63 さらわれたスピカ
今回からまたポルクシアの側の話になります。
スピカは魔法の天才だ。
魔法を使うだけなら、基礎魔力があれば誰でも使える。
だが、スピカは魔法の強弱を、自身のセンスで自在に変える事が出来るのだ。
私は前の人生でスピカがどうして警備隊に全く捕まらなかったのかを理解した。
彼女は火水風土光闇全部の魔法を使い、その場に合わせて臨機応変に逃走経路を確保していたのだ。
今のスピカはその魔法センスを街の人達の為に使っている。
洗濯物を水の魔法で回して効率よく洗ったり、風の魔法で乾かしたり、火の魔法はパンの絶妙な焼き加減に使い、土の魔法は燃やしきれないゴミを土に変化させて畑の上質な肥料にしたりしている。
今や街のみんなはスピカを街に欠かせない存在だと見ている。
スピカのおかげでこの街は貧民街と呼ばれる事が減った。
行く当てのなかった子供達はゴミ捨てを手伝ったりする事で、お風呂にタダで入れてあげた上、食事を提供している。
それもスピカへのみんなの寄付金から出しているので、誰かが損するという感じではなさそうだ。
もうこの街はスピカ無しには成り立たないくらい、彼女は街のみんなの顔になっていた。
「あの娘か……ケプラー様が言っていたのは」
「おう、アレをさらってこいとのご命令だ」
「でもどうするつもりなんだ?」
「知るかよ、でもどうも貴族様に売りつけるみたいだから、手荒な事はするなって言われてるぜ」
私の知らない所で、そんなやり取りがされているはこの時の私は全く気が付かなかった。
「スピカ、さようならー」
「ポル、さようなら。また明日ね」
その日も私はいつものように風呂屋の仕事を終わらせ、レーダ母さんの待つ家に帰った。
◆◆◆
「さて、お師匠様に美味しいもの食べさせてあげないと……」
「おい、ガキ。そこを動くな」
スピカにナイフが突きつけられた。
「アンタ達、人さらいね! ファイヤー……」
スピカが魔法を放とうとしたその時、彼女に液体がかけられた。
「!! 何これ……う、動けない!!」
「この薬、使えるな。相手に飲ませる以外でも効果があるみたいだな」
「流石はケプラー様だ」
動けなくなったスピカは人さらいに抱えられ、そのまま連れ去られてしまった。
◆◇◆
私はレーダ母さんと一緒に今日のスープを作っていた。
「母さん、今日はちょっと肉多めにできるよ」
「そうなのね、お金貰えたのね」
「うん、またお風呂に人がたくさん来たからね」
レーダ母さんと和気あいあいと食事の用意をしていた所に、意図せぬ来客があった。
「大変ぢゃあああー! スピカちゃんが帰っとらん。ここに来ておらんかぁー!!」
この大きな声は、シリウス爺さんだ。
「一体どうしたんですか?」
「大変ぢゃ大変ぢゃ、いつもなら帰ってくるスピカが帰ってこんのぢゃ!!」
そう言ってシリウス爺さんは袋を見せてきた。
「これはいつもスピカが使っておる手提げ袋ぢゃ!! これが裏通りの所に落ちておったのぢゃ!!」
まさか……スピカが誘拐された!?
「母さん、僕ちょっと出かけてくるっ!!」
私は走って中央街入口の宿屋に向かった。
この街の自警団は当てにならない。
貧民の為には動かない連中ばかりだと、この前思い知った。
「おばさん! レグルスさんはいますかっ!!」
「どうしたんだい? そんなに焦って」
「レグルスさんはどこに!?」
「い、今頃はいつもの酒場じゃないかね」
私はそのまま宿屋を飛び出し、以前行った酒場を目指した。
「レグルスさん! いますかっ!!」
「よう、ポルクシアちゃんじゃねーか。どうした? そんなに焦って」
「こんばんは、お嬢さん」
レグルスさんはイア―ソンさんと一緒に酒を飲んでいた。
しかし、私の様子が普段と違う事をすぐに見抜いたようだ。
「何が……あった?」
「スピカが……さらわれました!」
「何だって!! レグルス、オレも手伝ってやるよ」
イア―ソンさんが私の話を聞いてすぐに酒を飲み干し、横に置いていた剣をベルトに通して鋭い目つきになった。
「まずは……誘拐犯の特定からだな!」




