205 和睦と敗者
忙しいというか目まぐるしい展開に原稿を書きながら何度も書き直しています、場面と登場人物を間違えて書いている時があります、ボケが始まっているかも知れません。
── 逃亡 ──
6月に入り結城白河氏の稚児当主結城義顕は少数の配下に守られ会津蘆名に庇護を求め先触れ無く訪れた、当主資宗が最上を攻める為山形に向け出陣中に白河結城家の動きに注視していた所へ、その当主が庇護を求め会津蘆名に身を寄せた、突如現れた結城義顕に困惑する松本、この時、義顕は八才の稚児当主であった。
「結城義顕様で間違いありませぬな?」
「はい、私が結城義顕で間違いありませぬ」
「では城にいる当主は誰で御座りますか?」
「あれは小峰が用意した、小峰の孫になります、私の代わりに形だけいる偽当主です」
「えっ、では以前より結城義顕様は城に居らなかったのですか?」
「はい、父が亡くなり当主となりましたが、その直後に幽閉されており、その孫が代わりに偽当主となり今に至ります」
「なんと、重臣共はなにをしているのですか?」
「ここからは私が説明申し上げまする、ここにいる私、郷石見守、郷土佐守父子、柏木隼人、忍右京進の四名は日頃より義顕様に接する機会多く、義顕様が幽閉された際に小峰を詰問するも他の重臣達には当主が変わった事が見抜けないのです、その小峰の孫と義顕様があまりにも似ており、そもそも二人は近しい血筋の従兄弟であり、当主に就くまで義顕様は表に出ておりませぬ、何年も前から小峰が城と領内を支えており、その小峰が当主を入れ替えるなど他の重臣に訴えるも誰も信じぬのです、我ら四名もお家騒動を呼ぶ災いの者として追放となり、これまで隠れておりました」
「此度領内が城に兵を陣振れをしており警備が手薄となり、幽閉先より義顕様を救い出し急ぎ会津蘆名様の所に身を寄せたのです!」
「では、我らが結城の当主と思っている稚児当主は偽物であるのか?」
「はい、それ程似ております、小峰は先代様の弟です、その孫が当主になっております!!」
「話を聞く限り間違いない話にも聞こえますが、某にはどう判断すれば良いのか解りかねます、当主がお戻りするまで離れをご用意致しますのでそこで過ごされよ、侍女もおられぬご様子お困りかと思われます、何名がご用意致しますのでご安心下され、それと城代の小峰が兵を集めている件は何か知って御座るか?」
「詳しくは判りませぬ、我らも隠れておりましたので、只城に兵が参集している事だけは確かであります!!」
結城白河家での小峰の権勢は絶大であり家老含め親族衆が多く採用されている、小峰氏は結城家の分家であり支流である、結城家との関係性は親族衆の中で一番身近な家となる、更に運悪く、結城白河家の居城の城の名前は白河小峰城という小峰と言う名が付けられている、これは偶然の事ではあるが、小峰ヶ丘という地に城を築いた由縁から白河小峰城と呼ばれていた、皮肉と言えば皮肉である。
白河小峰城に兵が参集している件は全く不思議な話では無く、那須資胤が資宗に出した指示を結城家に此度の最上、伊達、南部の動きに合わせて兵の参集を指示した事である、但し資胤の思惑は結城白河家が幼い当主を利用し、城代の小峰が傀儡政治をしている事に、今回の動きに合わせて敵側に通じた行動を取る恐れがあった為に、その動きを注視していた、その最中に当主の結城義顕が庇護を求めて来た事で結城白河家の動きが読めなくった。
那須資胤の指示通りに兵を参集している以上咎める要素は無く、松本も様子を見る事とし、庇護を求めて来た事は後日伝えれば良いと考えた。
── 京都制圧 ──
「今なんと申した、二条もう一度説明せよ!!」
「この京を目指し大軍が攻め寄せております、町は大騒ぎとなっておじゃりまする」
「織田の織田の警備の者どもはどうしているのだ?」
「逃げております、警備する者は御所にいる舎人しかおりませぬ!!」
そこへさっと現れる帝を守る鞍馬天狗。
「ご安心下され、京に向かっている軍勢は、北条家、小田家、那須家であります、京を襲う訳ではありませぬ、先程某の所に忍びが伝えに来ました、ご安心下され!」
「天狗誠か?」
「間違い御座いませぬ!! ご安心下さい、町衆も何れ落ち着く事になりましょう!!」
「その者達の目的はなんであるか?」
「恐らくは、今加賀の地で行っている戦と関係があるかと、信長が不在の為隙を突き、信長排除の動きと思われます!」
「戦には成らぬのか?」
「戦を行う相手がおりませぬ、此度の軍勢の目的はこの京を信長の支配からの解放かと!!」
「お~なんと・・・では織田は戻らぬのか?」
