55 東貧民街の掌握
オレの忠実な部下になったベレニケ男爵は優秀だった。
前の人生での男狂いが無くなったので、仕事に忠実で没頭するタイプになったようだ。
「カストリア様―、ご命令通り東エリアの貧民街もわたくし達カストリア商会の傘下に収まりましたー」
「あァ、よくやってくれたな」
オレ達は東エリアの盗賊団と奴隷商人を調べ尽くし、その資金源を根こそぎ奪ってやった。
そしてそいつらの表向きの会社もベレニケやマルシェがカストリア商会で完全に乗っ取ったというわけだ。
ベレニケといいマルシェといい、前の人生では他人を踏みにじり人に恨まれる人生だった奴らだ。
それをオレは徹底的に叩き潰し、自らの下僕にしたというわけだ。
しかしコイツらはそれを怨むどころか、今は感謝している。
前にやっていたよりもよほど大金が稼げる上、非合法でないので捕まる危険性が無いからだ。
「カストリア様ー、わたくしを褒めてくださいー」
「あァ。よくやってくれたなァ」
オレはひざまずいていたベレニケの黒髪をなでてやった。
「ああーん、カストリア様に褒めていただいたーん、これで明日も頑張れますわー」
……うーむ、ベレニケの変態ぶりに磨きがかかっているような気がする。
ベレニケは黙っていれば間違いなく誰もが振り返る様な美女だ。
しかし、今や完全にオレに命令されて喜ぶドM体質の同性愛者になってしまった。
まあ、それでも仕事は有能なのでこれはこれで見逃すか。
「カストリア様―。それで、東の貧民街で何をするのですかぁー?」
「そうだなァ。あそこには……工場を作ろう。そうすれば奴らに仕事を用意してやれるからなァ」
「流石はカストリア様ですぅ。わたくし、すぐにでも業者を手配いたしますわ」
貧民街のやつらが犯罪に走るのは、仕事が無いからだ。
それならそこに仕事を作ってやれば、犯罪も減るだろう。
そして東の貧民街は以前大火事で空き地があちこちに出来たまま、再開発もできずそのままになった場所なので、土地はいくらでもある。
「バロ、また忙しくなるぜェ」
「おう、おれも手伝うぜ」
オレはバロと東の貧民街に向かった。
◆
「相変わらずこの辺りは荒んでるなァ」
「カストル、辺りを見ろ。囲まれてるぞ」
「何だってェ?」
気が付いた時には既にオレ達は縛られ、どこかに連れていかれた。
「! ここはドコだ!? オレ達をどこに連れてきたァ」
「黙れ、クソガキ!」
この声は……間違いない、コイツはケプラーだ。
貧民街の奴隷商売の元締め。
オレが前の人生で戦った貧民街のチンピラ連中のボスだ。
「ガキィ。オマエのせいで俺様の商売はあがったりだ。世の中には侵してはいけない領域ってもんがあるんだぜ。それをわきまえずに人様の商売をジャマするとは。オマエらには死んでもらう」
「へッ。ドサンピンのチンピラがァ。まっとうに稼げないからオレに商売をジャマされて逆ギレかァ?」
ケプラーの蹴りがオレの腹を抉った。
「グゲェエ!」
「口の利き方に気をつけろ、クソガキ」
オレはここでケプラーを倒す方法を考えた。
奴は天然痘の後遺症で右手が不自由だ。
足で攻撃してきたのも、手が思うように動かないからだろう。
「きかねェなァ。テメェの蹴りは甘いんだよォ」
「クソガキ、マジで死にたいようだな」
オレはケプラーを挑発しながら気づかれないように縛られた手をランタンの傍に持って行った。
少し熱いがこれで思い通りになるはずだ。
ランタンの火であぶられたロープは少し焼け切れた。
少しでも切れればこの程度のロープ抜けなんて朝飯前だ!
オレは素早く手を解き、ランタンを叩き割った。
そしてそのガラスの破片を手に、ケプラーの首に突き立てた。
「ア、ガガ……グェ」
首から頸動脈をかき切られたケプラーは絶命した。
「テメェらのボス、ケプラーは死んだ。それでもオレに逆らおうってやつはいるかァ!」
貧民街のチンピラ共は、全員オレの前にひざまずいた。
「これからオレがテメェらのボスだ。わかったなァ!!」
そしてオレは東の貧民街を完全に掌握した。




