第87話:じぇんりょく、だしゅ! の、ひ!
パパの体にしがみつき、降りようとしないソラちゃん。
パパの巨体に興味津々で、包囲網を狭めてくる孤児院の子供たち。
最強の聖女、子供達に完敗である。
「あなたたち、急に静かになってどうしたの?」
孤児院の建物の方角から、心がぽかぽかするような、優しい声が聞こえてきた。
「あら、グランゾ様と、ソラちゃん?」
「ばぁちゃ、ばぁちゃぁぁ……グス」
半泣き状態で、ばぁちゃに向かって手をのばす。
「あらあら。グランゾ様、よろしいですか?」
「おお、もちろんじゃ」
パパからばぁちゃへ。ソラちゃんは、ばぁちゃに抱きついて、少し落ち着いた。
「院長先生、この大きい人だれ~? その女の子は~?」
「だめですよ、そんな聞き方は。この方は魔王国の」
「わはは! マナファリス殿、俺は今、ただのソラリスのパパとしてここに居るのだ。俺はグランゾ。マナファリス殿に抱かれているのは、俺の娘のソラリスじゃ」
「「「よろしく~」」」
「よろしくの。いい子達じゃの」
ほら! ソラちゃん! 挨拶しないと、いい子じゃなくなってパパに嫌われちゃうよ!
「よろちく!」
この手にかぎる。
「はい。ソラちゃん、降りましょうね」
「うん……」
降ろされてすぐに、ばぁちゃの後ろに隠れる。
が、それで遠慮しないのが孤児院の子供たち。
「わたし、マリー、5歳」
「ぼくは、ケリー、4歳。マリーは、ぼくのお姉ちゃん」
「俺は、マグア、8歳で冒険者やってる。で、この子は最年少のソフィア3歳」
囲まれて、自己紹介されて、あうあう、と混乱状態のソラちゃん。
「ソラリス! 6しゃいでしゅ!」
「え!? 6歳? 5歳のマリーよりも小さいじゃん」
マグアが驚く。
訳ありなんだから追求しないでって、言ってやりたい。
「わけあり!」
言ってやりたいけど言わなくていいから!
「そ……そうか。ごめんな」
こっちこそ、謝らせちゃって、ごめんね!
自己紹介をした後は、ソラちゃんも皆と打ち解けて、おにごっこをしている。
鬼はパパで、ゆっくりと、ドシン! ドシン! と足音を響かせながら追ってくるから、わりとみんな必死で逃げてる。
そんなことをしながら遊んでいると、荷車を引いた男性が駆け込んできた。
荷車には、大怪我をおった男性と男の子が乗せられていた。
「マナファリス様! 治療を! 建築中の建物が倒壊した!」
「それは大変! ヒール!」
ばぁちゃがヒールを唱えると、怪我をした2人の体が優しい光に包まれて、出血は止まったけど。
「私の弱い治癒魔法だと、大怪我を治しきれないわ!」
ヒールをかけ続ければ治せそうだけど、その前にばぁちゃの魔力が尽きちゃいそうだ。
――ソラしゃん!
うん!
「『ひーる!』」
ばぁちゃのヒールと混ざり合い、男性と男の子の傷が瞬く間に消えていった。
効果はそれだけじゃなくて、ばぁちゃの体が白銀の光に包まれた。
『我らが聖女に慈愛を与える者、マナファリスに、聖なる祝福を授けよう』
「え? 精霊様? 私の中で、聖なる魔力がみなぎってますね」
ばぁちゃの白髪が、一部だけど白銀に変わってた。
ばぁちゃの変化に、孤児院の子達がわあわあ騒いでると、追加で荷車に乗せられた怪我人が運ばれてきた。
「すみません! 治療を!」
「これは大事故なのかの? これで最後の怪我人なのかの?」
「いえ……倒壊した瓦礫の下に埋まった人がまだ10人ほど……」
うわ! 大事故じゃん!
「パパ……」
「ソラちゃん。ここは私1人で大丈夫。聖なる祝福を貰いましたからね。行ってあげて」
「あい! パパ!」
「うむ! 助けに行こう!」
パパに抱かれ、現場に到着すると、崩れた瓦礫が大通りまで溢れ、その下から呻き声が聞こえてきていた。
数人の男性が瓦礫を必死に持ち上げていて、その側で女性が泣き喚いている。その女性の子供が瓦礫の下敷きになってしまったらしい。
「皆! 下がっておれ!」
パパが両手を突き上げると、大量の瓦礫が全て、宙に浮き上がった。
その瓦礫の跡には、数人の人が倒れている。全員重傷っぽいけど、微かに動きがある。
よかった! まだみんな息があるよ!
「ソラリスや、いけるかの?」
「あい!」
――ソラしゃん、じぇんりょく、だしゅ!
もちろん! 出し惜しみはしないよ!
「『りざれくしょん! えりあえくすひーる!』」
りざれくしょんが、致命傷からをも命を繋ぎ止め、えくすひーるが全ての傷を癒していった。
「聖女様! ありがとうございます!」
意識を取り戻した子供を抱いて、女性がお礼を言ってきて。
「聖女様だ!」
「「「聖女様!」」」
群集に囲まれた!
ソラちゃんはすぐにパパに抱きついて。
「パパ……かえろ。おうち、かえろ……うわぁぁぁん!」
極度の人見知りを爆発させていた。