117 正々堂々とした魔法対決
シリウス爺さんの鶴の一声で実技試験の残りの時間は私とカストリアの魔法対決になった。
貴族の子供達が大きく盛り上がった。
子供達の大半はカストリアを応援している。
彼らは貴族が平民に負けることが許せないのだろう。安っぽいプライドだ。
その中でもカストリアを応援しているのは大半が女子だった。
まああの整った見た目としては理想の王子様に見えるのだろう。
だが、一部の子供達は私を応援していた。
どうやら私が先ほど見せた魔力と、カストリアと同じように顔で理想の女の子に見えたのだろう。
彼女との対決は……前の人生以来。
「悪いが、手加減無しで行かせてもらうぜェ! 負けても怨むなよォ!!」
「そっちこそ、今の立場にかまけてサボってた言い訳とか聞かないからな! 覚悟しろ!」
私達は二人共不敵な笑いをうかべながら構えた。
今の戦いは前の人生のような命の奪い合いではない。
正々堂々とした魔法対決だ。
「行くぜェ!」
「来いっ!!」
スピカが審判として教師に借りた杖を振り下ろした。
「二人共……勝負開始っ」
そして私とカストリアの一対一の魔法模擬戦がスタートした。
「まずは……コレでも食らいなァ!」
カストリアは正面からファイヤーボールを連発した。
しかし私はこの程度ならフットワークだけで避けられた。
ここから一気に跳躍で決める!
「アイスダガー!」
私の作った氷の短剣はカストリアの腹部にかすった。
だがカストリアはそれを指先の炎を出して一瞬で溶かした。
とっさの判断力は流石だ。
「危ねェ危ねェ……」
「あれを避けるとは、流石だな」
私は獲物を狙うようにカストリアを睨んだ。
私の目を見たカストリアは少し動揺を見せた。
だがその後カストリアは別の場所を狙ったフェイント攻撃を仕掛けてきた。
しかし私はそれをとっさの判断で見切って避けた。
「クソッ! これも避けるとはなァ」
私はカストリアのファイヤーボールを右手からの氷の魔法で相殺し、左手で魔力の薄壁を作ってサンダーボルトを弾き飛ばした。
「同時に別属性の魔法を両手か、やるね! でもっ」
私は土属性魔法のクラックで小さな地震を起こした。
足元を狙えば攻撃は避けにくい。
この魔法は攻撃力よりもそういう使い方だ。
カストリアは脚を地面に取られ、転倒してしまった。
「もらったよ!」
「クソッ!!」
反撃の苦し紛れにカストリアは私の足元に氷を貼った。
「な!?」
「もらったぜェ!!」
油断した!
カストリアの張った氷の床は私の足を滑らせた。
こんな無様な姿をレイブンさんに見られたら、間違いなくどやされる。
「だから最後まで慢心するなと言ったのに……修行のやり直しだな」
木陰にレイブンさんの気配を感じたような気がしたが、気のせいだろうか。
「それまでぇっ!! 時間切れぢゃ」
シリウス爺さんの大声で私とカストリアはお互いの胸の前に突き立てた魔法のエネルギーを止めたまま動けなかった。
「これ以上やったら本当に殺し合いになりかねんわい……二人とも末恐ろしい魔力ぢゃったわ」
結局私とカストリアの魔法模擬戦は引き分けに終わった。
「次は少し休んだら……体力試験の実技だ。各自、体調を取り戻しておくように」
私とカストリアはお互いが睨み合ったまま、ニヤッと笑った。
「まさかこれほどとはね、僕がこれほど苦戦するとは思わなかったよ」
「テメェこそ、オレとあれだけ戦えるとはなァ。ビックリしたぜ」
そんな私達を二人の女の子が怒った表情で見ていた。
「お兄様! 何バカやってるんですか!?」
「ポル……無茶しないでよね」
「ゲッ! アルヘナァ」
「ス……スピカッ……ゴメン」
私達は四人で顔を合わせると全員で笑い出した。
前の人生で全員が熾烈な殺し合いと策謀に巻き込まれたことを知っているのは私とカストリアだけだった。
その時のことを考えると、今の状況がいかに幸せなのかを私は心底実感した。




