己の本懐として働く者達である、軒猿、風魔、鞍馬の三家はこの日より、連携を密に行い来るべき災いに備える事になった、北条家では回避する為にその準備を終えており、その日が来ない事を祈るだけであった。



「良いな、今話した事は成功するも失敗するもその方達次第である、兼続殿にも我らが付いている事を伝え、安心して動く様に軒猿より伝えるのだ、頼る者なく重責を抱え苦しんでいる事であろう、絶対に乱を起こしてはならん!! 頼んだぞ!!」





 ── 重宝者 ──




 資晴の婚儀を迎える中、実に有能に動き回る人材が現れた、退きの佐久間と異名を持ち、信長に厄介者として織田家を追放された佐久間の親子が、和田殿の細かい指図を受けずに指示される空気をいち早く読み取り無難に各地の当主達、国人領主達の饗応役を見事に裁いていた。



 信長から危険な匂い、身に迫る圧迫感を読み取る事に長年の神経を注ぎ延命を図って来た佐久間信盛は、信長の父親信秀にも仕え織田家が国人領主からのし上がり現在の戦国一の大家になった間、最初から支えた家老であり功労者の古参である、全ての事を經驗し知り尽くして来た生き証人と言える、その佐久間の饗応役での仕事ぶりは右に出る者は和田殿しかいなかった、十兵衛でもそこまで気が回らぬ、かゆい所をさっと見つけ薬を塗る手際の良さに資胤も驚いていた。



 息子の信栄も父親に訓練されているのかどうか知らぬが父親と同じく頷くだけで意思を読み取り相手が何を発しているのかを察知し応えていた、もともと那須家は5万石の数百年領地を守り通した家ではあるが、気の利く者など必要は無く、攻めて来る敵を叩く事で生き延びて来た家である、空気を読む必要はどこにも無く、饗応という役割がある事を和田殿に習い差配を受けていた、和田殿も足利幕府の外交官として力を発揮していた者である。



 織田家二代に渡り支えた佐久間信盛も外交力を培い戦で指揮とる武将とは違う力を身に付けていたと言えよう、この饗応役により佐久間親子は那須家の外交官として位置を確立した、見事な再生力と言える、資晴の活躍に必要不可欠な佐久間親子の重宝者デビューとなった。





 ── 鶴と梅 ──




 資晴と鶴の婚儀のお祝いを領民達が縁日を自ら行い一昨日から行われていたと知り式四日目、縁日三日目の本日午後に城下の町々を練る事になった、各家々の招待した当主達もどのような縁日なのか、領民が集まっている事に関心を示し、一緒に参加を希望された、警備の関係上練り歩くのは危険と判断し、全ての者が騎乗での巡行となった。



 城下の町に一豊の騎馬隊2000騎を先に配置させ、忠義の馬廻役を1000を幾つかの班に分け当主達の警護を付ける事にした、事件事故何者かの襲撃に備える万全の体制で行く事にした、当然の事と言える、問題は鶴をどうやってお披露目するか、最初は資晴の騎馬に一緒に乗せ練り歩く様に考えたが鞍馬からいざ何かの時に襲われた場合二人が一緒では退避する際に手間取る恐れありと、鶴姫の馬の騎手は梅に任せ、梅の前に鶴姫を乗せ、二頭の馬が横並びに歩く事が望ましいと、警備する者、手綱を引く者も素早く行動が出来るとの意見の元、そのようになった。



 横並びに巡行する、馬からのお披露目であれば領民からも良く見えるであろうと、それにより安全となればと判断し梅に頼む事になった、鶴は13才、梅は23才、年の離れた姉妹の様であり、梅はくノ一の手練れであり鶴を守るには最適な者と言えた。




 御前中には各く通りに一豊の騎馬隊が横並びに配置され午後に当主様初め資晴様と鶴姫様、招待された当主の皆々様が領民に慰撫の為に巡行されるとのお触れが話され城下の町では歓声が起きていた。



