89 皇国学習院で会った人物
『皇国学習院』
それは貴族の子供達のための学校だ。
国内の貴族の子供は大半がこの学校に入学することになる。
ここを卒業した貴族の子供が後に文官や将校になるのだ。
オレはその皇国学習院の入り口に立っていた。
今日その入試の本番だ。
「カストリア様でしたら絶対合格できますわ」
「あァ、いってくるぜェ」
「カストル! 無様な姿を見せたら許さんぞ!」
「お兄様、合格お祈りいたしますわ」
今日はオレの家族までもが、入試のために皇国学習院に一緒に見送りに来た。
継母は来なかったが、まあそれも想定内だ。
アルヘナは父親の手前、オレを兄と呼んでいる。
「しかし、才女で名高いベレニケ男爵殿が、私の息子の家庭教師をしてくれていたとはな」
「いいえ、わたくしこそヘミニス伯爵様のお子様の勉強を見れて光栄ですわ」
「ふむ、合格したら何か褒美を与えねばいかんな」
「伯爵様、わたくしにはもったいないお言葉でございますわ。さあ、では行きましょう」
オレはベレニケに付き添ってもらい、バロと二人で皇国学習院の門をくぐった。
「カストリア様? 疑問に思ったのですが、なぜヘミニス伯爵様はカストリア様をカストルとお呼びなされるのでしょうか?」
「実は……親父はオレを男だといって育てたんだよォ。なので外ではオレは男ってことになってるってわけさァ」
「そうでしたのね。でももったいないですわ」
ベレニケは何を言いたいのか?
「だってこれだけ美しくて可愛いカストリア様が男って、わたくしはカストリア様の下僕で幸せですわ。……あ、でも男の姿なら一粒で二度おいしいかもしれませんわね」
黙れ変態。
「おや、そこにおるのは……ベレニケちゃんぢゃないのか?」
「その声は……もしや、シリウス男爵様? 最近全く見かけませんでしたが、一体どちらに??」
「儂は弟子の付き添いぢゃ。二人おるでのう……」
そこにいたのは前の人生でオレが殺した魔法省の没落貴族の爺さんだった。
あの大きな眉毛は間違えようがない。
「シリウス男爵様の弟子ですか? 一体それはどこの貴族様のご子息様の家庭教師をしておられたのですか?」
「いや、儂は平民の特待生枠の付き添いぢゃよ」
ベレニケが話をしている爺さんはシリウス男爵という名前で、どうやら平民枠での特待生の付き添いで来たようだ。
しかしあのベレニケが頭を下げているというのは、かなり偉い人に違いない。
「特待生……ですか? ですがあの制度はあってもほとんど使われていなかったかと……」
「儂が保証する。あの二人は天才ぢゃ!」
「それは聞き捨てなりませんわ。わたくしが育てたカストリア様こそ、最高の天才なのですわ!」
ベレニケ、頼むからハードルを上げないでくれ。
だが、このシリウスという爺さんの育てた二人とは……誰なのか?
「まあよかろう、儂の一番弟子ぢゃったお前さんぢゃが……最近はあくどいことをして儲けておったと聞いておるぞ。その頭をなぜ悪事に使ったのぢゃ?」
「シリウス男爵様、もうわたくしは悪いことはしておりません。ここにいるカストリア様がわたくしの目を覚まさせてくださいました」
シリウス爺さんがオレのことを大きな眉毛を広げてジロリと見た。
「ふむ、不思議な運命を感じる娘ぢゃ。まるで二度生きているように感じるわい」
この爺さんはオレのことを女だと見抜いているようだ。
「まあよい、今のお前さんの目には濁りが見えん。そのまま人生を進むがよい」
「あ、あァ。爺さん、ありがとうなァ」
オレはシリウス爺さんに挨拶をすると試験の会場になっている教室に向かった。
試験科目は、算学、国語、魔法構成学基礎、武術、それと……自由課題だ。
自由課題は皇国における自身の在り方というテーマだと聞いた。
「今から試験を始める。各自、机の上の私物をしまうように!」
そして、オレの皇国学習院の試験が始まった。




