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2 カストリア・ヘミニス

双子の姉 カストリアの話です。

 ここはヘミニス家の邸宅。

 オレは日々の日課を過ごし、廊下を歩いていた。


「カストリア様、お早うございます」

「ああ、おはよう」

「昨日は6歳のお誕生日、誠におめでとうございます」

「ありがとう」

「滅相もございません、我々のような下々の者に挨拶なぞ、勿体のうございます」


 オレは相手が誰でも挨拶は欠かさない。

 それはオレのポリシーだからだ。

 だが、どうやら貴族の社会では下々に挨拶をするのは普通ではないらしい。

 オレの名前はカストリア、貴族の娘だ。


 しかし本当のオレは閃光のカストルと呼ばれたスラムの盗賊だった。

 その時、オレは生きる為なら何でもやった。

 盗み、詐欺、誘拐、麻薬売買、殺し、全ては生きる為だ。

 この国の底辺は、どんな事でもしなければ生き延びられない社会だったのだ。

 だが、今のオレは貴族のご令嬢様。

 今のオレが生きる為にするべき事は、礼儀作法、マナー、教養、知性を身に着ける事だ。


 こんなモノ、生きる為に泥を(すす)りゴミを拾ってでも食べた頃に比べればなんという事はない。

 何故なら失敗しても命を失う事はないからだ。

 失敗しても怒られる程度。

 それを次に改善すれば褒められてメシも食える。

 寝る場所も、寒い地べたや薄汚れた娼館の一室、ダニと(シラミ)(うごめ)く安宿じゃない。

 オレはここで生きる為なら、どんな事でも身に着けてやる!

 今は剣術の稽古が終わって朝食を済ませたところだ。

 今日は少しスープがいまいちだったと思う。

 だがオレがこんな贅沢言えるのもこの家にいるからだろう。


「あーん、あたちのおにんぎょうがー」

「アルヘナ様、アレは無理です。諦めてください。新しいのを用意しますから」

「やーだ、あのおにんぎょうがいいのー」


 どうやら妹のアルヘナが、人形を猫に取られてしまったらしい。

 猫は庭の木の上に人形を持って上ってしまったようだ。


「オレに任せなァ!」

「カストリア様! 危のうございますっ!!」

「へーきへーき、ちょっと待ってなッ」


 オレは軽く木登りをし、猫の前に顔を出した。


「ほーら、いい子だからそれを返しなァ、さもないとォー……」


 オレは猫を相手に凄まじい殺気のこもった目で睨みつけた。

 スラムのボスをしていた時、眼力でオレに勝てる奴は誰もいなかった。


「フギャアアーン」


 猫は俺を怖がって人形を木の枝に置いたまま、一目散に逃げだした。


「これだな、よっ……と」


 オレは木の上から下を目掛けて一気に飛び降りた。


「キャアアー! カストリア様ぁー!!」


 メイドが青ざめた顔をしていたが、こんな程度の高さから落ちて怪我するなんてよほどの馬鹿だ。


「ほらよッ、これ。いるんだろ」

「おにーたん、ありがとう」


 アルヘナはニコニコした顔で人形を持って嬉しそうにしていた。


 ……だが正直オレは複雑な感情を抱いていた。

 何故なら前の人生でオレはコイツを騙し、双子の弟に成りすまし散々利用した挙句殺してしまったのだ。

 だが弟もオレの唯一心を許した相方のスピカを殺した。

 俺が()()()()()を殺したのはその復讐だった。

 しかし、今オレの前にいるアルヘナは、ただのオレと血のつながらない妹だ。

 そう考えると複雑な心境にもなる。


「あ、おかーさま」

「アルヘナ、こんな所にいたのね」

「あのね、おにーたんがねこさんにとられたにんぎょうとってくれたんだよー」


 今オレを見下しているこの女性は親父の後妻だ。

 アルヘナは彼女の娘になる。


「お義母様、ごきげんよう」

「……」


 返事はなかった、どうやら前妻の子であるオレは、彼女にかなり嫌われているらしい。

 だが、敵意は有ってもすぐに殺しに来るスラムの奴に比べれば嫌われる程度。

 なんて事はない。


 ここには生きる為の安心が、全て保証されているのだ。

 食べる物、住む場所、きれいな衣服。

 オレの望んだ全てが、ここにはある。

 正直貴族の社会はクソッタレだと思う。

 だが幸いな事に男の跡継ぎのいない親父は、俺を男として育てたいようだ。


 ならオレはオレのまま、生きる為に貴族のマナーを身に着けてやる。


 さあ、次は勉強の時間だ。

 正直算数は苦手だが、生きる為には日々知識と教養を身に着ける。

 これが今のオレの生きる為の術なんだ。


 でも……やっぱかけ算って苦手なんだよなぁ。

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