162 下手人と梅
どうなるの? この章、梅ちゃんが・・・やばいかも。
※ 急激に読者が増えております、拝読感謝致します。
(増えた理由って、何でしょうか?)
資晴は襲われた事を鞍馬の忍びを走らせ、北条家にも小田家にも用心するように伝えた。
又、各領内では厳重な警戒網を引き不審者が捜索された。
しかし、刺客の忍びと千代女は変装し、難なく那須から抜け出していた。
「御屋形様、無事にお役目を果たして参りました、二名を失いましたが、確かにお役目を果たして参りました、ご安心下さい」
「お~では那須の嫡子を仕留めたのであるな、見届けたのであるな」
「はい、相打ちでありましたが、嫡子が地に倒れ伏したのを見届けました」
「うむ、ようやった、これにて儂を邪魔建てする輩が消えた、よう成し遂げた褒美を取らす!」
千代女と配下の忍びに甲州金が渡され、二人は下がった。
「暫くお前は女遊びでもして休むが良い」
「はっ、では御免」
── 烏山城 ──
「こちらで御座いましたか、忠義殿出なされ、急ぎ来て下され」
「いや太郎殿、某は若様の件で」
「お聞きしました、それどころではありませぬ、下手人が見つかるかも知れぬのです、皆様方が評定をしており、今は忠義殿しかおらぬので岩牢まで来たのです、早く出て下され、某に付いて来て下され」
「何下手人だと、本当か、今出る、門番私を出せ、急ぎ出すのじゃ、鍵を開けよ!」
「それでどおいう事なのだ太郎殿?」
「ここにいる母上付きの侍女達は元巫女頭の者です、此度の犯人は武田の者でないかと、刺客の二人の面通しをすれば判明すると言うのだ、それで急ぎ駆けつけたのじゃ!」
「なんと本当か、では一緒に参ろう」
岩牢と同じ階の査問室に向かう忠義。
「芦野忠義である、開けよ!」
「これは忠義様、如何致しました、先ずは入れよ、若様を襲った者の亡骸はどこにやった?」
「この奥に安置してます、調べておる最中にてお見せ出来るような状況ではありませぬ」
「構わぬ、では太郎殿、その者達も入れ、面通しさせてもらうぞ!」
「この者達だな、では見るが良い!」
恐る恐る近づく巫女達、亡骸の顔に灯りを照らしよく見ると、一人が頷き、更に確認すると。
「太郎様、間違いありませぬ、この者達は間違いなく武田の千代女の配下の者になります、何度も見ておる者達です」
「なんと本当か、本当であったか!」
「忠義殿、この者達は某の父、信玄の配下である歩き巫女を束ねる千代女という者の配下だと言っております、若様を襲った下手人の張本人は某の父、武田信玄であります」
「判った、まだ評定中である、皆付いて来るが良い、評定の間に行く!」
信玄の配下千代女は武田家の諜報機関であり、歩き巫女を束ねる長である、この侍女達4名は巫女を育てる巫女頭であり、トップの者達であった、刺客の3名とは何かと顔を合わせる場面もあり、二人の亡骸は間違いなく千代女の配下であった事が確認された。
評定の間では多方向の話をしており収集が付かず荒れていた、そこへ忠義が戻り、大きい声で場内に告げたのである。
「若様を襲った犯人が判明致しました、皆様お静かに願います」
「何! 忠義、本当か、それは誰の仕業ぞ!」
「はっ、甲斐の武田信玄であります」
一同騒然となる広間。
「どうして判明したのじゃ!」
「では太郎殿お入り下さい、侍女達もお入り下さい!」
中央に座る忠義の後ろに控える5名。
「太郎殿ご説明をお願い致します」
「はっ、夕刻前に高林の館に若様が襲われた話が伝わり、その話を聞いた、ここにいる侍女達、元歩き巫女頭をしておりました四名がその話を聞き、甲斐武田家で過去にも同じような事をしており、もしや此度の襲撃も信玄が指示した事では無いかと、襲った者達に思い当たる節があるので面通しをしたいと申され、先程査問所にて亡骸を確認しました処、やはり見知っている者でありました、間違いなく巫女を束るね者の配下であり武田の者と判明致しました」
