第89話:いやっていったら、きめられた! の、ひ!
なんやかんやと、楽しい学園生活も、もう少しで夏季の長期休暇が迫ってきた。
そこまでくると、みんなの剣術や魔法の腕もかなり上達している。
「てことで、昼からは街の外の森で実戦研修をするぞ」
おお!? 実戦なんてあるのか!
けど、この学園は剣術と魔法の授業はあるけど、実質は貴族学校だよね? 実戦って必要なのかな?
「ゆうちゃぁぁぁ!」
「な、なんだソラちゃん?」
「ソラしゃんが、ひちゅよーかなって!」
「うん? 自分のことをソラしゃんって言ってるのか?」
「あたちは、あたち! ゆうちゃのばぁぁぁか!」
ソラちゃん、落ち着いてぇぇぇ!
「ソラちゃん、その言葉はいけませんわ」
「あ、あい……」
アリアちゃんに抱き締められて、頭を撫でられてやっと落ち着いてくれた。
「俺、そんなに嫌われるようなことしたかな……」
勇者よ、無視されないだけありがたいと思わないとダメだぞ。
人見知りのソラちゃんが、ここまで食って掛かるってことは、少なからず懐いてるってことだからね。
「まあ、必要かって問いだが、貴族の役割は、最も大事なのは民を守るってことだ。君達は力を持っているからこそ貴族だ。モンスターの襲撃、盗賊の襲撃など……」
「はなち、ながい」
すんません! これは本当にごめんなさい! ソラちゃんの言動は予測不可能なんです!
「……簡単に言うと、弱きものを守る力を身につけろということだ」
「なるほど~」
ほんとに分かったの?
――まもる!
うん……そうだね。
「では、森での実戦は、このクラスでチームを組むことになる。前衛、後衛の配置を決めるが」
――ソラしゃん。いいこと、かんがえちゃった。
うん? 何?
――ゆうちゃのいうこと、いやいやってちて、こまらしぇちゃう。
はい? え、ちょっと待って!
「え~と、アリア王女は後衛で魔法支援だ。炎系の魔法は使うなよ。木々に燃え移って皆が丸焼けになるからな」
「はい!」
「最後に、ソラリス王女。前衛……と言いたいところだが、狼が怖いっていうことだったな。森にはウルフのモンスターが出る。これを考慮して、森には入らず、後方陣地で治癒魔法で皆の治療を」
「いや!」
――むふふ~!
ソ、ソラちゃん? 話はちゃんと聞いたほうが……。
「え? 森の中に入りたいのか? ウルフが出てきたら怖がるから森の手前の陣地で」
「いやなの! い~や!」
――こまってる? こまってる?
うん。わたしが困ってる。
「そうか……皆を守るってことで、恐怖を克服しようとしてるんだな。よし! ソラちゃんの気持ちと剣の腕を認め、前衛に配置する! みんなも、ソラちゃんの恐怖を克服する手助けをしてやってくれ!」
「「「はい!」」」
「……どちて?」
――こうなってるの? がうがう、こわいよ?
そうだね……。一緒に頑張って、克服しようね……。