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1.曲がり角

「……お兄ちゃん、起きて。」 


 制服を身にまとった妹の山田妹子が、俺の肩を揺らす。


「愛しの妹よ、おはようのちゅうは?」


「お兄ちゃん……」


 妹子が俺の頬を両手で包み込む。俺はそれに合わせて唇を尖らせる。


『パチン』


 俺の頬から輪ゴムが弾けたような、爽快な音が響き渡る。


「本当に気持ち悪い。シスコンとかありえない。」


 ゴミを見るかのような目で俺を見ると、部屋を後にした。妹子の手形に腫れ上がった頬を擦りながら朝の支度を始める。こんなにも妹に溺愛されている俺の名前は山田太郎。しがない高校2年生、ボッチだ。別に俺は1人が嫌じゃない。強がって言っている訳ではない。友達ごっこで気を使うこともなく、いざこざに巻き込まれなくて済むからだ。


だが、そのボッチライフが脅かされそうになっているのだ。実は俺はラブコメ小説の主人公なのだ。なぜそんなメタいことを知っているのかって? それはもちろん作者がそういう設定にしたからだ。


「平穏なボッチライフを守るんだ! 作者の思い通りに動いてなんかやるものか!」


 俺はその信念を胸に家を飛び出す。路地に出た俺は手始めに、逆立ちで学校に向かう。


「がははは、どうだ! こんな重力受けた顔でラブコメに発展することはないだろう! がはは……」


『ドン』


 どのくらい意識が飛んでいたのだろう。気がつくと目の前には、ルーズソックス、つけま、カラコン……と、いかにもギャルな美少女が倒れていた。どうやら曲がり角でぶつかってしまったようだった。


「ちょっとあんたどこ見て歩いてんのよ!」


「す、すいません。」


 美少女ギャルの勢いに押され条件反射に謝る。


「……」


 さっきの勢いとは裏腹に、美少女ギャルは急に黙り込む。


「あ、あのー、大丈夫ですか?」


「会いたかった!」


「えっ!?」


 突拍子もない発言に、俺は1歩後ずさる。


「ど、どこかで会ったことありましたっけ?」


「ないけど?」


「えっ……じゃあなんで? あっ、もしかして昔に結婚の約束をした幼馴染とかやめてくださいね、擦りすぎてるんで。」


「はっ? 何言ってんのキモイんだけどまじで。」


「す、すいません。」


 自分達がラブコメ小説の登場人物であることは、この世界で俺しか知らないのだ。


「じゃあなんでなんにも知らない赤の他人の俺に会いたかったなんて言ったんですか?」


「じ、実はあんたが......」


 美少女ギャルは耳を真っ赤にして言い淀む。さっきのツンツンしていた時とは裏腹にモジモジしていて、とても庇護欲をくすぐられてしまう。そんなギャップに俺まで少し照れてしまう。ラブコメもいいかもしれない。そんな風に俺は考え始めていた。


「あんたが……あんたが……ラッキーアイテムなの!!」


「え?」


 俺のラブコメが始まった?

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