「おのれおのれ、武田め、嫡子を狙うとは・・・・この恨み晴らさん!」
「それにしてもよう気が付いた、巫女達お手柄である、太郎も、今は那須の武田太郎であり、父上が信玄であっても気にする必要は無い、そなたの忠義はだれよりも資晴が知っている、許せぬは信玄であり別物である、皆の者良いな、心得違いを起こすな、厳命である!」
「はっ、判っており申す、御屋形様張本人が判明致しました、如何致します」
「お待ち下され、下手人が判明したからと言って感情のまま動いてなりませぬ、御屋形様を煽ってはなりませぬ、一番悔しく動きたいのは御屋形様であります、今頃信玄は若様を亡き者にしたとほくそ笑んでおります、我らは若様の回復を待ち、策を行います、暫くは犯人が判明した事を伏せて下され、ここは我慢の時であります、動いてはなりませぬ」
「うむそうであった、危ない所であった、よう言った、皆半兵衛の言う通りである、暫く伏せるのだ、相手を油断させるのだ、信玄などいつでも蹴散らせる、今日はここまでと致す!」
下手人である犯人が判明した頃、資晴の館でも動きが起きていた。
資晴が襲われ既に夜半を迎える中、資晴が唸りながら寝返りを打ったのである。
資晴の部屋には医師の幸之助と小太郎、小太郎の母親、館の女将 伴と城から派遣された侍女3名が交代で見守りしていた。
梅の横たわる部屋には、公家の錦小路、鞍馬天狗、女将伴の妹 松、菊と華、それと城からの侍女3名で見守りしていた。
寝返った資晴を見て、医師の幸之助が額に手を当て、脈が安定しており力が強く脈打ちしている事を確認し、錦小路を呼ぶように侍女に促した。
「錦小路様そろそろ若様が目覚めようとしております、脈も強くなっております」
「うむ、間もなくじゃな」
「起きます!」
眼を開けた資晴・・・・天井を見つめ・・・・何かを思い出した様に、突如起き上がった!
「梅は、梅は如何した、生きておるのか? 梅はどうなった?」
「ご安心なされ、梅殿は生きております、隣の部屋にて安静に寝ております」
「切られたのでは無いのか?」
「着物の下に鎖帷子を付けており一命を取り留めております、ただ一刀の斬撃鋭く激しい打撲となっており内骨が折れております」
「話せるのか?」
「無理で御座います、目覚めておりませぬ、今は静かに見守るだけで御座います、若様も起きてはなりませぬ、今は既に夜半身体を休める時刻です、明日になれば梅殿にも気が入り目覚めるかと思われます」
「判った、生きているのであるな、儂の為に死ぬような事があっては取り返しがつかぬ、頼む公家殿梅を頼む、皆も心配かけた申し訳ない、儂はもう大丈夫じゃ、儂も休むから皆も下がって欲しい」
錦小路は資晴を安堵させる為に梅は大丈夫と伝えたが、実際は梅の容態は悪化していると見立てていた、斬撃を受けた胸には一本の筋となり赤黒く変色し、打撲痕が出来ているが、時間の経過かと、ともに治るであろうと見立てているが、問題は腹部が徐々に膨らみ始めている事に取り返しがつかない事になると恐れていた。
梅の腹部が徐々に膨らむという事は臓物が傷付き出血している恐れありと判断していた、膨らみが止まれば斬撃による衝撃の腫れで済むが、止まらない場合は、一か八かの手しか残されていなかった、そこで明日に備え、天狗殿に小さき小刀を渡し、鋭く切れる様に研ぐように頼んだのである。
鞍馬天狗も小刀を渡された意味を理解し、自ら研ぐ事に、翌朝には鞍馬の里からも医師が到着した。
翌朝、錦小路、幸之助、鞍馬の医師之坊の三人で梅の状態を触診し確かめた。
「私の見立ては最後に述べますので、お二人の見立てを教えて下さい」
「お師匠様の前で先に申し述べる事お許し下さい、梅殿は危険な状態であると見立てます、腹部の腫れ紛れもなく出血による腫れであると見立てました、某には治療方法は判りませぬ」
