25 おにーさま、だいすき
オレの知っている限り、前の人生でこんな場所に風呂場なんて無かった。
むしろ、貧民街に風呂なんてどうやって作ったというんだ?
「よう、坊ちゃんたち、ここは初めてかい?」
「あ、ああ。こんなとこに風呂場? いつからあるんだ?」
「もう二年位前かな。最初はみんなよくわからなかったけど、今じゃ無いと困るオレ達の生活の一部よ」
風呂はヘミニス家にもある。
それはかなり大きな浴場だ。
だがそれは、ヘミニス家が伯爵という大金持ちだから出来る事のはずだ。
普通の貧乏人がみんなで金を溜めたからって、風呂を維持するだけの金はどう考えても不可能だ。
「信じられねェ……」
どうやら今日の風呂はオレ達で最後のようだ。
行列はオレ達が最後尾になっている。
「カストル、風呂って……普通は貴族様の家にあるもんだよな?」
「ああ、でもお前はオレの親友だからうちの風呂使えてるだろ、それに執事は清潔で無いとなァ」
バロは庶民なので家に風呂はない。
普通の村の住民は川で水浴びするか、濡らした布で体を拭くくらいだ。
「おにーさま、こんなところにおふろがあるんですわね。ワタシにおうのではやくはいりたいですわ」
「まあそうだよなァ、コレは臭うわ」
「ハハハ、結構きつい臭いだよな。このままで屋敷にはもどれないぜ」
そんな事を言っている間にオレ達の番がやって来た。
「子供は無料だよ」
「良いって、これで頼むぜェ」
オレは金貨を一枚、入口のおばさんに支払った。
「こんな大金……これはとても受け取れませんっ!!」
「いいって、それならそれはスピカって子に渡してあげてくれよッ」
「スピカちゃんに……わかったわ」
おばさんは私の渡した金貨を大事そうにしまった。
◇
風呂場は男と女の二つに分かれていた。
「カストル、一緒に入ろうぜ!」
「すまねェ。オレ、アルヘナの髪洗ってやらないといけないんだァ」
「……そうか、仕方ないな。オレは一人で入らせてもらうぜ」
バロはオレを男だと思っている。
だが実際今のオレは女だ。
とても一緒の風呂に入るわけにはいかない。
「おにーさま、おねがいしますわ」
「ああ、アルヘナ。綺麗にしてやるからなァ」
オレは布を固く巻いて外れないようにしてアルヘナと一緒の貸し切り状態の風呂に入った。
そして下水の臭いのついた体と髪を、綺麗にお湯を何度もかけて洗ってやった。
「おにーさま、きもちいいですわ」
「よかったな、アルヘナ」
「ワタシ、しんじてましたわ。ひとさらいにさらわれたとき、おにーさまがきっとたすけてくれるって」
アルヘナはオレの事をお兄ちゃん、男だと思っている。
いつかは女だとバレるだろうが、わざわざ今は俺から言う必要はないだろう。
「ワタシ、おにーさまがだいすきですわ。おかあさまはおにーさまのこと、あまりすきではないようですが、もしきょうだいでなければけっこんしたいですわ」
コイツは結婚って意味を分かってるのか?
「ア……アルヘナァ、も、もしだ。オレが、お……女だったとしたら同じことを言えたのかァ?」
「とうぜんですわ! もしおにーさまがおねーさまだったとしても、ワタシのだいすきなひとにはかわりありません! やはりおねーさまとけっこんしたいとおもいますわ!」
……この話はやめておこう、これ以上踏み込むとドツボに落ちそうだ。
そしてオレとアルヘナは臭いが落ちるまで体を洗った後、大きな湯船に二人で入った。
「えーい!」
「アルヘナ? いったいなんなんだ?」
オレの後ろからアルヘナが抱きついてきた。
「おにーさま、いいにおいがしますわ。ワタシ、おにーさまだーいすき!」
「あ……ああ。アルヘナ、オレもアルヘナが好きだよォ」
「ほんとうですか、とてもうれしいですわー!!」
アルヘナがオレに更にギュッとしがみついてきた。
しかし、本当にこのままでいいのだろうか?
オレはアルヘナの将来の成長後に、不安を感じるのだった。




