34 スピカへのプレゼント
久々のポルクシアの側の話になります。
こちらはまだ6歳の時の話の続きです。
スピカが魔法使いのお爺さんの弟子になって数日が過ぎた。
「スピカ、おはよう」
「ポル……おはよ……う」
スピカは私をポルと呼んでいる。
彼女はまだ、そこまで会話が出来ている状態ではない。
でも毎日魔法使いのお爺さんが、スピカに魔法や読み書きの勉強を教えてくれている。
でも、私はあのお爺さんに見覚えがある様な気がする。
前の人生で私が、学校に行っていた時の魔法科の講師に、あんなお爺さんがいたはずだ。
確か……シリウス男爵という人物だったかと。
「スピカ、魔法使いのお爺さんって何て名前だった?」
「おししょう……さまは、しり……ウスさん」
やはり、あの人物がシリウス男爵だったのか。
まさかこんな貧民街にいたとは……。
「スピカ、シリウス爺さんによろしくね」
「うん……わかった」
あの魔法省のシリウス男爵が師匠なら、スピカは凄腕になるだろう。
魔法省とは、この国の魔法だけではなく、教育全般を仕切る省庁の事である。
スピカは朝、パン屋で火の魔法を使ってパン焼きの手伝いをしている。
スピカによる魔法の火加減で焼いたパンはとても評判が良く、パン屋の名物になっていた。
そして昼食の後、ゴミ捨て場でゴミを燃やしてお風呂を沸かす仕事をして、夕方風呂に入ってから夜は、シリウス爺さんの家に帰って魔法と語学の勉強をしている。
週に一日か二日は休みをもらい、その日はシリウス爺さんが風呂の火を沸かしている。
スピカが休みの日は私と一緒に遊んだり、一緒に勉強をしたりして過ごした。
そんな日々がスピカの毎日になり……しばらくが過ぎた。
スピカは……すれ違った人誰もが振り返るほどの美少女になり、表情も明るくなった。
「ポルクシア、おはよう」
「スピア、おはよう」
その日休みだった私達は、働いたお小遣いを持ち街の中心部の方に行ってみた。
街には大きな花屋があって繁盛していた。
「はい、いらっしゃい、いらっしゃい! 皇太后陛下が認めた黒薔薇が買えるのはこの店だけだよー!!」
花屋では行列が出来ていた。
どうやら街の人が言うには、侯爵夫人と皇太后による薔薇対決で皇太后に薔薇を献上したこの店が勝ったらしい。
それ以降この店は大繁盛だそうだ。
そうだ、スピカに花を買ってあげよう。
私とスピカは行列に並ぶ事にした。
「お嬢ちゃん、何が欲しいんだい?」
「その花をお願いします」
「はいよ、ヤマユリだね。リボンの色はどうする?」
「えっと……スピカ、何色が良い?」
「コレ……か、コレ」
「はい、ベージュかオリーブ色だね。では二色とも使おうかね」
花屋さんはブーケのリボンをベージュとオリーブ色のストライプで作ってくれた。
「はい、スピカ……これ、プレゼント」
「えっ!……ポル……クシア、あり……がとう」
スピカは顔を真っ赤にして、私が買った花束を嬉しそうに受け取った。
それと私はスピカに渡す物が他にあったのだ。
それを渡すタイミングとして、この花を買う事を前から考えていた。
「スピカ、忘れ物だよ」
そう言うと私はmの形をした純銀のブローチをスピカに手渡した。
「コレ……失くしたと思ってた。ポルクシア、ありがとう」
スピカが涙目になりながら私に強く抱きついてきた。
そしてヤマユリの花束は地面に落ちてしまった。
「ありがとう……ありがとう。コレ、アタシの唯一の大事な物だった……」
「スピカ、これを渡せてよかったよ」
「ポル……クシア……アー、アアーンアンアンアン」
スピカが人目もはばからず、大声で泣いていた。
スピカは一人ぼっちだった時、心の支えともいえる宝物を無くして、ずっと不安だったのだろう。
失くしたはずの宝物が見つかり、今まで我慢していた不安が一気に堰を切った様に押し寄せたらしい。
スピカはその後もしばらく泣き続けた。
それが落ち着いたのは、花屋の行列が無くなり、店じまいをする少し前くらいの時間だった。




