10 襲い来るユピテル
ユピテルは私やレーダ母さんに優しく接している。
何かと理由をつけては、ぬいぐるみや安いお菓子等を持って家に来ている。
家の近所の人には挨拶を欠かさず、良い人をアピールしているようだ。
そして彼のアドバイスとして、私は外が危険だから家の中にいるようにと、一人で外出できなくされてしまっている。
だが、私はこの手口を知っている。
まずは外堀を埋めてしまい、外部への連絡手段を断つ。
そして、こういう詐欺師は初期投資を怠らない。
何故なら最初にかかった費用は後に搾取する事で、確実にそれ以上の物を取り返すからだ。
「ポルクシアちゃん、おじさんと遊ぼうよ」
「僕、勉強があるんです」
私は勉強をすると言ってはどうにかユピテルとの接点を作らない様に避けていた。
だが、ついにその日が来てしまった。
「ポルクシア、母さん今日は隣町まで仕入れがあるから、明日までお留守番お願いね。ユピテルさんにお願いしておいたから」
「レーダ母さん、僕……僕」
恐れていたことが起きてしまった。
私は鍵を閉めて自分の部屋に閉じこもっていた。
怖い……誰か、助けて。
神様がいるなら助けてほしい。
私は前の人生では神など弱者がすがる偶像に過ぎないと侮蔑していた。
もう二度とそんな事はしない……だから助けて。
「ナーン」
「え……キミ、誰?」
私の前の前には美しい瞳の白い小さな猫が現れた。
どこから入ってきたのだろう?
私はその美しい瞳に吸い込まれそうになった。
「キミ、可愛いね。僕……キミみたいな子大好きだよ」
「ゴロゴロ……フミャーン」
私はこの猫を撫でていると、少しだけ不安が和らぐような気がした。
「これ、あげる」
私は手元に持っていた味の無いクラッカーを猫にあげた。
ユピテルのくれた物だ。
だが味も何もないただの小麦を水で溶いて焼いたような味だった。
「ニャンッ」
「あ、どこへ行くの??」
猫は姿を消してしまった。
そして私は一人ぼっちになってしまった。
レーダ母さんがいない、それだけでこれ程不安になるなんて……。
私は薄い布団に入って包まり、早く時間が過ぎてしまうのを願い続けた。
そして夜になってしまった。
私は恐怖の為、部屋で眠れずに布団の中に包まっていた。
ドンドンドンッドン!
ガッガッ!!
「開けろ! 開けろってんだ!!」
強引に鍵のしまったドアを叩き、わめく声、ユピテルの声だ。
普段の優しい声ではない、奴が本性を現したのだ。
「開けなければぶっ壊すぞ」
私は無視し続けた、だがユピテルは強引に鍵を壊して部屋に入ってきてしまった。
「へっへっへ。もう逃げられないぜ」
「い……嫌、来ないで」
「いいねえ、嫌がる顔を襲うってのはそそられるぜ」
「僕を……どうするの」
ユピテルは下卑た笑いで私を見ていた。
「そりゃあ決まってるだろうが! オレのオンナにしてやるんだよ。あの女も娘をキズモノにしてしまえばオレを追い出したくても追い出せない。お前らは親子でオレの言いなりの奴隷として死ぬまで働き続けるんだよ!」
「い……イヤ……助けて」
ユピテルはベッドの上に覆いかぶさるように、四つん這いになって迫ってきた。
そしてズボンを脱ぎだしたのだ。
「いいねえ、その顔。初物をいただいた後は娼館で稼いでもらうからな」
「きゃああー!」
私は恐怖でおかしくなってしまいそうだった。
しかし、どうにかここを切り抜けないと、一生地獄の生活が待っている。
「えぇい!!」
私は下から四つん這いで襲ってきたユピテルの股間を、思いっきり蹴り上げた。
「うごぉ!!」
ユピテルが股間を抑えてうずくまっている。
私はその部屋にあった花瓶を、両手でユピテルの頭に叩きつけた!
「ええーーい!」
ガチャアン!
股間を蹴り上げられ、頭に花瓶を叩きつけられたユピテルは痛そうにうずくまっている。
私はその間に服も着替えず、裸足で外に飛び出してしまった。
でも私には行くべき場所が分かっていた。
この時間なら裏通りのこの辺りも、丁度皇国警備隊が巡回している時間だ。
私は警備隊に助けてもらう為、一目散に走った。




