第86話:いっぱい、いた! の、ひ!
周囲の視線を集めながら、街を歩く。パパがだけど。
教会は冒険者ギルドの区画と離れていて、そこに向かうほど住宅が多くなっていく。
この区画になると、店の種類も大きく変わって、服飾店や食堂、ちょっとした宝石店なのどもあった。
「パパ、ふく、うってるよ?」
「う~ん? あれはダメじゃな。生地が弱い」
「よわいの?」
「ああ。ソラリスの着ている服は、イービル・クイーン・スパイダーっていう蜘蛛の糸から作られててな、対物理、対魔法防御が凄く高いんじゃ」
「ほへ~」
うん。理解してませんね。
「どちて、その、いーぱくーだー……」
はい! ソラちゃんは4文字以上の名前は覚えられません!
「うってないの?」
「スパイダーは、人族の兵士が100人で挑んでも、全員がエサになるだけじゃしな。それだけ強くて、人間が糸を素材に使うのは無理じゃろ」
「どやて、このふく、つくったの?」
「うん? クイーン・スパイダーは知能が高くての。そういう知能をもったモンスターは、パパとトレンティーの友人なんじゃよ。だから、糸を貰うことが出来るんじゃ」
「なるほど~」
――おぼえておいてね、ソラしゃん。
自分で……あ~うん。覚えておくよ~。
なんて、数ある店を見ながら、住宅区にある教会に着いた。
魔王が教会を訪れる……凄いことが起こってますよ?
ソラちゃんは、パパから降ろしてもらって、トコトコと、教会の礼拝堂の中に入っていく。
この時間は礼拝している人も居ないようで、ソラちゃんの足音だけが広い空間に響く。
中央で立ち止まり、大きく息を吸って……。
「ばぁぁぁちゃぁぁ――ごほ! けほ! けほ!」
咽た! 普段はこんな大声出さないからね!
そして、当然の如く。
ばん! がちゃ! と、奥の扉から教会の聖職者さん達が飛び出してくるわけで。
「何事ですか! 今の大声は何です!?」
数名の女司祭さんが、周りを警戒するように視線を回す。
「ばぁちゃ、けほ!」
「まあまあ、小さいお嬢さん、どうしたの?」
すっと近づいてきて、優しく背中を撫でてくれる。
「ソラリス、大丈夫かの? あ~、すまんがそこの人、ソラリスが咳き込んでしもうて、慌てて駆け寄ろうとしたら、入り口の上の壁に顔をぶつけて壊してしもうた」
「んっまぁぁぁぁ! げほ! ごほ!」
連鎖しちゃった。
ていうか、ぶつけたのは頭じゃなくて顔なんだね。うん、さすがパパの巨体だよ。
壊れた壁の片付けと、弁償問題を解決したあと、ばぁちゃは街外れにある孤児院に居ることを教えてもらって、そこに向かった。
て、ソラちゃん、もう叫んじゃダメだよ。
――けほけほ、くるちかった。
ね~。
「ここじゃな」
と、着いたみたいだね。
中央に小さな礼拝堂と、右側には治療院、左側に孤児院が隣接されている、小さくて古びた建物。
孤児院の敷地内では、3~5歳くらいの子が3人ほど遊んでいて、8歳くらいの子が剣の素振りをしているのが見えた。
で、その子たちはパパの巨体を見て、動きを止めておもいっきり注目しちゃってる。
さて、このまま突っ立ってても仕方がない。
ソラちゃん、ばぁちゃ、呼ばないの?
――うぅぅ。はじゅかち。
は? あれ? 視界が暗いぞ? パパの体に顔を押し付けてるのか。
「どうしたんじゃ、ソラリス? そんなに力をこめて抱きついたら降ろせないじゃろ?」
「や!」
ああ! 同年代の子がいっぱい居て、人見知り発動しちゃってるよ!