 城前の広場で隊列を組み整え出発する、先頭は馬廻50騎の徒歩組、その後ろに巫女48が鈴の音を操り祝いの舞にて歩き、当主資胤とお藤のお方様、少し間を開け、資晴と鶴姫、那須家親族衆と資晴の配下重臣達、北条家一向、上杉家一向、小田家一向、山科殿公家一向、各当主並びに国人領主一向、最後に武田太郎一行及び騎馬隊200騎が最後尾の警備を行う形で広場をゆっくりと徒歩の速度で動き出した、馬が暴れぬように手綱を引く従者がいるので隊列が乱れずにスムーズに動き出した。




「では姫様この場から城代より鞍の前《二人用の鞍》にお乗り下さい、後に私がおりますので駒の事は気になさらずにお楽しみ下さい」



「梅殿よろしくお願い致します、領民には手を振った方が良いであろうか?」



「手を振った方が良いですが、お恥ずかしい様でしたら私と一緒に最初は行って見ましょう、横には資晴様もおります、資晴様の動きを真似れば大丈夫です!!」



「判りました、では最初は一緒に手を振って下され、恥ずかしく感じます!!」






 ── 男の事情 ──




 結婚が近づくにつれ資晴より洋一に悩みが届くようになる、洋一は既に玲子との間に女の子を設けており、夫婦として生活を営んでおりそれなりの夫婦間の関係も時々ある普通の夫婦である、所が資晴は鶴姫との結婚間近ではあるが女性との経験はしていない現代で言う所の童貞である。



 戦国時代以降でも大名の嫡子であれば、正室以外の女性と交わる事は普通であり、気に行った者を側室にするなど極普通の事と言える、しかし、那須家は元々貧しい家であり、資胤も側室を設けておらず、正室のお藤のお方のみという意外と奥手な清廉潔白な当主であった。



 その様な環境で育った資晴も女性との縁は特になく、侍女との情事などありえなかった、そんな中婚儀が近づき、洋一に資晴から、女性との契りはどうやるの? というストレートな質問が投げかけられた、夜に就寝中に資晴からの問いかけに、つい声を出し、今更そんな事聞くなと跳ね起きてしまった。



「どうしたの? 今寝てなかったの? 突然どうしたの?」



 横で一緒に寝ていた玲子が、洋一が大きい声を出し、跳ね起きた事でびっくりして問いかけた。



 資晴からの質問を玲子に伝える訳にも行かなく、なんとか胡麻化そうと墓穴を掘る洋一。



「さっきそんな事今更聞くなって言って飛ぶ起きたよね? 資晴からだよね? 今更って事は洋一さんは知っている事で資晴がまだ知らいない事だよね? それも飛び起きるような内容を聞かれたんだよね? 何を聞かれたの?」



「あれ・・えーと、資晴からだったかな~? なんか夢を見ていたような、起きたら忘れてしまった・・・何だっけかな? 会社の後輩からの質問だったかも?」



「洋一さんは寝起きでも嘘をついている時は癖が出るんだね、目が左右に揺れているよ!!」



「そんな事ないけど・・・じゃーもう一度寝ますね!」



 玲子からの質問に焦る中、再度寝た振りで胡麻化した洋一、横になり目をつぶり資晴にそんなことを460年先に生きている私に聞くなと、どうしても聞きたければ忠義に聞く様にと相手にされなかった資晴である、資晴も父親似であり、奥手な嫡子である、忠義に聞くのは恥ずかしく、かと言って梅に聞く訳にも行かず、悶々としている中、再度洋一から鶴姫は13才であるという事で発育中の為、契る事は危険だと知らされ、その話を錦小路殿から北条家にも鶴姫にも伝わる事になり胸を撫で下ろしていた。



 男女の契りは、自然の事であり動物たちも本能で子孫を残している、鶴姫が13才という事で当面問題なく過ごせるとホットした資晴である、政では大人顔負けの優れた力を発揮しているが、苦手な事も今の段階ではあったという事であろう、資晴の笑える話と言える、この時代男性が男性を求める衆道なるホモの世界も決して珍しい事では無い、有名な者として織田信長の相手は森蘭丸の名が良く聞かれる、他にも伊達政宗の相手は片倉重長とされる、この手の話を深く探ると作品が危険な方向に向かい、読者も離れてしまうと予想されるのでここまでとして置く。





退きの佐久間さん、戦国で再デビュー出来たんですね、信長の元を離れた事で生きる目が出たという所でしょうか?

次章「羽柴と柴田」になります。

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