「では鞍馬の医師之坊である某が、このままでは必ず二日程で亡くなります、残る手立ては腹部を開け血を抜くしかありませぬ、抜いた後出血箇所を突き止め焼き止めしか残されておりませぬ、仮に焼き止めが出来ても生き残れるは梅の体力、後は奇跡を待つ事になります」
「医師之坊殿某も同じ意見で御座います、最早それしか残されておりませぬ、では急ぎ団取り致しましょう、鞍馬殿今から言う物を揃えて下さい、銅鏡3、銀箸6本、さらし5枚、湯桶5つつに温かい湯をお願い致します、それと梅殿を抑えられる者5名をお願いします、良いか幸之助、その方は切開した後、直ぐさま血を拭き取るのじゃ、次から次と出血するはずじゃ、儂と医師之坊殿で出血箇所を銀箸で探り出し、傷を見つけねばならぬ、小太郎殿賄い方にある食台の大きい方を縁側の明るい場に運んで下され、水洗いしてお運び下さい」
「他に手が空いている侍女達は銅鏡にて腹部患部に光を当て良く見える様にして下され、それと蝋燭の火を用意願います」
こうして準備が整えられ、いざ梅の腹部切開を行う時を迎えた、しかし、その時になり梅が若様はお守り出来たでしょうかとか細い声で囁いた、その声を聞き、天狗が。
「ようやった、梅よ、若様は無事である安心致せ、これより梅の腹部を開け血を止める、暫く我慢致せ、必ず生き延びよ!」
梅は頷き、手術とも言うべき腹部に刃わ突き刺さした。
最初は腹部から溜まった血を溢れる血を流れさせ、勢いが弱まった所で腹部を大きく切開し、銅鏡で光を中て照らし、湧いて来る血を拭き取り、一瞬綺麗になるも又も流れる血を拭き取る中、急ぎ錦小路と医師之坊にて出血箇所を銀箸で腹部を探り懸命に探していた、出血が止まらなければ確実に死が訪れる、時間との戦いであった。
「公家殿この下が怪しい、ここです」
「光を光を中ててくれ、天狗殿も一緒にここを押し広げてくれ・・ここである」
「・・・あった、ここだこの箇所だ、しかし、これで縫えぬ、焼くしかない、天狗殿この刃の先を蝋燭で焼いてくれ、幸之助、合図をしたらこの箇所の血を抜き取れ! 傷口を焼く良いな!」
「他の者は梅が暴れない様に抑えるのじゃ、最後の勝負所ぞ!」
「公家殿刃を焼きました」
「よし、幸之助よいな、今ぞ!」
ジュシュシュという焼く音が・・・
「よし、もう一度拭け!」
「止まったか? 光を中ててくれ、医師之坊殿どうで御座るか?」
「止まったで御座る、止まりましたぞ公家殿、良し、では切開した腹部を縫いまする」
この傷口を焼いて止血する方法を焼灼止血法という昔から用いられた止血方法である。
「次は切開し縫う所を幸之助拭くのじゃ、良し、行くぞ!」
出血箇所を見つけ、傷口を焼き傷口を塞ぎ、切開した腹部を縫い一連の手術を終えた公家達。
梅を台座から下ろし、寝床に置き、後は梅の体力が勝つかどうかに懸けるしかなかった。
資晴の方も昨夜は一旦眼が覚めたが又もや起き上がる事が出来ず床の上で喘いでいた。
それを見立てた錦小路は温い湯に塩を混ぜ飲ませた、脱水していると判断したのだ、人間の身体は水で出来ていると言っても良い、身体の回復に一番必要な事は水分である、適度な水分が保たれている事で身体の機能が回復出来るのである、一時的な栄養の不足であれば体内に蓄積された脂肪が補い補正するが水分だけは切らしては行けないのだ。
水こそが体の機能を整える一番の重要な要素であり、脱水を起こした時に早く体内に水分を吸収させるには塩を少し加える事で早くなるのである。現代のスポーツ飲料水もこの原理である。
資晴が実際に起き上がれるようになったのは三日目の朝になってからである、重湯を食した後に一連の事を女将の伴から説明を受け、梅の事が心配で部屋に訪れた、控えの侍女達も疲れており半数の者は横になっていた、そっと梅に近づき手を軽く握る資晴。
「・・・・暖かいです・・・これは若様の手?・・・・」
「そうじゃ、儂だ、横にいるぞ、もう安心じゃ、傷が治ったら梅の食したかった珠華プリンを一緒に食べようぞ、約束じゃぞ、今は静かに身体を治すのじゃ、儂はまっているぞ!」