「それは判りませぬ、しかし、織田は大軍を持っております、織田家だけで総力をあげれば7万程の軍勢がおります、それらがこの京に集結すれば大火になるかと、恐ろしい事になるかと思われます」
「それは・・なんとも、やっと御所が再建されたのだぞ、大火はダメじゃ、その三家の軍勢が来たら二条そちが対応するのだ関白として京を守るのだ!!!」
大阪湾より京に向け進軍を開始した連合軍、京に向け要所要所を抑え御所に向け進軍する事に、織田信孝の警備兵は散り散りに、信孝も岐阜に帰還してしまった、京が制圧された事を蟄居していた羽柴秀吉はいち早くこの事を知り、重大さに気付き、近江長浜城から配下の者と京を目指し御所に訪れた、御所では関白の二条の元に行く様に指示された。
「では其方は管領家との争いを和睦したいと申すのか?」
「はい、このままでは織田様の殿の性格を考えれば必ず京を取り戻すために大戦となります、この都が火の海になります、一向宗との戦いで敵対した者、浅井、朝倉での戦い、某には殿がどうなされるのか手に取る様に解ります、間違いなく勝つ為にこの京は火に包まれます!」
「それを回避する為に帝からの和睦の勅命が必要となります、勅命であれば殿は耳を傾け致します、どうかか某と一緒に加賀に同行して下され!!」
「和睦の勅命だけでは無理であろう、管領家はどうするのだ、黙って和睦など無理であろう、織田家が加賀に攻め入ったのが先であるぞ、大義あるは管領家であるぞ!!」
「それも判っております、ですから某が管領家にも参り和睦の条件を整えまする、それを勅命として殿にご納得して頂くのです!!」
「ではここに居る軍勢はどうなるのだ?」
「和睦が整うまで京、御所の治安を守って頂きます、和睦が整えば争う必要がありませぬ、そうなればここまで大きな軍勢も必要なくなります、どうか帝に勅命をなんとしても大火を防がなくてはなりませぬ!」
「う~む、お主の話は尤もな話でもある、今まで朝廷を支えた織田を簡単に見捨てる訳にも参らず・・・では一つ条件がある、帝はこれとは別にお心を痛めておる事がある、蘭奢待の時もそうであったが、此度僧侶に対する紫衣の件と五戒についてじゃ、紫衣は朝廷の専権事項じゃ、その要求はまかりならん、五戒については帝も以前より、僧の生活が乱れている事に嘆き何度も五山の僧侶にも伝えておるが改善されておらず検討する余地はあるが紫衣についての要求は取り下げる事にせよ、それが条件である!!」
「判り申した、某羽柴秀吉が承りました、では関白様いそぎ勅命をお願い申し上げます」
秀吉がいち早く気づき動いた事で加賀での大戦に大きな変化がもたらされる事になった、信長は大聖寺城から京に向け撤退する準備をする中、秀吉から火急の文が届いた、そこに書かれていた内容は勅命を携え関白と向かっている事、そこを離れず京に向け戻ってはならぬ事が書かれていた、この時点での朝廷の権威は無視は出来ない事であり関白は帝に次ぐ最上位の公家であり、その関白が勅命を携え向かって来るという事は帝をお迎えする事と同じである。
── 条件 ──
津軽安東家と南部家の戦で那須の大軍が現れた事と最上が南部領内を襲う旨と撤退するならこちら側の条件付きを飲めば追撃をしないという文を南部に渡し、実際に和議を結ぶ事になった、その条件とは街道の要所油川《現青森市》の宿場町を津軽安東家に譲る事で撤退する南部に追撃を行わない事、二度と那須と敵対しない事を条件とし南部家と約定が交わされた。
「これで良かったのう、我らも無傷である、安東殿も宿場町を頂けた、結局損をしたのは南部である、安心して撤退出来るだけでも儲けものであろう、では我らは管領様の所に戻る、後は那須ナヨロシク《義兄》達と祝勝の祝いをして下され、我らは急ぎ帰ります!」
僅か数日で南部を押し返した那須資晴、多くの軍勢を引き連れた事で南部を威圧し有利に運べた勝利と言えよう、梅が話した一言、油川の宿場を要求するという脅しが良薬となり実現した事に十兵衛も苦笑いであった、一週間も経ずに勝利し加賀に舞い戻った資晴軍、この一週間の出来事を確認する事に。
「我らが津軽安東家に出張っている間に何度か手取川で戦があり織田の軍勢を押し返したのだな、敵の織田勢はこの数日大聖寺城から出て来ぬのだな? そう言う事なのかそれで良いのか半兵衛?」
「その通りであります、きっと小田守治様が京を抑えたからでは無いでしょうか?」
「きっとそうに違いない、ここは様子見という事だな、どう出て来るか、勝負処であるな!!」
数日後に織田の動きが無い中、関白より先触れが届き、帝からの勅命が言い渡されると事になったと、関白自ら七尾城に来る事になり、急ぎ城を修繕し整え、関白を迎える事になった。
