6 毒と薬は使いよう
「しかしながら、カストリア様。いくら貴族と言えども……」
「えっと……アマンダって誰だっけ?」
「!!! カ……ストリア、様! 何故それを」
アマンダとはメディコが不倫している看護師の名前だ。
メディコは妻がいながら看護師と不倫をしている。
オレはこれを前世で知っていた。
「イヤねェ、昨日メディコ先生が置いてたカバンの中から手紙らしいものが落ちててねェ、オレが拾ったんだよ」
本当はカバンの中から取っておいたんだけどね。
不注意な奴から一つだけ何かを取るなんて余裕だ。
「でェ。種は用意できるんだな?」
「承知……致しました」
翌日、メディコはご禁制の草の種を持ってきた。
オレはそれを受け取り、机の引き出しの中にしまった。
畑を作る為に庭に出ようとした所で、オレは親父に会った。
「親父ィ、おはようざいます!」
「うむ」
「一つ聞きたい事があるんですがァ」
「何だ?」
「オレ、今やってる敵国との戦争ってどうなってるか知りたいんだ」
この時代、戦争があったのは事実だ。
そのせいでスラムには負傷兵くずれが大量にあふれ、そいつらが原因の疫病で大勢が死んだ。
「勿論我が国、トレミー皇国が圧しておる。蛮族なぞすぐに蹴散らして見せるわ!」
親父はこう言っているが実際戦況は最悪だった。
この戦争でトレミー皇国は敵国にイニシアチブを取られ、庶民は更なる増税で苦しむことになったのだ。
「負傷兵って、どうなってるんだ?」
「フン、負け犬は国に必要ない。強い兵だけ残ればいいのだ!」
やはりそうか、負傷兵はゴミ扱い、それがこの国のやり方だ。
オレが考えている事は確実に成功する。
「流石親父だ! オレも立派な軍人になるよッ」
「期待しておるぞ! 我が息子よっ」
これで戦況の情報は手に入った。
後はどうやって薬を売るかだ。
◇
「結構立派な土地だなァ」
「カストリア様、庭師を呼んでまいりました」
「ありがとうよッ」
「いつもながら、我々下々の者への挨拶なぞ勿体のうございます」
オレは庭師に離れの庭を整地してもらい、ここにご禁制の草の種を植えた。
この草は瘦せた土地でも育つ為重宝されている。
主にご禁制の薬の材料としての事だ。
だが、オレの作りたいのはそんな物ではない。
オレが前の人生で下手を打った時、痛み止めとして使ったのが、このご禁制の草を薄めた液だったのだ。
この草はそのまま使えば幻覚を見たり昂揚感を感じる為、退廃的な貴族や現実を忘れたい娼婦等に高額で売られている。
だが、オレが作らせるのは、それを十倍以上にも希釈した液体だ。
「メディコ、試作品は出来たか?」
「ハイ、ではこれを」
オレはメディコから試作品の薬を受け取り、それを飲んでみた。
その上でオレ自身の指をナイフで切ってみた。
流石に誰かに金を払って体を切らせてくれとはとても言えねェ
「痛……くねェ」
オレの指からは血がドクドク溢れている。
だが、オレの体にはまるで痛みが無かった、これで成功だ!
「メディコ! 成功だッ」
「カストリア様、おめでとうございます。ですが……これは一体」
医者たちはこの草を幻覚を見たり、現実を忘れるご禁制の草だとして認識している。
いや、それ程度の物としか見ていないのだ。
「オレが作りたいのはこれなんだッ! 痛みを感じない薬。これがあれば戦場で傷を受けた兵士が助かるッ!」
「なんと! カストリア様はご禁制の草を使ってこんなものを作ろうとしていたのですか!?」
「そういうコトだ、これなら法にふれるわけでもないし、ゴミ扱いされる兵士が再度戦ったり傷を治せる。ご禁制の草を十倍以上に希釈して使えば材料は本来の使い方の十分の一、売る量はそのままで売れるてェわけだ!」
「カストリア……様? 算数は苦手ではなかったのですか?」
しまった! 芝居がばれたかッ。
スラムのボスやるのに頭がバカだと、部下に持ち逃げされたり顧客に騙される。
当然ながらオレは生きる為に算数を勉強したのだ。
さて、これであのガキ達との約束の日に出かける準備は出来た。