4 肉入りのスープ
「ハイヨォー! プロプス」
オレは乗馬を楽しんでいた。
このプロプスはアルジルと兄弟の馬だ。
まだ仔馬なので小さいオレでも乗る事が出来ている。
この人生で貴族のご令嬢に生まれる事が出来たのでオレは今、人生を満喫出来ている。
前の人生では逃走用や誘拐に馬車を奪った事等はあったが、乗馬という形できちんと馬に乗ったのは今回が初めてだ。
まあ、普段から鍛錬はしているので、そこらのガキには負けるわけない強さはあると自信がある、だから乗馬も初めてでも問題がなかったわけだ。
今、オレがこれだけ貴族の生活を好きに出来ているという事は、生き別れたポルクスは今、貧乏生活で荒んだ生活をしているんだろうなァ。
おっと、今の奴はポルクスではなくポルクシアか……。
まあ、同情はするが今更人生を代わってやるつもりもない。
奴がもし今度成長してオレの前に出てくるとしたら、今度は奴が盗賊として現れるのかもしれない。
だが、今度はオレが殺されるわけにはいかない。
その為には強くならければいけないんだ。
「さてと、家に帰るかなァ」
昔、オレには家と言える家は無かった、ねぐらはあってもオレの家が無かったからだ。
そう考えると今は家に帰れる、それだけでも幸せなのにあれ程の生活を出来ている。
もし神様がいるなら感謝したいくらいだ。
残念だがオレは前の人生では、人に心から感謝出来る事が無かった。
生まれを呪い、神なんかいるわけが無いと思ってたくらいだ。
神様、すまんな。
「ナーオ」
オレは目の前に白くて小さな美しい猫を見た。
猫の瞳はまるで高価な宝石のような美しさだった。
「お前、可愛いなァ。これ、いるか?」
オレは乗馬の際に食べる為に持っていたビスケットの欠片を白い猫にあげた。
猫はオレの足元に寄ってきて一言鳴いた。
「ニャーン」
「よォ、美味いかァ?」
「ゴロゴロ」
「フフッ」
この綺麗な猫を見ているとオレは何だか心がポカポカ温かくなってきた。
こんな感情を感じるなんて、前のオレの人生には無かったな。
「あっ! どこ行くんだ?」
猫はビスケットの欠片を食べるとすぐにどこかに消えてしまった。
「不思議だなァ、もういなくなった」
オレは姿を消した猫を少し探したが、見つからないので家に帰ろうとした。
その時、オレの通りかかった所で近くの村の子供が集まっているのが見えた。
「ヤメて、ヤメてよぉ……」
「へっ! このきぞくさまがぁ! どうせオラたちをバカにしてたんだべ!」
「そんなの……ちらないよぉ、あたちのおにんぎょう……かえちして!」
どうやら近くの村の子供達が誰か小さい子供をいじめているようだ。
って……アレは妹のアルヘナじゃねェか!?
「テメェら! オレの妹になにをしやがるッ!!」
オレは馬で妹のそばに走っていき、飛び降りざまにガキのリーダーに蹴りをブチかました。
「グへぇ!」
「……テメエら、なに人の妹いじめてくれてんだよォ!」
「なんだ! コイツ!」
「あのガキのアニキかよ!」
ガキの群れがオレに殴り掛かってきた、だが素人丸出しだ。
こちとら前の人生では、貧民街の泣く子も黙る盗賊団のリーダーを長年やって来た腕っぷしなんだぜェ!!
「アメェよ! がら空きだぜェ!!」
オレは攻撃をよけた瞬間に相手のガキの鼻っ柱を殴ってやった。
この攻撃は相手が勢いよく襲ってこればそれだけ威力が出るんだ。
殴られたガキは後ろに尻もちをついてしまった。
オレはそのタイミングを逃さず馬乗りになった。
これならオレよりもデカい相手も、もう相手ではない。
ボガッ! バキッ! ガッ!
いじめっ子はリーダーを倒された事で、誰も俺に手出しが出来なかった。
「ざまァねえなァ。それで終わりか!」
起き上がったいじめっ子のリーダーは、鼻血を流しながら涙を流してオレに大声でわめいた。
「きぞくの……むす子さまよォ、おれにかったと思ってるんだろ。でもなぁ、おれだって……お前みたいに毎日肉のスープが飲めれば、お前なんかに……負けるわけないんだよぉ!!」
「!!」
……オレはこの言葉を聞いて思い知った。
今目の前にいるのは、前の人生のオレだ!