81 崖の上の凶行
「ほう、だいぶん上達したな。それなら十分売り物や看板になるレベルだ」
「ありがとうございます」
「だが、お前は絵描きになりたいわけではないだろう。それにお前には絵の才能とセンスはない」
ヒドイ言われようである。
だが当たっているだけに反論は出来ない。
「絵は才能とセンスだ。これは生まれながらのものが大半なので、どうしてもそう簡単に努力で身に付くものではない」
「そう……なんですか」
「残念ながらそうだ。だから売り物や看板と言った。それらはセンスよりも依頼主のいったものをいかに写実的にかけるかが全てだからな」
確かにそういう絵や看板は何かを考えて描くわけではなく、そのままあるものを完成させればいいだけだ。
「お前には絵よりも別の才能があるだろう。それはお前自身で見つけろ」
「はい、頑張ります」
「いい返事だ」
そう言ったレイブンさんはいきなり傘の柄で私を突いてきた。
しかし修行のおかげで私はそれを難なく避けた。
「やるな、だがまだっ!」
レイブンさんは長いロープを取り出し、上に投げた。
何をしようというのか?
するとレイブンさんはそのロープに摑まりながら、壁を蹴って私のお腹に鋭い蹴りを入れてきた。
「がはぁ!」
「だがまだ甘いな。お前は攻撃が正面や後ろ、横から来る事しか想定していない。立体を把握した戦い方を知らないからだ」
そういうとレイブンさんは天井につるしたロープを引き戻した。
「コレを見ろ」
そう言ってレイブンさんが用意したのは、長い鞭だった。
「安心しろ、これでお前を痛めつける趣味はワイにはない」
そんな趣味持ってたらドン引きだ。
しかし、貴族連中にはそういう趣味のやつらも実際にいる。
「お前にこれを渡す。これで立体的に動く練習をしてみろ」
「はい、わかりました」
私は、渡された鞭を使って天井の梁に引っ掛ける練習をした。
しかし鞭は思ったように絡まらず、また、絡まったとしたら解けないようになってしまう。
「ダメだダメだ、こうやるんだよ!」
レイブンさんはいとも簡単に鞭を縛り付け、それに摑まりながら反対側に移動した。
そしてその後鞭を引っ張りながら梁から引っ張り、手元に戻した。
「凄い……」
私が感心していると、レイブンさんはいきなり私に鞭を打ってきた。
「ひぃいいっ!」
しかしレイブンさんの鞭は私を打ち付けたわけではなく、身体にまとわりつき、がんじがらめにした形だった。
「う、動けない!」
「どうだ、鞭にはこういう使い方もある。次はお前はこの技術を身に着けろ」
「これは……何の為ですか?」
「いずれわかる時が来る」
そして私は剣術、格闘術、絵の描き方に追加で鞭の使い方も修行する事になった。
そんな修業が一か月も続いた頃。
「やった、ついに鞭で梁を縛れました!」
「そうか、それではそれで反対側に動いてみろ」
「はいっ!」
私は鞭を使って梁の反対側に移動し、鞭を引っ張って解いた。
「よくやったな」
レイブンさんが私を褒めてくれた。
「ここまでできるようになったからには…あそこに連れて行くとするか……」
レイブンさんは私に次の日、少し多めに食料を持ってくるように言った。
◆
「先生、こんな所でどうするのですか?」
私はレイブンさんに連れられ、郊外の森の見える崖の上に連れてこられた。
「コレをお前に渡そう」
そう言うとレイブンさんは私に鞭とナイフを手渡した。
「あの……これで何をするのですか?」
私が質問しようとした時、レイブンさんの蹴りが私の腹部に直撃した。
「ぐはっ! あっああああーっ!!」
私は崖の上からレイブンさんに蹴り落とされてしまった。
ここは魔の森、迷いの森と呼ばれる場所の真上の崖だ。
崖を転がり落ちる私は、どうにか大怪我をしないように鞭を木に絡みつけた。