「はい、若様、楽しみにしております、若様もお大事にして下さい」
手を握りおでこを撫で静かに退出した資晴であった、梅の眼には一筋の滴が流れていた。
資晴が回復した事が資胤と母親の藤にも伝わり、梅も一命を取り留めた事が報告された。
資晴が襲われた事は領民に知らされず、何事もなかったように刻は流れお盆を迎えた頃に梅も歩けるようになった、打撲痕は完全ではないが一部痣となり残ったが体の機能は、障害は見受けられなかった、但し腹部にはしっかりと切開した後は残った。
お盆を終え秋の収穫を前にして、襲われた時のメンバーと、忠義、一豊、半兵衛、太郎と三条のお方付きの侍女四名の大勢を引き連れ、城下町に繰り出し、この日は甘味処珠と甘味処みつを貸し切り、二件の店に繰り出し甘味物を沢山食したのである。
「まだ食べる気なのか、梅、どこか変であるぞ、食べ過ぎぞ、今度は食あたりで危篤になるやも知れぬぞ」
「私だけではありませぬ、侍女の皆様も甘味は別腹なのです、問題ありませぬ、今日は若様がお支払うのでまだまだ入ります」
「もう梅とは、店に来ない方がよいのう、あっはははは、こりゃ大変だ、あっははははー」
その夜は館で資晴の重臣達で次の軍略が話し合われた。
「前に話したとおり、事を進める、玲子殿より授かった軍略を仕込む時が来た、特に太郎と長野殿の連携が大切である、我らは太郎殿長野殿の軍勢とは別に1万の本隊を用意するのだ、勿論弓の騎馬隊である儂の隊だけでは一万も用意は出来ぬ、そこで芦野家、伊王野家、千本家、福原家からもそれぞれお主達が率いる騎馬隊を拝借して来るのだ、全軍で15000の陣容が動く事になる、大戦になるかもしれぬ、その時にならねば儂でも読めぬが被害が及ばぬ様最善の陣容を用意するのだ」
「若様北条様にはこれから伝えるで御座いますか?」
「うむ、そうなのだ、すぐ隣に武田がいるゆえ、最後に伝える方が良いと判断した、それについこないだ襲われたばかりであるから、警戒せねばならん、それからなんで洋一殿の身体に儂が入れたのであろうか? 不思議な経験だった、それと軍師玲子殿は本当に素晴らしき御仁の壮麗なお方であった」
「何度お聞きしても不思議な話で御座います、まさか5年も前から我らに此度の策を仕込んでおりました事を聞き、全身から鳥肌が立ち申した、今聞いても鳥肌が立ちます」
「きっともっと前からでは無かったかと思うのじゃ、具体的な事は5年前からかも知れぬが、最初の佐竹と戦った時には既に此度の事が描かれていたように思うのじゃ、全てが軍師殿の掌の上で我らは動いていたように思う」
「それであれば、十兵衛殿も私が那須に来る事も軍師殿の策であると・・・・」
「いや、一豊も、和田殿も、勿論、太郎も、長野殿も皆そうじゃ、勝手に来た者は公家殿位じゃぞ、あっははは、公家殿がおらねば梅は死んでいた、偶然とは言え、公家殿のお陰で半兵衛も強い身体になった、感謝しきれぬ」
「そうで御座いますね、牛痘の件で疱瘡を防ぐ方法を確立したと言っておられました、今は確か平家の里で行っていると聞きました、それが終われば領内と蝦夷に行くと申しておりました」
「そうなのだ、今幸之介が平家の里に行っておる、公家殿は見習いの医師も含めて技を伝授しておる、領内全ての牛を牛痘に罹患している牛を把握している所よ、儂も驚いたが牛痘に罹患すれば疱瘡が防げるとは信じられん、だが本当の事なのだから凄いどころの話ではないのだ」
この夜は資晴との今後の軍略に付いて熱く語る夜となった。
いや~梅ちゃん死ななくてホットしてます、何度もどっちにしようかと悩みました、私には信玄を殺せても梅ちゃんは殺せませんでした、これでいいですよね?
次章「先手」になります。
ちなみにこの次章の題名って、毎回毎回その章を書き終えてから決めています、全ての章に完成した原稿は何もありません、その辺りが素人なんだと思います、お許しください。




