78 大切な家族
「かああー、駄目だ! まるで才能が無い!!」
「そんなにヒドイですか?」
「かああー、ここまでヒドイのは初めてだ」
そこまでボロクソに言わなくても。
「いいか、一応お前はここに絵を習いに来ている名目なんだ。それなのに人に見せれるレベルの絵が描けないって……何だそれは」
「一応、野菜と果物とかごです。見たまま描きました」
体中が痛むのに絵筆を持って絵の練習って、筆を持つのがやっとだというのに。
「ワイにはそれはどう見てもただの球にしか見えん。それも真ん丸の球だ。それが一体何の果物や野菜だというのだ?」
「キャベツと……レモンです」
レイブンさんが呆れ果てている。
「いいか、真ん丸なキャベツやレモンがどこの世界にある? レモンは少し楕円に尖った形。キャベツは薔薇のように何枚もの薄いものが重なって出来ているんだ」
そう言うとレイブンさんは黒い炭を使って見事にキャベツとレモンをサッと一瞬で描きあげた。
「凄い……」
「ワイはな、コレでも表側の仕事は絵描きをしていた。なぜだかわかるか?」
「いいえ、わかりません」
描いた絵を塗りつぶしたレイブンさんが教えてくれた。
「怪しまれないため、それと……場所を把握するためだ。絵を描く事でその場所がどんな場所かを見極め、その上でターゲットを見定めていた。まあお前は暗殺者になるわけではないのでそこまではやらせんがな。しかし……最低限絵を習っているくらいの上達は見せて欲しいものだ」
レイブンさんはため息を吐いていた。
「奥の部屋から絵を描くための白い布を持ってこい」
「はい、わかりました」
私は奥の部屋に行き、白い布を手に持った。
その時、部屋の奥に埃にまみれた絵があるのが見えた。
絵に描かれていたのは、可愛らしい男の子と美しい女性だった。
「何をしている、さっさと持ってこい!」
「は、はい!」
私は急いで布を持って部屋に戻った。
「先生、奥にあった男の子と女性の絵は先生が描いたのですか?」
「ああ、そうだ」
「あれは一体誰ですか?」
レイブンさんの目が悲しそうだった。
「もう、二度と会う事の無いワイの家族だ」
「二度と……なぜ……」
私は言いかけて口をつぐんだ。
死別だったら確かに二度と会う事は出来ない、これは失言だった。
「もうお互いが会わない方が良いんだ。ワイの家族と知られると……報復でアイツらに刃が向く。アイツらのためにも……ワイは会うわけにはいかんのだ」
そうだったのか。
レイブンさんは暗殺者だと知っている相手に、愛する身内を殺されないために自ら姿を消したのか。
「今日は初日なのによく頑張ったな。最後に仕上げをしてやろう」
「ありがとうございます!」
そう言うとレイブンさんが奥の戸棚から何かを持ってきた。
「お前、服を脱げ」
「え? えええぇっ!!」
レイブンさんが私にいきなり服を脱げと言った。
こんなところでいきなり態度が豹変したのか、しかし……強くなるためならば仕方がない。コレも女の体になってしまった運命と受け止める事か。
「ど、どうぞ」
私は顔を赤らめながらこの後の展開を覚悟した。
「オイ、何を勘違いしている。誰もベッドの暗殺術を教えようってわけではないぞ」
「えっ?」
レイブンさんは私の体に触ると、何かを肌に塗りこんだ。
「ひゃうぅっ!!」
「いいか。これは、特製の薬だ。これを塗れば少しの打撲や擦り傷程度ならすぐに治る。それにこれは肌の色に近いので、お前の心配する身内に傷だらけの身体を見せずに済む」
レイブンさんは私に軟膏を塗ってくれた。
体から痛みがすっと引いていく。
「いいか、家族や大切なヤツを大事にしてやれ。お前の強さはそのためのものだ」
「はい。ありがとうございます」
薬を塗ってもらった私は服を着て、頭を深く下げた。
「先生、ありがとうございました!」
ボカッ!
「最後まで、気を抜くなと言ったはずだ!」
「は……はいっ!」
そして私は家に帰った。
それから毎日、私はレイブンさんの家で強くなるための修行に励んだ。