「皆の者、麻呂が関白二条晴良である、これより勅命を申し付ける越後守護上杉~に申し渡す・・・・・との和睦を命ずる!!!」
「はっははあー、確かに勅命を承りました、しかし、相手ある事ゆえ和議の条件が整はずは和議は出来申せうせませぬ、此度は織田が加賀を攻めて来ており申す、大義は我らにあり、和議を行うには何らかの条件が必要となります、例えば武家の習いとして謝罪を込めた織田信長の腹を召すなど一定の事が無ければ我らは承服出来ませぬ!!」
「うむ、ではこれより些か談義を行う事としよう、難しく考えずにどう勅命を拝命しお応えするのかという事が尤も大切な事である、大切な事は勅命を果たす事である! そこでじゃ、麻呂は一緒に解決を話し合える者を同行している、その者を呼ぶゆえその者の話を聞くが良い!!」
「入って良いぞ、喰われたりされぬからここに来るが良い!!」
呼ばれて評定の間に入り下段に控える小さき男が拝礼する。
「この者は皆も知っておるであろう、織田家の上位の重臣、羽柴秀吉である、先ごろ柴田の命に背き蟄居していた者である、此度の和議はこの者からの起っての願いでもあり、争いを治める願いが通じ帝から勅命を頂いたのだ、先ずはこの者の話を聞くが良い!!」
「はっはー、皆様方、某は織田家に仕える羽柴秀吉に御座います、敵陣の者にて信ずるに値しない者となりますが、どうかお話をお聞きください!」
秀吉から語られた内容は復興した御所を初め京の都に大火の及ぶ争いをなんとしても回避したい事、織田家が此れまでに朝廷を支えて来た事に他意はない事、此度の争いの大元は、義昭将軍を追放した事で織田家と管領家の齟齬が生じた事からの始まりであり、それまでの両家は幕府を支える事で協力をした来た事。
織田家も将軍を支えるべく二条城を作り何万貫もの大金を使い支えて来たが我侭が多く勝手に自分好みの政をする将軍が、何時しか織田家追討を各大名に御内書を発され、仕方なく将軍を追放したのです、本来は手を取り合う両家と皆様です、加賀の地から織田様には引いて頂きますのでどうか和議を結んで頂きたいと言う切なる話を涙ながらに話す人誑しの秀吉でった。
秀吉の人誑しの話術は相手の懐に入り同情を手に入れさらにそこから共感を得てしまうと言う不思議な話術と言える、百姓の子倅頃から放浪し、時には河原者《蜂須賀小六》に厄介となり、時には瓜売りを行い、時には宿なしの浮浪者として乞食をし、又は針売りを行いやっとの事で信長の草履取りから一国の大名まで上り詰めた秀吉の人誑しの話術は聞く者の心をトロトロに溶かしてしまう。
秀吉の話を聞く謙信も北条氏政も織田信長も犠牲者であり被害者であったのかという錯覚が支配する広間に最後に資晴が一言止めの条件を述べた。
「ではこうしては如何でしょうか、織田殿の御立場も理解した上で、これよりは管領様にも政への相談をする事にして意思疎通を図り、先ずはこの加賀と能登の地は管領様の支配する領地と認める事、それと二度とこのような事に成らぬように、両家で不戦の条約を結ぶ事に致せば、管領様の顔が立ちます、それと援軍に来ました我ら三家も心が休まり致します、如何でしょうか、ここは織田家に羽柴殿、羽柴殿あっての織田家であります、無事にこの条件を纏めて下され!」
「ほ~那須資晴殿、それは良い条件じゃ、織田信長殿だけが表に出て政をするゆえ誤解が生じるのだ、管領家は十一ヵ国の長であれば織田殿と日ノ本の政を図るは当然の事である、独善と見られるは本意ではなかろう、それは良い案じゃ、某北条も賛成である!!」
「今の話の条件は如何である管領殿!!」
「はっ、関白様、そこの羽柴殿が言われた通り元は織田殿とは誼を通じておりました、何処でどう道が分かれたかは考える所はあり申すが、今はそれを蒸し返しても致し方なし、これよりは手を取り政を手助け致しましょう、織田殿のも苦しかったのでありましょう!! 那須資晴殿の条件にて和議を行い和睦致しまする!」
和睦の話に必ず秀吉が登場して来るであろう事は洋一から事前に聞いており、軍師玲子からその際の条件は伝えられていた、能登を上杉家の領地とする事で上杉家は次に秀吉が支配する時代に大きな力を発揮すると、その為には北条、小田、那須の三家だけでは無く大きい軸になる上杉家に今一つ石高を増やす必要があった、北条、小田家では既に領地が広がる余地はほぼ残されておらず、今後は交易が頼りになる、那須には領地拡大の余地は残っているが、広がるにはもう少し先の状況に左右される、今はここで能登を獲る事で上杉家は21万石増となる。
京を抑える事は王様を手に入れた事なんですね。
次章「仕置と解体」になります。