第91話:じっしぇん、かいち! の、ひ!
ばぁちゃの励ましによって、やる気を漲らせたソラちゃんが、森の中に入っていく。
もちろん、前衛ということで先頭だ。
隣りには、剣術特待クラスの男子、フェルノ君、12歳。
基本は、このフェルノ君と一緒にアタッカー2トップ。
少し後方に、剣術Aクラスの男子、ベルフェッド君、12歳。
ベルフェッド君は、中衛という立ち位置で、前衛のフォロー、後衛の護衛としての役割を担う。
後衛はアリアちゃんと、クロースちゃん、13歳。
凄くバランスがとれているチームだね。
問題は……。
「うんっちょ!」
地面から出ている木の根の段差を、手をついてぐっと力を入れて体を持ち上げて、なんとか登りきる。
フェルノ君は、同じ段差をひょい! と跨いでいくんだけどね。
フェルノ君の身長は155センチほど。そしてソラちゃんは99センチ。
この身長差だと、ソラちゃんにしたら、ちょっとした段差じゃなくて、壁ですよね。
じゃ~、7歳のアリアちゃんはってことだけど、身長130センチ。
6歳のソラちゃんとの身長差は30センチですよ。
「また、だんしゃ」
目の前には、高さ50センチの壁がそそり立つ。身長の半分の高さがあれば、それは段差ではなく壁なのだよ。
「フェルノ、先に行け」
「おっけ~」
ベルフェッド君の指示で、フェルノ君が段差を軽く超えていく。
そして、後ろからベルフェッド君に抱えられ、そのまま壁を越えたフェルノ君にひょいっと手渡されて、すとん、と降ろされる。
これは、なんていうか、男の子に抱かれるのは恥ずかしいというか……。
――らくち~ん! だったね!
うん。ソラちゃんが気にしないならそれでいいよ?
そんなことをしながら、ゆっくりと森の中へ進んでいくと、ピリピリと肌に感じた。
後方から付いて来てくれていたアヤネちゃんが、みんなにストップをかける。
「みんな! 前方20、ゴブリン3」
木々の狭い隙間で陣形も何もないけど、一応、前方に行く。
「ちぇかじゅのだ! いんちかいほう!」
世界樹の枝を剣に変形させて、因子を体中に駆け巡らせる。
――ソラしゃん、こうたい、しゅる?
そのままいけそう?
――やってみたい!
おっけ。
まあ、ゴブリンなら大丈夫でしょ。
剣を構えて待っていたら、前方の茂みからゴブリンが飛び出してきた。
ゴブリンの大きさは、身長120センチほど。
わたしよりも大きなゴブリンが、棍棒を振り上げて飛び掛ってきた。
「てい!」
ま、アヤネちゃんと模擬戦しているから、ゴブリンのその動きは隙だらけで、ソラちゃんが剣を斜めに振り上げると、ゴブリンは真っ二つになって吹き飛んだ。
フェルノ君は、ゴブリンの棍棒を剣で受け止めて、腹に蹴りを入れて体勢を崩させると、素早く横に身をかわした。
「ウインドカッター!」
「ストーンランス!」
アリアちゃんとクロースちゃんの魔法が体勢を崩しているゴブリンに直撃。
風の刃が胴を切断して、土の槍が頭を貫通した。
あれ? ゴブリンって弱い?
『ぎゃぎゃ!』
すぐ横の木の裏から、ゴブリンが飛び出してきた!
慌てて振り向いたけど、ほとんど距離がない!
「きゃ!」
『ぎゃぺ!?』
何故かソラちゃんと同時にゴブリンが悲鳴を上げた。
よく見ると、近くの木から枝が伸びて、ゴブリンの足に巻きついて宙吊りにしてた。
【世界樹の樹皮のペンダント(ちぇかじゅじゅだんと)】
効果:危機の自動防衛
【精霊女王の加護】
精霊女王の愛する子に危害を加えようとするものは、森の木々が許しません!
うわ~。何、これ~?
――びっくりちたね!
えっと……それはゴブリンにビックリしたのか、加護にビックリなのか……。
保護者達の過保護の内容が、凄くチートなんですけど?