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月下寺秘仏  作者: kazuy
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第六話


 常梨は衣装盆の上に荷物を載せて無縁仏を埋葬している塚の前にやってきた。スカジャン男がひとり、墓石を動かし終わったところだった。


「おいクソ坊主、どれが女の骨だかわからねえぞ」

「先々月火葬したので、上のほうの骸骨だと思うのですが」


「上のほうってなんだ」

「最近、インターネットのせいだとおもうのですが、自殺しにこの御山にやってくる輩が増えていまして。身元がわからない場合は、この寺で手厚く供養してあげているのです。先々月も先月も身寄りのない仏さまが何人かおいでなりました」


 常道は、胸の前で手を合わせ低い声で真言を唱えた。常梨は、「お荷物をお持ちいたしました」と常道の背に声を掛けた。それまでタバコをふかしていた背広の男が近寄ってきた。


「どうして、これは火葬しなかった」


 常道は、その言葉には直接答えず、中身は見ておりません、と言った。背広の男は、リュックをつかみ取り中身を素早く確認した。


 おい、と言ってスカジャン男にリュックを放り投げた。スカジャン男はびっくりしたようだったが、リュックを落とさずギリギリでキャッチした。


 背広の男は、スマホを手に取り、電源が入るか確認した。電源は入らなかった。それをポケットにしまい、財布を手にとった。常梨が持っている衣装盆の上に、中身を全部開けた。


「たしかに、キャッシュカードや免許証など身元がわかるようなものは全部ないな。まあいい。財布の中の現金は全部、この寺に寄付する。他のものも全部ここで処分してくれ。ところで不審死は、警察に報告しないといけないことを知っているよな」


「ええもちろんです」

「この荷物があるっていうことは警察に知らせてねえってことだな」


 常道と背広の男は、互いにしばらく見つめあった。


「つまりお互い、このことを忘れたほうがいいということで、いいんだ、よな」

「はい」

「おい小僧、お前もわかったな。今日のことは、何もみなかった。いいな」


 常梨は、合掌し深くお辞儀した。




 常道と常梨が声を合わせて、無縁仏の石碑の前で合掌し真言を唱えた。その後、しばしの空白が生まれた。常梨は、その空白を埋めるように、心の中で祈った。どうか、どうか、彼女の魂が成仏できますようにと。


「さあ、これでやっと彼女の供養が終わりました」

「私が初めて、この寺にやってきたあの日、山門で女性にあったんです。そのとき、彼女、涙を流していたんです。どうして、彼女は涙をながしていたんですか」


「なるほど、それでまんぢゅうを一緒に食べようと言ったら、鬼のような形相になったんですか。私が泣かせたと」

「そうです。そう思ったんです。この男もデタラメだと」


「彼女がどうして泣いていたのかは、私にはわかりませんし、彼女のことを常梨にお話することではありません。ですが、今、供養したこの人もできれば生きて涙を流してほしかったです」


 常道は、もう一度、真言を唱え深く頭を下げた。


「ところで、あのヤクザたちがやってきたときは、どうなるかと思いましたが、思いの外時間がかからず終わってよかった」

「これで終わりになるでしょうか」


「まあ、終わりでしょう。おとなしく金と拳銃をもって帰っていったし、そんなに気にすることはもうないと思いますよ。不安ですか」


「少し」

「それなら、しばらくのあいだ、その出っ歯と眼鏡はつけていたほうがいい。それでも不安なら整形したらいい」


「そんなカネ、」

「ほら、そうやってすぐボロがでる」


「申し訳ございません」

「坂上葵は、あの夜、たしかに私の目の前で引き金を引いて死にました。今ここにいるのは、生まれ変わった僧侶常梨です」


「私は、ずっと拳銃を抱えて寝ていたはずなのに、いつ弾をぬいたんですか」

「もちろん、社務所で眠っているあいだですよ。まあ、途中で目をさましたら、なぐってでも奪おうと思いましたけど。それこそ死んだように寝ていたんでね。絶対朝まで起きないと思っていたんですよ。ところが、深夜に目を覚ましてきたから、びっくりしました」


「こっちは、もっとびっくりしましたよ。いくら、引き金を引いても弾がでなくて、和尚様が、午前0時を過ぎました、大人になりましたねと告げときは、足元に地面がなくなったような感覚で。上下の感覚がなくなってしまって」


「ほんとに、いきなり倒れたから、まさか毒まで用意していたのかと思ってね」

「和尚様の胸の中できつーく抱かれながら突然ひらめいたんです。ああ、許されるなら、こんな汚い私のままでもいい。この人と仏にすがって生きていきたいって」


「なんか、言い方が生臭いし、嘘くさいですね。仏にすがるなんて言葉使いは知らなかったでしょう」

「ところで、熊神さまに唱えたお経を教えてくださいよ。熊よけのお経。いつなんどき必要になるかもしれませんから」


「ああ、あれはなんちゃって般若心経です」

「なんちゃって?」


「ええ、般若心経に適当に他のお経を足してみたんです。雰囲気だけでも、どうか助けてくださいとお伝えしたいと思いましてね」

「騙したのか」

「でも、効いたでしょう。おっと、だれか表にきたようですよ。常梨、修行の時間です。その振り上げた拳は見なかったことします。しまっておきなさい」


 常道は、笑って社務所を速歩きで出ていった。


「ほんとに、どこまでが本当なのか」

 常梨は、下唇を軽く噛み微笑んだ。振り上げた拳で天に円を描くように振り回し常道の後を追った。

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