第9話:おひしゃま、ぽかぽかのひ!
「うう……」
だから言ったじゃん。あれ食べ続けると危険だって。
ピンチです。
あのリンゴを食べ続けた結果、お腹を壊しました。
いや、あれしか無かったから、仕方ないんだけどね。
魔力暴走とかを想像してたけど、別の危険が潜んでた。
「お嬢様、体を拭きますから、横をお向きになってくださいませ」
と、いやな顔を1つもしないで世話をしてくれてるのは、トレンティーさんが世話係として連れてきてくれたエルフ族のお姉さん。
名前はジェノさんという、見た目は16歳くらいの、髪が緑色の可愛い人だ。
「はい、綺麗になりましたよ~」
「あい……」
「お薬を飲みましょうね~。それにしても、こんなにお腹をこわすなんて、あの人達は何を食べさせてたんでしょうかね?」
約1週間ほど、毎食リンゴのみです。あ、最初は狼の肉を食べらされそうになりました!
「ジェノ……」
「あ、はい」
ベッドから抱き上げられて、床に置かれている桶の上に立たされる。
「はい、しゃがんでしましょうね」
ま、こういうことである。桶がオマル代わり。
ちなみに、苦しんでいるのは理性である俺だ。感情なソラリスは、お腹を壊してからというもの表には出てきてない。
自分がいやな思いをするときは俺に丸投げ。すごく困ったちゃんだ。
ま、いいんだけどね。どっちも、わたし、だし。
薬が効いたのか、朝から苦しんだ腹下りは、昼過ぎには回復した。
「パパのとこ、いく!」
回復した途端に主導権が入れ替わる……ていうか乗っ取られた。
もうこうなったら止められない。
廊下を全力疾走。ジェノさんは普通に歩いて付いてきているけどね。
幼児の病み上がりの全力疾走なんてこんなもんだ。
「うぅぅぅん!」
はい。背伸びしてもドアノブには手が届きません。
こういうときどうする? 教えただろ?
「ジェノ……おにぇがい……」
「――! かわいい……」
お~い、ジェノさ~ん。洗脳されないでよ~。
まあ、惚けながらも、ドアを開けてもらえて、中に入ってすぐさまダッシュ!
「かかか! お姫様の登場だ。ほ~れ、よしよ――」
頭を撫でてくれようとしたホーネさんを、身を翻して華麗にスルー!
きっと泣いてる! 骨しかないけど、きっと泣いてる!
すいません。あとで叱っておきますんで、ほんとすいません。
「パパ!」
「ソラリス! 会いたかったよ~」
抱き上げられて、とろけるような甘い喜びの感情が広がってくる。
「わはは! そのまま散歩に行ったらどうですかな?」
「そうじゃな! 今日はお外に行こう」
「おしょと~!」
リュードさんのアドバイスで、そのまま抱かれたまま、外に行くことになった。
初めての外だけど、感情が大人しくしてくれるんだったら俺は賛成だ。
というか、今の俺に拒否権はない……。
外に出ると、まだ昼なのに暗かった。
それもそのはずで、空には厚い雲が渦巻いてた。
暗く、肌寒ささえ感じて、ブルっと身震いしてしまう。
「くりゃい……しゃむい……」
「おお! ごめんな、ソラリス。人間が入ってこれないように、天候結界を張っておったんじゃ。すぐに吹き飛ばしてやるからの」
パパが右手を上げて一仰ぎすると、雲がぱっと消えて太陽の光が降り注いだ。
右手だけで……しゅご~い!
「どうじゃ。お日様の光で暖かくなったじゃろ?」
「うん! おひしゃま、ぽかぽか」
心もぽかぽかだ~。
……いや、ちょっと待って。この世界の状態を知らないけど、可愛い娘1人だけのために、結界を解いちゃって大丈夫なのかな?
大丈夫だよね? 大丈夫って言って!