109 カストリアとの再会
「スピカちゃん、ポルクシアちゃん、お前さん達なら絶対にこの試験合格できるわい。昨日まで学習したこと、体験したことをしっかりと思い出すのぢゃ」
シリウス爺さんのおかげで、私達は万全の状態で受験できる。
相変わらず私達を見る貴族の子供達の目が軽蔑の目だ。
それもそうだろう。
親が軽蔑の目で見ているので、子供達は何の疑いも無くそれを鵜呑みにしている。
所詮見た目でしか判断できないのだ。
だがかつては前の人生の私もそうだった。
相手の中身ではなく、見た目だけですべてが決まると思い込んでいたのだ。
それはこの国の貴族に生まれたなら、そう思うのかもしれない。
現に今私を見て見下した笑いをしているのは、前の人生で私にヘコヘコ媚びていた男爵家の子供だ。
名前も忘れた程度の相手で、実力も大したことが無かった。
「ケッ、ビンボー人がおれの目の前にはいってくるんじゃねえよ!」
「坊ちゃん、見てはいけません。貧乏がうつります」
貧乏が見ただけでうつるわけがないのに、あの態度。
この国の貴族なんて所詮、中身の無いその程度しかいないのだろう。
「ふぉっふぉっふぉ、気にするでない。ああいった手の者は自ら誇れるものが無いのぢゃよ。だから家の自分のものでもない、親の権威で威張るしかできんのぢゃて」
シリウス爺さんの言うことはもっともだ。
それはシリウス爺さんが長年生きてきた中で、身に付けた経験なのだろう。
「大丈夫です、僕は気にしていませんから」
「そうかい、強くなったのう」
私とスピカは周りの目など無視して皇国学習院の正門を入った。
そこでシリウス爺さんは知り合いに会ったようだ。
「おや、そこにおるのは……ベレニケちゃんぢゃないのか?」
「その声は……もしや、シリウス男爵様? 最近全く見かけませんでしたが、一体どちらに??」
「儂は弟子の付き添いぢゃ。二人おるでのう……」
そこにいたのはベレニケ男爵だった。
確かベレニケ男爵は、レイブンさんが屋敷に入った時にはひどい目にあってもう立ち直れないはずではなかったのか?
だがそこにいたのは間違いなくベレニケ男爵本人だった。
しかしなぜか前の人生で見たような、刺々しい苛烈さは全く感じられない普通の知的な女性のように見えた。
「シリウス男爵様の弟子ですか? 一体それはどこの貴族様のご子息様の家庭教師をしておられたのですか?」
「いや、儂は平民の特待生枠の付き添いぢゃよ」
そこにいたのは貴族の服装をしたカストリアだった。
だが彼女はまるで男のような姿をしている。
「特待生……ですか? ですがあの制度はあってもほとんど使われていなかったかと……」
「儂が保証する。あの二人は天才ぢゃ!」
「それは聞き捨てなりませんわ。わたくしが育てたカストリア様こそ、最高の天才なのですわ!」
どうやらカストリアも、皇国学習院の受験をするらしい。
彼女は幼年学校からの入学とは違った人生を歩んでいるようだ。
「まあよかろう、儂の一番弟子ぢゃったお前さんぢゃが……最近はあくどいことをして儲けておったと聞いておるぞ。その頭をなぜ悪事に使ったのぢゃ?」
「シリウス男爵様、もうわたくしは悪いことはしておりません。ここにいるカストリア様がわたくしの目を覚まさせてくださいました」
そうか、あの時ベレニケがひどい目にあっていたのはカストリアの仕業だったのか。
どうやらその後改心したベレニケ男爵が、カストリアの家庭教師をしていたという流れのようだ。
そしてシリウス爺さんがジロジロとカストリアを眺めていた。
そんな風に見ていると、変態スケベジジイと勘違いされかねないぞ。
「ふむ、不思議な運命を感じる娘ぢゃ。まるで二度生きているように感じるわい」
やはりシリウス爺さんはタダものではない。
今そこにいるカストリアも二度目の人生だと見抜いたようだ。
「まあよい、今のお前さんの目には濁りが見えん。そのまま人生を進むがよい」
「あ、あァ。爺さん、ありがとうなァ」
そしてカストリアとベレニケ男爵は挨拶をしてその場を立ち去った。




