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9 招かれざる男

ポルクシアの話です。

前の人生における不幸の原因が今回の話で色々と見えます。

 私はモヤモヤした気分で、スピカの落としたブローチを見ていた。

 これは間違いなく本物だ。

 何故なら私は前の人生で、これと全く同じ物を見ている。

 これは間違いなく、ビルゴ公爵夫人が持っていたm型の純銀のブローチと同じ物だ。


 だが、前の人生で私が処刑したスピカの持っていたビルゴ公爵夫人との血縁を意味するブローチは、貧民街の細工師が作ったそっくりの銀メッキの偽物だった。

 何故そのブローチが偽物かと分かったかというと、天秤を使うのは出来なかったので、同じ量の水を入れた器に同じブローチを沈めて、漏れた水の量で銀の量を確認したのだ。


 これは古代の学者による測定法。

 私は昔から書物を読むのが趣味だったので、この方法を使ったのである。

 この方法で測定したスピカの持っていたブローチは、銀メッキの偽物とバレた。

 それこそ彼女が偽物であり、公爵家を乗っ取ろうとした盗賊であるという決定的な証拠になったのである。


 だが、今の私はそれこそが間違いだった。

 彼女は本当のビルゴ公爵夫人の生き別れの娘だったのではないのかと思っている。

 ビルゴ公爵夫人は昔、馬車での旅行先で事故に遭い、本人も大怪我をしたが、いくら捜索しても娘は見つからなかったのだ。


 私が最後に会った時、彼女は余命いくばくもない不治の病だった。

 そんな夫人は生き別れた娘を思いながら、その思いを果たせずに亡くなってしまったのだ。

 娘と生き別れた夫人の心の隙間に入り込んできたスピカを、私は許せなかった。


 それこそが私がスピカを処刑した一番の原因だった。

 だが、それがカストルと私の決してお互いを許せない最後の一線を越える事になってしまったのだ。

 唯一の心を許した相方のスピカを殺した私への復讐として、カストルは私の血のつながらなかった妹で、私の唯一心を許したアルフェナを殺した。


 もう一度会えたならスピカとしっかり話をしたい。

 私はそう思っていた。

 あの何者も全て敵だと見ている荒んだ目、彼女は今も辛い人生を送っているのだろう。


 だが私にはもう一つの疑問があった。

 何故、カストルはあれだけ愛情を注いでくれたレーダ母さんと離れ、一人ぼっちで生きてきたのか?

 私にはその時は分からなかった。


 だが数日後、その謎が解明できた。


「ポルクシア。母さんね、一緒になってほしいって言ってくれている人がいるの」

「レーダ母さん。僕、父親なんていらないよ、母さんだけいればいい」

「でもね、ポルクシア。やはり片親よりも貴女にはきちんとしたお父さんが必要だと思うの。とても良い人だから一度会ってみましょう」


 私は嫌な予感が止まらなかった。

 そして数日後、その男は現れた。


「ポルクシア、この方がユピテルさん。真面目で仕事熱心な人なの」

「はじめまして、ユピテルです」


 私は一発でこの男の実態を見抜いた。

 何故なら私は前世では尋問官や人事担当をしていたので、嘘をついている人間の内面を見抜くのは得意技だったのだ。


 この男は他人を食い物にして生きているクズだ!


 私はユピテルに対して初対面で最悪の感情を抱いた。

 ニコニコしている奥の魚の腐ったような目。

 典型的な詐欺師の目だ。

 他人に対する尊敬も無ければ人に優しくしようという意識もない。

 その癖、口だけは上手く騙されてしまったが最後、コイツは骨までしゃぶりつくすクズだ。


 私はカストルの人生の転落の一番の原因を一瞬で把握した。

 彼はレーダ母さんと一緒になったこの男のせいで、人生の全てを奪われたのだ。

 このままでは私も彼と同じ目に遭ってしまう。

 何が何でもコイツを家から追い出さないと、今度は私の命すら危ない。


「はじめまして、ポルクシア・スパータです」

「へえ、可愛いねー。お母さんに似て美人だ」

「えへへ、ありがとうございます」


 嘘である、レーダ母さんと私には直接の血のつながりはない。

 そういう意味では似ているわけがないのだ。


 そしてこの男のニコニコした中のいやらしい目に、私は恐怖を感じた。

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