174 スターライトルビーを探せ
ストーンバイターの子供はおろおろしている。
自分を助けてくれた親が完全に怒りに飲み込まれているからだ。
コイツらに涙を流すことができるかはわからないが、その悲しそうな気持だけは伝わってくる。
「さて、どうやってここを切り抜けるかだなァ」
「僕にできることがあるなら、手伝わせてくれ」
「テメェさっき足くじいてオレにお姫様抱っこされてたのに、大した言い方だなァ」
先ほどのお姫様抱っこがかなり精神的にきたのか、ポルクシアは顔を真っ赤にしていた。
オイオイオイ、前の人生では男同士だったが、今回は女同士だろうに。
「バ、バカッ! バカなこと言ってないでどうにかしようぜ」
ポルクシアは必死に今のバツの悪い状態から抜けたいらしい。
「まあそうだなァ、とりあえずテメェで考えてみてくれや」
「あ、ああ。そうしてみるよ」
オレはポルクシアと会話している間も、怒り狂うストーンバイターの猛攻をかわしてた。
「これ普通なら一撃当たっただけでアウトだぜェ」
オレが凄腕の盗賊でいくつもの修羅場をくぐってきたからどうにかかわせるが、これをただの貴族のバカガキが攻撃くらったら一瞬で肉塊の完成だ。
ポルクシアもオレと同じように攻撃を避けている。
やはりコイツの師匠は、あの暗殺者レイブンで間違いない。
常人にこんな動きで避けるだけの技量はないからだ。
「避けるだけならいつまでもできるけどよォ、アイツはどうやっておとなしくさせるんだァ?」
「魔法とかは効きそう?」
ストーンバイターは石で出来たようなモンスター。
生半可な火や氷の魔法、雷の魔法ではダメージを与えられないどころか、相手をもっと大激怒させてしまうだけだ。
「まさか貴族様の学校の実習訓練でこんなバケモノに出くわすとはなァ。テメェは前の時コイツには会わなかったのかァ?」
「僕がここの実践をした時は、もっと上の階層のコボルトリーダーの尻尾で終わらせたよ」
まあガキの実戦練習なんてそんなもんだ。
オレはその頃、ごろつき連中相手に殴り殴られでずっと路上で喧嘩の実践をしていたな。
「何だよォ、役立たず。もっと何か使える過去の記憶とかねェのかよォ!」
「そんな便利なものあったらもう実践してるっ!」
ここでポルクシアと言い争いをしても、何のプラスにもならない。
だがこのまま手をこまねいていては、いつかは体力がへたばった所にストーンバイターの強烈な一撃を喰らってオシマイだ。
ストーンバイターの体力はオレ達を遥かに上回る。
そんな怪物相手に目線をそらすには……、エサで釣るか。
「よォ、ポルクシア。テメェ何か使えそうな宝石とか持ってねェかよォ?」
「貧乏人の一般平民がそんなもん持ってるわけないだろ、バカか!」
ストーンバイターの好物は名前からして分かるように石だ。
それもかなり純度の高い宝石ならあのバケモノの機嫌も直るかもしれない。
……そうだ、思いだした。
オレの記憶が正しければ、ここにはアレがあったはず。
「仕方ねェ、ポルクシア。その辺りの鉱山を手当たり次第に魔法でぶっ飛ばせェ!」
「え? 何をするつもり??」
「いいから死にたくなけりゃァオレのいうことを聞けェ‼」
「……わかった」
ポルクシアは辺りの鉱山跡に氷の魔法や風の魔法を解き放った。
辺りの土壁が脆くなり、どんどん砕かれていく。
「壊すのは良いけど、何か目的あるんだよね」
「あァ、スターライトルビーがその辺りにあるはずなんだぜェ」
『スターライトルビー』
この鉱山跡で最後に見つかった巨大な宝石だ。
後の時代に冒険者によって発見されたが、それを手に入れるために何十人といった鉱夫や冒険者が犠牲になったか。
オレがそれをポルクシアの警備していた美術館から盗み出し、高値で闇市場に売り払った。
そのスターライトルビーがまだ今なら誰にも掘り起こされていないはずなんだ。
スターライトルビーが見つかるのが先か、それともオレ達がくたばるのが先か。
ここからは時間の勝負だ。




